非常階段
日本のノイズシーンを知る上で非常階段とMerzbowを避けて通ることは出来ない。
彼らが全ての始まりであり、日本がノイズ大国でいられるのはこの両バンドが生涯現役を貫いているからだ。
両者ともに1979年から活動をしているが、その音楽的思考には大きな違いがある。
今回は関西アンダーグラウンドから奇形的に生まれた非常階段について書いていこうと思う。
まず非常階段はライブバンドとしての活動を主軸としている。
元々複数の人間で音を重ねることで起こる音圧や混沌に重きを置いているためスタジオでの多重録音作業が目的では無かったようだ。
非常階段の主要メンバーであるJOJO広重とT.美川は前回の記事にも書いた音楽喫茶“どらっぐすとうあ”の常連客であり、不思議な音楽をみんなで共有することに喜びを感じていたからかも知れない。
それでも彼らの録音物は素晴らしくノイズミュージックの金字塔と呼べる名盤を数々リリースしている。
その殆どはライブ録音で生の荒々しさをそのまま収録することに成功している。
しかし、彼らが最初に世間の注目を集めたのはその音楽性よりも先に過激なライブパフォーマンスだった。
伝説的なパフォーマンスは映像でも残っている。
代表的なものは女性パフォーマーによる放尿だろう。
著作権の問題もあるのでここに掲載することは避けるが、YouTubeで「非常階段 ライブ」と検索すればその動画を観ることが出来る。
ギターとエレクトロニクスによる轟音の中、その女性はのたうち回り、汚物をかけられたあげく、仁王立ちになり恍惚と放尿を始めるのだ。
また、彼らの1stアルバム『蔵六の奇病』(ホラー漫画家 日野日出志の作品と同名)にはえずきながらゲロを吐くだけのライブ音源が収録されている。
このようなショッキングなアクションを繰り返し全国にその名を知らしめたが82年頃にパフォーマンスメンバーが一斉に脱退する。
彼らの音楽が純粋なノイズになったのはこの頃からだろう。
その音楽性が定まったと思われるのは1985年の『king of noise』であり、この作品はタイトル通りジャパノイズにおける最高傑作と呼べる出来映えだ。
また彼らの活動はノイズ単体にとどまらず、《◯◯階段》と称して別ジャンルとノイズの合体を試みている。
パンク、グラインドコアと言ったノイズと馴染みの良さそうな音楽だけでなく、フォークやアイドル、更には初音ミクとのコラボとフレキシブルな展開を見せている。
この柔軟性は関西ならではのものであり、「面白いことをしたい」という彼らの持ち味だ。
またリーダーのJOJO広重はノイズミュージシャン以外にも経営者としてレーベル,レコード店,トレーディングカード店を経営、更には占い師という肩書きが持っている。
広重の右腕的な存在のT.美川に関しては某メガバンクの重役を勤めるエリートサラリーマンである。
彼らは「ノイズでは食べていくことが出来ない」と言う認めざるを得ない事実をしっかりと受け入れている。
世間に馴染み、実直な社会人として働きながら、世界を驚かせ続ける彼らは誰よりも真面目で誰よりも恐ろしいのだ。
今日はここまで。
次回はMERZBOWに関して書きます。