Aunt Sally 『Aunt Sally』
誰か分からない人の名で朝の挨拶をされ、駆け足でこっちに来いと言われ、自分がいかにくだらない人間かを知らされ、空腹を満たす食事を振る舞われる。
朝から言葉に翻弄されて、見も心も置き去りに。
極私的に、とは言うものの、このコラムを書くに当たっては多少の責任はある。
なので紹介するCDを聴き直すところから始めている。
アーント・サリーの1st『アーント・サリー』だ。
昨日から繰り返し4回程聴き返しているが、聴く度にボーカル Phewの言葉と態度に冷たくあしらわれる。
真剣に聴けば聴くほど、自分と彼女達には詰められない距離があることを見せ付けられてる。
カリスマという言葉が良く似合う女性だ。
Aunt SallyはボーカルのPhewを中心に1979年に大阪で結成されたPUNKバンド。
当時の関西アングラシーンはウルトラ・ビデやINU、ほぶらきん等の変態バンドが揃っており、Aunt Sallyは中でも文学的で知性に富んだ独自解釈のパンクを鳴らしていました。
解散後にPhewはソロ活動を始め、コニー・プランクやホルガー・シューカイと言ったクラウトロックの面々と仕事をすることで海外での評価も獲得し、他のアングラ勢とは頭一つ抜ける存在でした。
このアルバムに出会ったのも10年程前になる。
当時の僕はウルトラ・ビデやほぶらきんのように一発でいかれていると分かるバンドに夢中だったのでAunt Sallyのような音楽への関心は薄かった。
第一、「これのどこがパンクなんだ?」と疑うほどだった。
確かにどこがパンクなのか?を説明することは今でも難しい。
2002年の再発のブックレットに記載された戸川純の解説によれば「従来のロックにアンチを向けたのがパンク。Aunt Sallyはパンクにアンチを向けたロック」という内容が書かれている。
これ以上に分かりやすい説明も浮かばないのでそれで納得してもらいましょう。
Phewが『自分の子供に「パンクって何?」と質問されたからストゥージーズを聴かせた』と言う内容の記事を読んだことがある。
彼女の中にあるパンクがピストルズではなくストゥージーズなのだと知ると、その反骨精神がファッションで無いことが理解出来る。
この作品を改めて聴いてみると意外な程にバラエティーに溢れた楽曲に驚いた。
Phewのぶっきら棒なボーカルも曲ごとに声質や発声を変えている。
感性とエネルギーで個性を出すバンドが多い中、Aunt Sallyはしっかりと作り込んで色を出していたのだ、と再確認した。
1曲目の「aunt sally」のノーウェーブ的パンクから、拍子抜けするほど陽気な「かがみ」への繋がりは、初めて聴いた時には違和感を感じたが今はむしろ自然に感じている。
それは歌詞の力だろう。
本文の最初に分からないことを書きましたが、これは1曲目「aunt sally」の冒頭の歌詞をそのままの意味で受け取ったものです。
【おはよう、アーント・サリー
走っておいで
どうにもならない駄目な人ね
好きなだけお食べ 】
この曲は6分半ありますが、僅か3分の間で残り全ての歌詞を歌い上げます。
そして曲の後半は前半の歌詞を無秩序に並べ替えて無意味なものに変えて歌います。
僕は冒頭の歌詞にすら意味はなかったのだと解釈しています。
発せられた言葉をギリギリ意味が理解できるように整理したのだろう。
Phewのその姿勢を受け入れれば、曲順の違和感も狙いと捉えられる。
どの曲も聴けば聴くほど、理解したいのに理解し難いジレンマに襲われる。
これが彼女との距離なのだ。
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