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宝さがし

生れたことが、そもそも失敗さ。もう、親ガチャ大外れ。ギャンブル狂いで酒癖の悪い親父、金の話しかしないヒステリーな母親。
あんた、こんな家に生まれたいか。嫌だろう。良かったな、俺じゃなくて。

親なんか大嫌いさ。貧乏だから自分の部屋も無かったんだぜ。親とずっと面突き合わせてるなんて地獄だったぜ。
だから学校を出たらすぐ実家を飛び出した。一人だけの部屋はすごい快適だったぜ。ホークシック? そんなもん一度もなったことねえ。

子どもが親を選べないって最悪な。なんかの本で読んだけどよ、生まれる前に「生まれたいですか」って訊いて欲しいよな。訊かれてたら絶対NO!!!って答えてた。今クダをまいてる俺もいねーよ。

別に悲しかないさ。俺は偉くもねえし金持ちでもねえ。俺がいなくても何も変わらねーよ。なーんも社会の役に立ってない。いないほうが良いんちゃうか。そう思いながらも、この歳まで生きてきちゃった。いい歳になっちゃたねぇ。

結婚?。いちおうね。死んじゃったけどな。 
性根の優しい女でね。こんな俺と一緒にいるとき、いつもいつもニコニコしてた。幸せそうに笑っててね。女房といると俺も笑顔になれた。
なんもしてやれなかった。結婚指輪を買ってやったのが精一杯。いつも指にはめてさ、大事そうに眺めてたよ。

え? 今、なんて言った? あんた?
もう一度言ってくれ、え、俺が良い人~? よしてくれ。俺のどこか良い人なんだい。

女房を幸せにしたぁ? よしてくれやい、苦労ばっかりさせたんだぜ。
まあ、そうさね。確かに俺といるときはニコニコしてた。嬉しそうにしてたよ。
俺と一緒になれたから、幸せ? そんなことねーよ。・・・たしかにいつも笑顔だったがな。

大切にしてたって? そりゃー病弱な女だったから、飯ができてなくても文句言ったことねぇ。家に帰ったら女房が待っててくれてりゃ、それでよかった。こんな俺と所帯持ってくれただけで充分よ。俺にはもったいない女だったよ。

確かに女房と出会ったときは、なんていうか、胸があったかい気持ちがしたよ。これが幸せというやつなのかと思ったよ。そんときは俺の人生まんざらでもない、と思ったなぁ。

だがよ、天国に行っちまった。俺は独り、天涯孤独の身でさ。
あいつが生きててくれればな。どんな形でも生きてて欲しかったよ。
だから俺、死ぬのは怖くない。女房があっちにいるからさ。なんでグダグダ酒飲んで生きてるんだろ。さみしいね。

ああ、そうか。俺は女房にあうために生まれてきたんだ失敗から始まった人生だけど、当たりもあったか。

まだどっかに当たりが隠れてるんかな。宝探しみたいだな。
探してみたいねぇ。



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紬 余話(つむぎよわ)
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