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生命保険の福利厚生プランとは?節税になるって本当?

とあるお取引先から質問されたこともあって、「生命保険の福利厚生プラン」についてまとめておきました。

ご検討中の方や事業保険を販売していこうと思ってるセールスの方に読んでいただければと思います。

※こちらは執筆時点での法律や税制に基づいています。また、記述は全て一般的な事実や事例の紹介であり、助言・加入の推奨をするものではありません。個別事案についてはご自身の責任で税理士等にご確認ください。

尚、ちゃんとした書籍はこちらの記事でご紹介しています。

00|福利厚生プランとは?

福利厚生プランとは、ざっくり言うと「企業が加入する、従業員全員を被保険者とした養老保険」のことです(※通称です。またの名をハーフタックスプラン、ともいいます)。

これだけだとピンとこない、というかそもそも養老保険って何?なんで従業員を保険に?という感じだと思いますので、解説していきます。

まずは、法人で加入する保険には大きくこの3つのタイプがあるんだな、ということをご認識ください。

3つの保険タイプ(死亡保障商品)
定期保険:保険期間の満期が定まっている+満期時点での返戻金がゼロ
終身保険:保険期間の満期が定まっていない
養老保険:保険期間の満期が定まっている+満期時点での返戻金アリ

定期保険と終身保険の詳述はしませんが、これらは企業が加入する場合(=企業が契約者・保険料負担者)の税務的な処理について様々な取扱をされます。

その中で、養老保険は以下のように定まっています。

死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、生存保険金の受取人が法人の場合
その支払った保険料の額のうち、その2分の1に相当する金額は(略)資産に計上し、残額は期間の経過に応じて損金の額に算入します。
国税庁|No.5360 養老保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日前契約分)

つまり、このような契約形態にすると、支払った保険料の半分が損金算入となるということです。

契約者:法人
被保険者:法人の従業員
死亡保険金受取人:従業員の遺族
満期保険金受取人:法人

意訳すると、法人が払った保険料の半分を損金に入れながら、保険期間中に従業員が死亡した場合には従業員の遺族に保険金が支払われるが、死亡せずに満期となったら法人にお金が戻ってくる、ということです。

ちなみに養老保険の満期保険金の返戻率(=支払った保険料の累計額に対する満期保険金の割合)の相場は100%前後です。

(・・・従業員が死亡することなんてほとんど無いし、これって税的にオイシイ話・・・?)

と思った方、ひとつ注意しておきますが、満期時点では、満期保険金と資産計上額の差額が益金として認識されますので、全期間でみると税額はほとんど変わりません。

01|なぜ福利厚生プランに加入するのか?

では、なぜ福利厚生プランに加入する企業がいるのでしょうか?導入を決める主な要因を2つ挙げてみます。

 ▷従業員の退職金の財源積立てのため

一般的に考えられる目的がこちらです。

(従業員死亡時に葬式代くらい出してあげたい、という目的も一部あるでしょうが、主目的ではないことがほとんどです。それだけなら定期保険の方がいいです。)

特に退職金規定が定まっている場合、しっかりと財源を貯めておかなければなりませんが、なかなか毎期の決算でそこまで意識が向く中小企業は多くありません。

そこで、従業員の保険料という名目で一定の資金を確実に、長期間に亘って少しずつプールしておく仕組みとして導入するケースが多いです。

また、他制度との比較で後述しますが、福利厚生プランの場合、積み立てられた資金は単なる「財源」であって、満期保険金を受け取る権利は会社にあるという点がポイントです。

つまり、従業員に必ずしも全額を支払わなければならないわけではありません。

これは、功労金として従業員ごとに退職金の額に差をつけたいときに効果を発揮します。

ちなみに、社長はじめとする役員もついでに対象(被保険者)とすることが可能です。

 ▷会社が財務的にピンチなときのバックアップのため

会社が倒産する理由は資金繰りです。

そのため、企業経営者としては色々なところに資金のバックアップを用意しておくことが一般的です(定期預金・個人資産・その他各種制度等)。

そのひとつとして、この福利厚生プランは効果を発揮します。

セールストークとして、「会社の存続が1番の福利厚生ですから キリッ」と言ったりします。

例えば、緊急でまとまった資金が必要になった際、積立額(解約返戻金額)の一定割合(だいたい9割)を保険会社から借入れることができます。契約者貸付といいますが、当然のことながら無審査で借りれますし、申し込んで翌々営業日あたりで入金されますので、急場を凌ぐにはありがたい存在です。

もっとも、加入して数年は、積立額(解約返戻金額)は、支払った保険料の総額に対してかなり少ない額になりますので、注意してください。

02|福利厚生プラン加入のポイントと注意点

福利厚生プラン加入にあたっては、いくつか論点がありますので、ご認識した上で、実際の加入においては、保険会社や税理士にご相談ください。

 ▷初回契約時のポイントと注意点

①一定の要件を満たす従業員が全員加入することが必要
②同条件の従業員間で差をつけてはいけない
③役員や同族従業員にかける割合を極端に大きくしてはいけない
④加入している全保険会社分を合算して考える

