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家に着くとヒールをすっ飛ばし、急いで袋の中身をテーブルに開ける。今日の中身はワンカップ、水、そして7種具材の筑前煮。雑に割った割り箸がバキリと不均等に割れる。高鳴る胸を抑え両手を合わせた。

誰にでも言えない趣味があると思う。

「いただきます」

出汁に包まれた人参を約2センチ程度に噛み切る。唾液をまとわせた舌で転がすとアッチへコッチへと逃げ回る。逃さない、と言うように優しく奥歯で固定、そして嬲る。角をとって丸くするイメージ。しょっぱい。気が済むまでしゃぶったら、いよいよ喉の奥へ進める。
ぐ、と一瞬抵抗するように喉が閉まる。
私は慌てず首を反らし、浮き出た喉の骨に触れる。親指を抜いた4本で包むように。口内の唾液を集めて一気に飲み込む。

ゴクリ

人差し指、中指、薬指、小指、順番に隆起させて、人参が喉を通っていく。
思わずはぁ、と熱い息が漏れた。今この辺かな、と人参が流れているところを想像し胸をなぞる。唾液のぬめりを借りて押し流されていく様子に、なんとなく津波が頭をよぎった。

私は丸呑みが好きだ。大きな塊が喉を通るとドキドキする。しがないOLの私は月に1回丸呑みデーを設けて、こうして好きなだけ丸呑みするようにしている。今日は朝から満員電車に揺られ、コピー機が詰まって、それでコピーが遅くなったら課長に嫌味を言われた。あのハゲめ。それを帳消しにするようなこの快感。人参を飲み込むと次は椎茸に箸を伸ばす。

(この椎茸が課長だったらな)

唾液の波に飲まれてゆく課長を想像して、ちょっと笑った。


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