「知らん間にメンターになっていた、ある女子」の話
独身の頃、何気なくTVを見ていた時の事。
ある一般人の夫婦の今年のボーナス(今でもこの言い方であってるのか)が、去年に比べて増えてるか減っているのか、という内容だったように思う。
今も昔も個人事業主である私は
(いいよね、ボーナス。憧れがあるわ)
と思っていたが、夫婦の少し不釣り合いなビジュアルに、目が釘付けになった(´⊙ω⊙`)
夫の方は少しぽっちゃりさん。メガネで優しそう。ボーナスの金額を全く記憶していないが、良い稼ぎをしてらっしゃるな、という印象を受けた。
妻の方はギャルの方が少し落ち着いて大人になりました、という雰囲気で、美人で華やかなひとであった。
(結構歳も離れとるよな?何故彼を?)
余計なお世話をぼんやり考えていた。
話をよくよく聞いていると、どうやら、家庭教師とその生徒さんという、少しキュンとなる設定、……出会いらしく、仲良さげな昔のプリクラが映し出された。
学生時代の、彼女はゴリゴリのギャル仕様で
(イヤイヤ、周りにはもっと男前もおったろうに、何故……)
心の声の無礼がとどまる所を知らないのであった。
夫が給料明細を妻に手渡す。
「ハイ、これ」
妻が答える。
「いつもお仕事お疲れ様です」
おお、労いの言葉!更に次の夫の言葉に衝撃を受ける事になる。
「こちらこそ、毎日、家事に育児にお疲れ様」
わああああ!すげえ!!
そんな言葉がさらっと出て来る夫君!
最高やん!めっちゃええやん!
心の島田紳助が顔を覗かせた。
なるほどな。これは惚れてしまうな。こういう人と結婚したら、幸せな結婚生活が送れるって事かー。
それから数年経ち、私はかっちゃんに出会い結婚した。TVで見た夫婦の事はすっかり忘れてしまっていた。
ある日、かっちゃんがお給料を持って帰ってきた。
「ハイ、これ」
「わあ、ありがとう。お仕事お疲れ様」
「こっちこそ、いつも、家事してくれてありがとね」
「そんなあ」
「いや、ほんまに。つくねがしてくれてる家事は、毎日365日休みがないのに、洗濯して掃除してご飯作って、その上子育てまでしてくれて、本当にありがとう」
もう私は大号泣だ。・゚・(ノД`)・゚・。
「そんなん……私は好きでやってるんよ。でも、そう言ってもらえると嬉しいもんじゃなあ。なかなかそんなん言える男の子、おらんよ」
「えー、皆言ってるよ、きっと」
「いや、まじで。男子が皆そんなん言ってたら、離婚する夫婦が10分の1になるわ」
「えー、そっかなあ」
とか言いながら、私はあのステキな夫婦を思い出していた。あの時の彼女が彼を選んだ、その眼力と決断力。
それはTVで彼らに会った時に、私にも宿っていたのだ。知らぬ間に。
私は今でも、たまにあの夫婦を、思い出す。
そして、敬意を込めて、彼女をこう呼ぶ。
「ギャル子パイセン」と……