ここはいわゆる「福利厚生」の概念を準用するイメージです。なので、企業の実態に即して適切か、という点に注意してください。

例えば、「入社5年目以上従業員を対象とする」としていても、入社5年目以上なのは経理部長1人だけ、だと福利厚生として認められるかは微妙でしょう。

また、ひとつの保険会社で福利厚生の要件を満たすのではなく、加入している全ての養老保険を合算して考える必要がありますので、お付き合いで複数加入している場合はご注意ください。

 ▷期中・満期のポイントと注意点

①毎期基準に対して未加入の従業員がいないかチェック
②従業員(被保険者)が死亡した場合は遺族に請求権がある
③保険料支払いを止めたい・減らしたいときのパターン
④従業員が満期より前に退職した場合は解約か現物支給
⑤満期には益金を認識する

期中のポイントはこれ以外にも細かい論点が多数存在します。期中管理をしっかりと行ってくれるかどうかは、加入の判断基準としてとても重要です。

では、上記に挙げた代表的な論点を簡単に解説していきます。

①まず、従業員の在籍年数しばりなどがある場合、基準を満たしているのに(合理的な理由なく)加入していない従業員がひとりでもいると、福利厚生とは認められない可能性が高くなります。

②次に、従業員が死亡してしまった場合、死亡保険金の請求は受取人である遺族が行います。特に退職金規定に記載していなければ、この死亡保険金とは別途、死亡退職金を支払わなければならない可能性もあります。

③また、保険料の支払いが継続しているときはいいですが、止めたり減らしたりするときは、税務的な取扱をしっかり確認しておく必要がありますのでご注意ください。

④加入時によく聞かれることとして、被保険者となっている従業員が退職した場合ですが、これは当該生命保険を解約するか、従業員に現物支給するかなどの対応をしなければなりません。

⑤再度になりますが、満期になったらその時点で益金として認識しなければなりません。まだ、満期金が返ってきていなくても、益金には立ってしまいますのでご注意ください。

03|福利厚生プランと他制度等との比較

 ▷中退共(中小企業退職金共済)

事業主が中退共と退職金共済契約を結び、毎月の掛金を金融機関に納付します。従業員が退職したときは、その従業員に中退共から退職金が直接支払われます。
独立行政法人勤労者退職金共済機構|中小企業退職金共済事業本部

こちらはなんと「全額」が損金算入できます。しかし、従業員に中退共から直接支払われますので、退職時に支払額をコントロールすることは出来ません。

 ▷従業員持株会

従業員持株会は、従業員が自分の勤めている企業の株式を定期的に購入し、従業員の中長期的な資産形成を支援する制度です。
野村證券|従業員持株会

企業が加算して支払う「奨励金」も全額が損金(給与)として扱われます。

従業員の社会保険料の算出に影響がある点、注意が必要となります。

 ▷企業型確定拠出年金

確定拠出年金(DC)とは、加入者ごとに拠出された掛金を加入者自らが運用し、その運用結果に基づいて給付額が決定される年金制度です。掛金額(=拠出額)が決められている(=Defined Contribution)ことから、確定拠出年金(DC)と呼ばれています。また、「掛金建て年金」とも言われます。
企業年金連合会|確定拠出年金の仕組み

こちらも「全額」が損金算入できます。また、ポータビリティやマッチング拠出、受取時の税制メリット等、さすがは国が主導する仕組みだと思います。

厚生労働省|確定拠出年金制度の概要

もっとも、掛金上限があまり高くない点に注意が必要です。

04|福利厚生プランに関連する判例など

最後に、よく勉強会などで使われる判例をご紹介します。

 ▷平17.4.26広裁(所・諸)平16-27|福利厚生費と認められなかった例

請求人は、従業員を被保険者とした養老保険及びガン保険については、将来の退職金のためである旨従業員に周知し、契約しており、所得税法第37条第1項に規定する業務の遂行上生じた費用であることは明らかであるから、必要経費に算入されるべきであると主張する。しかしながら、貯蓄性の高い保険契約の保険料が、事業の遂行上必要なものと認められるためには、当該保険契約締結の目的、被保険者、事業主が負担する金額、支払われる保険の金額、保険金の使用目的等を総合的に考慮し、客観的に事業の遂行上必要であると認められることを要するというべきである。これを本件についてみると、①退職金受給資格のない者についても本件保険契約に加入させていること、②退職金は、各自の勤続年数及び基本給によって異なるべきものであるところ、本件保険契約は、勤続年数、基本給及び年齢にかかわらず一律になっていること、③本件保険契約の金額は、各従業員の基本給及び勤続年数から予測される退職金の額をはるかに超える金額であること、④請求人に給付される保険金あるいは解約返戻金から従業員への退職金を支払った残額は、請求人に帰属し、これを従業員のために使用するという取決めも存しないこと、⑤福利厚生目的で加入した契約であれば当然に従業員に周知されるべき本件保険契約の内容がほとんど周知されていないことを総合勘案すれば、本件保険契約の保険料が福利厚生費として必要経費に該当すると認めることはできない。
国税不服審判所|裁決要旨(原文ママ)

