土蔵のキハダ
(こちらの記事は当初2022/08/20に公開されたものです)
7月下旬、工事中の紡ぎ舎実店舗に車で向かっていると鮮やかな黄色が目の端に飛び込んできました。よく見ると伐採した木の皮を剥がしています。
ここ小谷村でこの時期になると行われる「キハダ」の皮を剥いでいるところでした。私も実際に現場を見るのは初めてでした。
キハダとは
キハダとはなんぞや?という方もいらっしゃるかと思います。この辺りでは「キワダ」と言う方も多いようです。漢字で「黄檗」などと書かれます。
樹皮の表と木質部分の間にある「内皮」と呼ばれる部分(上の写真で剥がされている部分)が黄色いので「黄色い肌」という意味でキハダと呼ばれるようになったようです。
このキハダの皮は「黄柏(檗)(おうばく)」と呼ばれる生薬の原料となるため、毎年この時期(土用の頃)に地元の生産者組合の皆さんが皮を剥がして出荷しています。
具体的には、主には胃腸を健全に整えるお薬などの原料となっています。例えば長野県の方ならよくご存知の「御岳百草丸」や、奈良県の方ならご存知かもしれない吉野の「陀羅尼助(だらにすけ)丸」などはキハダが主原料です(余談ですが、店主(夫)の母は奈良出身なので店主も陀羅尼助丸に馴染みがあります)。
さて、ここまで「皮」の話ばかりしてきましたが、「木」はどうなの?と思われる方もいるかも知れません。実はキハダの木はこれまでほとんどが捨てられてきました(もったいない!)。
木目も美しく味わい深い色合いの木なのですが、山から木を下ろして、出荷して、という工程に掛かるコストを考えると収入が見合わないのでそのまま山に放置されてきたのが実情です。
何とか小谷村のキハダを活用できないかというのは、去年この問題を知ってからずっと考えていました。そんな中、今年に入って「工房ぐるり」さんや「木工ヤマニ」さんといった地元長野県大町市の木工作家さんとのお取引も始まり、地元の材を使って何か作れたらという話を少しずつ始めていたところでした。
現在工事中の紡ぎ舎の正式な実店舗は築約150年の土蔵を改築しています(詳しくはこちらの読み物をご覧ください)。その土蔵の脇に大きなキハダ(黄檗)の木がありました。かなり大きな木です。これを「土蔵のキハダ」と呼ぶことにします。
先ほど登場したキハダの木と同じく、土蔵のキハダもこの夏に切られて皮が運ばれていきました。
そこで今回この土蔵のキハダを私たちが引き取り、地元長野県大町市でペッパーミルを制作する木工ヤマニの内山夫妻にお声がけをして作品に仕上げてもらうことになりました。
もちろん、これから木を製材して乾燥させてという過程を経てみないと実際にこのキハダが材として使えるかどうかはわかりませんが、今までは切られて捨てられていただけのキハダの木を美しい作品に仕上げてもらえたら本当に嬉しいことです。
そして、和田さんと私たち、私たちと内山夫妻、そういった「人と人の繋がり」の中でモノが生み出されていくというプロセス自体も何だかうまく言えないけど、いいものだなぁと感じました。
「オラが小せぇ頃はよくこの木に登ったもんだよ」という和田さんの木がその役割を終え、暮らしの道具として生まれ変わって日本中(あるいは世界)の人に受け継がれて、あるいは更にその子供たちにも引き継がれて使われていくというのは、何だか夢のある話だとは思いませんか。
https://tsumugiya.jp/?pid=175202993
世の中猫も杓子も「SDGs」ですが、SDGsのようにキーワード化してしまうとあまり深く考えずに「あぁ、SGDsね」と分かったつもりになってしまいがちだと思います。思考停止というやつです。
大切なのは「この地球という限られた環境の限られた資源を損なうことなく活かしながら、誰もがより快適で平等で安心な生活を送り、その上で経済的な恩恵もしっかり受けられるためには、一人ひとりが何をすべきか」を考えることであり、日々の暮らしの中で「あぁ、もったいないなぁ」と思った時に「どうすればもったいなくなくなるの?」ということをほんの少し考えて実際に行動してみるということなのではないかと思います。
そしてそのヒントは昔ながらの日本人の暮らしの中にたくさんあると私たちは思っています。今回のキハダもそうですが、私たちも少しずつ考えながら形にしてきます。