「何も言えなくて……夏」の話
アレは小5の時。
わたしの隣の男子は、学年でもトップレベルの足の遅い、体育の苦手な男子であった。
またの名をうっちくん。
たまに、うんち君などとからかわれていた(今なら確実にアウトだろう)。
うっちくんはゴリゴリの鉄道オタク。
口癖は
「ボクはもうダメだ……」
余談だが、うっちくんのお母様は大変上品で美しく、妹君も大層可愛らしい。
初めて見た時、子供心に
(えっ?どういう事?)
と純粋に疑問に思ったものだ。
そして、私は彼がとても苦手であった。
さて、ある日の国語の時間。
隣から悲壮感たっぷりの、やや芝居がかった声が聞こえてきた。
「あぁ……何という事だ。……国語の教科書を忘れてしまった!ボクはもうダメだ……」
さて。
ここで皆さんに質問です。
あなたならどうしますか?
①優しく広い心で教科書を見せてあげる
②イラッとする
(故に向こうが見せてって言わん限り知らんぷりを決めこむ)
①と答えたあなた
何という心の広さ……その広き事空の如し。
貴方のような人の存在が地球を優しくするのでしょう
②と答えたあなた
アァーー!!!
分かる!分かるぞーっ!!
イラッとする!イラッとするなーっ!!
言えよ!
一言、「見せて」ってな!
そんなに難しいかい?
その行動がよ!
大人になった私は、人として
①が正しく、②が正しくないのは分かる。
彼は特にそういう事が苦手な子なのだろう。
ただ、私もそうだよ、という事なのだ。
「苦手な子に優しく自分から声をかけたくない!意地でも!!」
そういう強い意志でしか生きられなかった……
誰が悪いと言うのか……
彼が悪いのか?
私が悪いのか?(少し性格がな……ゴメンネ)
いいや。誰も悪くない……(そう信じたい)
人其れを
相性が悪い
と云ふ也。
さて。
そして、国語の授業が始まった。
しばらくして、先生はこう言った。
「〇〇さんは、いけずじゃなあ!△△君が教科書を忘れてるのを気付いてるのに、見せてあげんもんなあ!」
(う……おぉ……)
ちょっと、ひどくないだろうか?
私、フツーに可哀想じゃない?
クラスの皆の前で、公開処刑じゃない?
いやまあ、確かに性格良い行いではないけれども。
褒められたもんではない自覚はたっぷりある。
ちょっと、意地が悪いです、この子は。
だけれども。
先生のやってる行為も、まあまあいけずではないだろうか、と。
斜め後ろの席には、好きな男の子が座ってるのよ?
その子の前で、友達の前で
いけず宣言されたんですけど?
ちなみに先生は32、3歳の独身の女性。
キツめのキレイな人。
今思えば、少し戸田恵梨香に似てるかも……
(私は人を芸能人に例えるセンスが壊滅的ですが、戸田恵梨香は大好きです)
頭の回転もすこぶる早い。
先生は、少し意地が悪いのが顔に出ていた。
小5ながら、何となくそれは分かっていた。
(なる程な、時と場所を選ばないとな)
私は学んだ。
本質はそうでなく、道徳的に言えば
「誰にでも優しくしましょう」
なのだろうが。
先生はあの時、私には優しくなかったしな。
「いやいや、ちょっと待って下さいよ。そもそも、うっちくんが自分から『見せて』と言ってくれさえすれば、見せましたよ?快く。その是非は問わず、私だけを悪者扱いするのは、さてはて、いかがな物かと。そして、先生。あなたのとった行動は、正しい行いであったと言えるでしょうか?教育者として、人間として」
今なら言えるのに。
11歳の私は先生にそんな反論できなかった……
まさに
何も言えなくて……夏
完
「忘れられない先生」
で忘れていた出来事を思い出し、今日のネタにしたのだが……
ちょっぴり苦い、あの記憶も、
今の私の見えざる知られざるチカラ的な何かで
味付けすれば……
苦瓜も美味しいゴーヤチャンプルーになるのではと……
そんな淡い期待を抱いてしまった。
いかがだっただろうか?
つくねのゴーヤチャンプルー系日記。
上手くも何ともないな?
着地もわかんねぇんだ、これが。
まさに
何も言えなくて……夏
#忘れられない先生