 ▷平18.10.17 東裁(諸)平18-67|経費にはなったが給与扱いとされた例

請求人は、請求人を契約者及び生存保険金の受取人とし、請求人の役員及び使用人を被保険者、被保険者の遺族を死亡保険金の受取人とする養老保険契約について、役員及び使用人の福利厚生の一環として加入したものであり、特定の者に恩恵を与えるような恣意的なものとはいえないから、請求人の役員又は使用人の全部が同族関係者であるとしても、当該養老保険契約の保険料のうち死亡保険金に係る部分は福利厚生費であるとして、本件納税告知処分が違法である旨主張する。ところで、所得税基本通達36−31(注)2の(2)は、役員又は使用人の全部又は大部分が同族関係者である法人が養老保険に加入した場合について、たとえその役員又は使用人の全部を対象として保険に加入する場合であっても、その同族関係者である役員及び使用人については、その支払った保険料の2分の1に相当する金額(死亡保険金部分)は当該役員及び使用人に対する給与等とする旨定めているが、その趣旨は、当該法人においては、当該法人の同族関係者によって経営の支配権が確立され当該法人の同族関係者自らが養老保険の加入の要否及び保険金額等を決定する権限、すなわち養老保険契約の加入に伴う経済的利益の供与を決定する権限を有していることから、当該法人が支払う養老保険の保険料にはもはや従業員の受動的利益であるはずの福利厚生費の性格が欠如し、福利厚生を目的とした使用者側の業務上の要請による支出とは認められず、同族関係者が、専ら当該経済的利益を自ら受益するために養老保険に加入していると認められることから、当該法人が支払った保険料は同族関係者に対する給与として課税するというものであり、このような取扱いは当審判所においても相当なものとして是認できる。そうすると、請求人が加入した上記養老保険の保険料のうち死亡保険金に係る部分は請求人の役員及び使用人に対する給与と認められるから、本件納税告知処分は適法である。
国税不服審判所|裁決要旨(原文ママ)

 ▷平27. 6.19 名裁(諸)平26-44|経費にはなったが給与扱いとされた例

請求人は、同人が契約者として締結した、理事長等を被保険者とする養老保険契約(本件各保険契約)の死亡保険金について、従業員を被保険者とする保険契約の死亡保険金に比して多額であるが、格差が存する理由として、理事長等が病院の経営に生涯責任を持ち、請求人の借入金の保証人になっているため、所得税基本通達36−31《使用者契約の養老保険に係る経済的利益》(本件通達)の(注)2の(1)に定める「保険加入の対象とする役員又は使用人について、加入資格の有無、保険金額等に格差が設けられている場合」に該当し、本件通達の(3)ただし書に定める「役員…のみを被保険者としている場合」に該当しないことこととなるため、本件各保険契約に基づき請求人が支払う保険料(本件各保険料)の2分の1に相当する金額は理事長等に対する給与等には該当しない旨主張する。しかしながら、理事長等は従業員とは質的に異なる重い責任を負っているということができるものの、本件通達の趣旨や「職種、年齢、勤続年数等」という列挙事由に照らせば、他に特別の事情のない限り、福利厚生を目的として、死亡保険金に大きな格差を設けることの合理的な根拠にはならないというべきである。さらに、本件各契約は、請求人の福利厚生規定に定めたりすることなく理事長等の判断だけで締結されていることからすれば、理事長等は自らが本件各保険契約による経済的利益を受ける目的で締結したものと評価せざるを得ず、本件各保険料の死亡保険金に係る部分には、もはや一種の福利厚生費としての性格が欠如していると言え、本件通達の(注)2の(1)に定める「職種、年齢、勤続年数等に応ずる合理的な基準により、普遍的に設けられた格差であると認められるとき」には該当しないというべきであり、本件通達の(3)ただし書に定める「役員…のみを被保険者としている場合」に該当すると評価できるから、本件各保険料の2分の1に相当する金額は理事長等に対する給与等に該当する。

おわりに

ニーズに合致すれば有用な福利厚生プランですが、なかなか素人では扱いきれません。導入を検討される場合は、保険に詳しい税理士か、せめてMDRT会員の保険屋さんに相談されることをおすすめします。

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