07
「みんなー!今日は来てくれてありがとー!!」
大きな歓声がスタジアムを揺らす。季節は冬であるが、会場はファンの熱気で暑いほどだった。
「次で最後の曲となります。みんな、最後まで盛り上がれるかー!」
「ウオオオ!!」
「全力でいけるかーー!」
「ウオオオオオオ!!」
「出しきれるかーーー!」
「ウオオオオオオオオオ!!」
「喉潰すまで声だすぞ!ラスト、『だし汁をすすらせておくれよ』です!!」
ギターがギュワンと一声吠えて、何百回と聞いたイントロが流れ出す。ボーカルのじゃが芋が大きく息を吸った。
だし汁をすすらせておくれよ そしたら君とキスがしたいんだ
だし汁をすすらせておくれよ そしたら君と夢が見たい
だし汁をすすらせておくれよ そしたら君とピアノにのぼって
だし汁をすすらせておくれよ そしたら君とキスがしたい
いつか君と約束したことが 僕は出来ずに今も生きてるの
街のポストに君あての手紙を書いて送れずにいる
僕がみつけた恋が こんなにも苦しいとは
意味なくボルテージだけ上がっていく
今夜はちょっと寂しい気分だよ 楽しい話聴きたいなベイビー
明日はきっと違う気分だから 今のうちにガンバリなよベイベー
毎日を美しくしたい 意味なく暴れてはっちゃけたい
僕を滅ぼす闇に美しく歌う 君を探しにいくよ
僕はくだらない毎日を変えて君とキスしたい!
だし汁をすすらせておくれよ そしたら君とキスがしたいんだ
だし汁をすすらせておくれよ そしたら君と夢が見たい
だし汁をすすらせておくれよ そしたら君とピアノにのぼって
だし汁をすすらせておくれよ そしたら君とキスがしたいんだよ
人参の叩くドラム、れんこんの弾くベースに乗って切実な歌詞が俺の胸を打つ。暑い、いや、熱い。魂を揺さぶられるようだった。ビリビリと震える空気と自分が一体化していく。汗が瞼ををつたい視界を霞ませる。今は、今だけはすべてがどうでもよかった。
ステージに立つニモノマスターに向かい、あらん限り咆哮した。