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【ショートストーリー】ちいさな訪問客
その老女は孤独だった。
病室の窓から見える景色は日々変わっていったが、見舞いに来る人は誰もいなかった。
カレンダーの日付がめくられていく中、ただベッドに横たわり、点滴の滴る音を聞きながらすごしていた。
そんなある日、小学生低学年くらいの女の子が、ふわりと病室に舞い込んできた。
「おばあちゃん、はやく元気になってください」
老女には心当たりがなかった。だがその子は、春の日差しのように明るく、可愛らしかった。思わず、そのまま相手をしていた。
「またね、おばあちゃん大好き」
そう言って、その子は病室を後にした。あとには、かすかな花の香りのような温もりが残された。
それからというもの、毎週、その子は見舞いに来た。あるときはクレヨンで描いた老女の似顔絵をもって。またあるときは、折り鶴をもって。訪問のたびに、病室に色が加わっていった。
そのうち老女は気づいた。「この子は病室をまちがえているようだ」
しかし、言い出せなかった。女の子の訪問が、灰色だった日々に差し込む一筋の光となっていたから。
じつは女の子のほうも途中で気づいていた。でも、彼女はなにも言わなかった。本当のおばあさんのお見舞いをして、それから隣の病室のおばあさんのお見舞いもすることにした。そのおばあさんが、自分の訪問をよろこんでくれているのがわかっていたから。
女の子の本当のおばあさんは無事に退院した。それでも女の子はお見舞いを続けた。
そうして数か月が過ぎた。
ある冬の朝、老女は静かに息を引き取った。
枕元には小さな折り鶴と、小さな女の子と老女が楽しそうに手をつないでいる絵が置かれていた。
彼女の口もとにはかすかな笑みが浮かんでいた。
(おわり)