4・5月の読書記録 ~はじまりの卒業制作~
こんにちは。
京都芸術大学 通信教育部 空間演出デザインコースに在籍するひじきです。
2024年もあっという間に6月を迎え、時の流れの速さに溺れてしまいそうです。
というわけで今回も2ヶ月分の合併号でのお届けです。
いまさらの話ですが、卒業着手要件は無事クリアでき、4月から晴れて卒業制作への着手となりました。
とはいえ3年次のTW科目が残っているのでそちらを片付けつつ、卒業制作のリサーチも少しずつ進めております。
卒業制作については別でまとめているのでもしよければこちらもご覧ください。
とはいっても相変わらずの遅筆ぶりなのでいまだ4月上旬時点の進捗ですが…
というわけで、4・5月に読んだオススメ本の紹介です。
ディック・ブルーナのデザイン
ミッフィーで有名なディック・ブルーナの生い立ちや仕事に対する哲学、そのデザインについて書かれた本。
ディック・ブルーナといえば「ミッフィーをつくった絵本作家」のイメージが強いと思います。自分もそうでした。
しかし、実はグラフィックデザイナーとして優秀な才能を持っており、年間150冊もの装丁とその本に関連したポスターを制作していたそう。
特にブルーナが装丁を手掛けた〈ブラック・ベア〉シリーズはモチーフの使い方が秀逸で、シンプルでありながら訴求力が高く、ディックの豊かな才能を感じさせる。
ディック・ブルーナは、下書きを描いたトレーシングペーパーを紙に重ねて線をなぞって跡をつけ、筆で清書したのち、透明のフィルムに転写した絵を色紙に重ねて配色を決める…というなんとも手間のかかる描き方をだが、この方法は今で言うところのデジタル絵のレイヤーの考え方に近い。
その時代にレイヤーという概念があったのかはわからないが、少なくとも当時では珍しい制作手法だったことは間違いないはず。
大阪で開催されていたディック・ブルーナの展覧会にも行ったのですが、実物を見るとシンプルな中に感じるわずかな線の揺らぎによって絶妙な温かみというか愛らしさのようなものを感じられ、これほど長く愛される理由がわかったような気がしました。
『シンプルなものこそ手間をかける』というのはとても重要なことだと思う。
堀内誠一 旅と絵本とデザインと
日本を代表するグラフィックデザイナーである堀内誠一の作品とその人生をまとめた本。
「日本を代表する」と書いていますが、恥ずかしながら図書館で何気なくこの本を手に取るまで堀内さんのことを知りませんでした…。
弱冠14歳にして伊勢丹に入社して数々の広告に携わり、『anan』『BRUTUS』『Popeye』など誰もが知る雑誌のロゴデザインも手掛けたすごい経歴の持ち主です。
流行の波が激しい雑誌の業界で、いまだに変わらずロゴが使われ続けているというところもすごいですし、まさに企業や商品の顔であるロゴというもののあるべき姿はこういうことなんだろうなぁと感心しました。
実は卒業制作で旅行記を作品のひとつに組み込もうかと考えているのですが、この本のタイトルにあるように堀内さんは旅行記という点でも非常に魅力的な作品を残しています。
独自のタッチと絶妙な配置でまとめられた手描きの地図は、圧巻の一言に尽きます。
自分の見たもの、感じたことをこんな風に描き起こすことができたらさぞかし楽しいんだろうなぁ…。
河童が覗いたインド
日本を代表する舞台美術家であり、小説家、エッセイスト、グラフィックデザイナーと非常に多彩な才能を持つ妹尾河童のエッセイ。
妹尾河童がインドを訪れた際に目にした様子を正確で緻密なイラストとともに綴っているのだが、まさに、河童が『覗いた』というタイトルの通り、そこに暮らす人々の生活をのぞき見しているような、臨場感のある文章が非常に魅力的です。
そしてなにより驚くのはタイトル・見出しから本文にいたるまですべてが手描きであること。
緻密でありながら読みやすく、温度感も伝わってくるのは手描きだからこそなのだろう。
〈河童が覗いた〉シリーズは、この他にもヨーロッパ、日本、仕事場、さらにはトイレまで様々あり、人・モノ・コト・建物などありとあらゆるものに興味を持ち、その様子や仕組み、成り立ちを詳細に記録する好奇心の高さはぜひ見習いたいところ。
失われた創造力へ: ブルーノ・ムナーリ、アキッレ・カスティリオーニ、エンツォ・マーリの言葉
イタリアにおけるデザインの巨匠、ブルーノ・ムナーリ、アキッレ・カスティリオーニ、エンツォ・マーリが残したの言葉とともに、デザインに対して彼らが常日頃から考えていたことをローマ在住の批評家 多木陽介さんが解説をしている本。
ブルーノ・ムナーリは僕が最も尊敬するデザイナーであり、彼の著書『モノからモノが生まれる』はまさに自分のバイブル的な本です。
嬉しいことに『失われた創造力へ』では、ムナーリの「モノからモノが生まれる」という言葉からはじまります。
この本に載っている3人のデザイナーが活躍した時代は、工業化が進み、大量にモノを生み出すことで経済が豊かになった時代でした。
商品を良く見せるためだけのデザインや購買意欲を刺激するための目新しいだけのデザインが多く生み出される中で、常に「デザインとはなにか」「デザインが果たすべき役割とはなにか」を考え、実践し、問いかけ続けてきたのがこの3人。
それぞれスタイルは違えどその哲学は共通する部分が多く、厳しく叱咤しつつも背中を押してもらえるような彼らの言葉に、ページをめくるたびに深く共感し、自分もこうありたいと強く思いました。
今後デザインという分野をかじりながら自分が活動していくうえで、絶対になくしてはいけないものを教えてもらえたような気がします。
折に触れて読み返したい、心の拠り所になるような本なのでぜひデザインを学ぶ皆さんには読んで欲しい。
以上、今回の読書記録でした
4月・5月の総読書数は30冊。
課題は徐々に終盤に差し掛かり、本格的に卒業制作がはじまります。
なので、今後は卒業制作のテーマに合わせた多少偏った選書になってくる可能性もありますが、もしよければこれからもお付き合いください。
それではまた来月。
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