「辺り一面を血の海に染めていけ」の話
清掃のお仕事を始めて、数ヶ月たった、ある夏の日。
とある物件でお掃除をしていた。
洗濯機や冷蔵庫等、家電がついているタイプの部屋なので、洗濯機を移動させ、床の洗濯パンを綺麗にし、洗濯機を元に戻す。
洗濯機の右側の壁に棚が取り付けられているのだが、さほど広くないスペースなので、軽い立位体前屈の様な、無理めの体勢で洗濯パンを掃除する。
そして……
少し勢いをつけて、起き上がった瞬間。
ゴツっ!
衝撃が走る。
その直後、
パタパタッ
と水滴が、落ちた。
(洗濯機の排水のホースから水が出たかな?)
一瞬、視界が暗くなる。
(はっ?何コレ?)
「えっ、これ……血?」
(うぉー?棚に頭ぶつけたんか!痛い!血が頭から流れて、目に入ってるから、視界が真っ暗になるんじゃ!
スゲー!何か……
ボクサーになった気分じゃ!!)
何かそんなの「はじめの一歩」で見かけた気がするわ……
しかしながら……
かなりの出血。
血が止まらねえ。
同じ物件の別の部屋を清掃していた、社員のYさんを召喚した。
Yさんは、仕事ができる上、かなり面白い男性社員さん。
いつも、落ち着いており、焦る所を見た事がなかった。
しかし。
私の、変わり果てた姿を見るや、
「う、おーぅ……」
ドン引きして、2、3歩程後ずさりした。
(わー、動揺したYさん、初めて見た!)
「大丈夫っすか?」
「取り敢えず、一命はとりとめました」
「これ、良ければ……」
と小さなカットバンを、差し出してくれた。
「気持ちは嬉しいですけど、面積が足りねえっす……」
「あぁ……お役に立てず……すみません。タオルでも当てて、しばらく安静にしといて下さい」
「じゃ、お言葉に甘えて」
別にいーのにな、と思いながら、ぼーっとした。
しばらくするとYさんが戻ってきた。
「洗濯パンの所、綺麗にしといたんで。病院行った方がいいんじゃないです?」
「大丈夫です。血は止まったし、頭がクラクラするとかもないですし」
と返事をし、お互い仕事に戻った。
(あー、綺麗にしてくれとんな)
と状況の確認をしていると…、
洗濯パンと床の接した部分から
じわぁ……
血が!
滲み出してきとる!!
こわっ!!!
事故物件!!!!
足元がお留守になってますよ
と言われ足元を注意すれば、他が疎かになる……
とかくに人の世は住みにくい。
これだったか、と。