【創作bl小説】振って下さい、僕のこと
⚠️創作bl小説です。
🌼[内容]クラスの中心ド陽キャ×ぼっち系ド陰キャ文学少年。正反対なのに惹かれ合うふたり。 夏休み、一緒に過ごした最後の20日間の話。
気づけばいつも蚊帳の外にいる。
朝のクラス。そこかしこに出来る仲良しグループの小さな輪。そのどれにもロクに馴染めず、今日も1人、眠い振りをして机に突っ伏している。
ちょうど視線の先には、学校でたぶん一番目立つグループの人たち。美男美女揃い、存在感の格が違う。
特に目立つ真ん中のあの可愛い子。アイドル顔負けのルックスで童顔、巨乳。おまけに頭の回転が速くてトークも上手。サラサラの髪は毛先ワンカールで艶々だった。
自分もああだったらなんて思うほど自惚れてはいない。初めから違うのだ、彼らとは何もかも。
絶望だらけの世界に目を閉じようとしたその時。
「おっはよう!」
一際明るい声が響いてビクッとする。来たのだ、この学校の主役様が。
美男で8頭身、その明るい人柄で人を惹きつけて止まない荒木くん。
彼が来るとクラスの温度がわっと上がる気がする。明るく皆に挨拶をしていく。
「よ、藤崎。おはよ」
通りすがりに僕の背中を軽く小突く。顔をあげればその整った顔をニッとさせて笑う。
荒木くんは良い人だ。こんな僕ですら親しげに絡むほど。
そして当たり前の様にさっきの美男美女グループの輪に入っていった。真ん中ポジションで楽しげに談笑を始める。
荒木くんのつける洒落たピアスが、太陽の光にユラユラ揺れる。まばゆいばかりに反射した。
残酷な程の格の違い。
彼らの青春をいっそう彩るかの様に、真夏の蝉が生命力ふり絞り鳴き始めた。
指折り数えてみる。彼らと離れられるまであと20日。
『蝉の鳴き声が終わる頃』
生まれた頃からひどく内気だった。人とコミュニケーションなんてどう取れば良いのか分からない。容姿も平凡。
居てもいなくてもどうでも良い。じゃあ居なくて良いじゃん、アイツ面白くないし。そんな感じで人の輪からそっと押し出されてしまう。それが僕だった。
友達は唯一家が隣の幼馴染だけ。
だけどその子とは高校進学を機に離れてしまい、こうしていま圧倒的孤独を噛み締めている。
ガチで友達は文庫本、そんな感じ。
このまま僕は誰の記憶にも強く刻まれることもないまま居なくなるのだろう。まあそれも良いか。そう思っていたのだが。
僕の運命はその日突然、思いもよらない方向にねじ曲がることになった。
夏休みを目前に控えた朝のホームルームで、担任の先生が言った。
「…という訳で、えー10月の文化祭に向けて夏休みの内から作業を手伝ってくれる人、誰かいませんか」
要は先生の雑用係。こんなの誰がやりたいもんか、そう思ったものの。
「え、あたしやろっかなー」
そう陽キャ軍団がキャッキャ言い始めるのを耳にした。
夏の思い出づくりっすか。良いね、僕には関係ないけど。再び寝ようとした時。
「先生、俺やります!」
荒木くんが快活に挙手をした。朗々と声が響く。さっすが。てか知らなかった、声まで良いんだなと呑気に思っていたら。
荒木くんは言った。
「あと藤崎もやるって」
めっちゃニコニコ、爽やかな意地悪笑顔で僕を指差し指名した。
「え!?」
ザワつく教室。やや困惑した先生。
「…あー、藤崎君。本当にやれるかね。まあ夏休みに何日間か出てもらうくらいの作業だけど」
ここでイヤですとか言えるほど図太くはなかった。
「あ、はい。大丈夫です…」
「じゃあ文化祭係はふたり、よろしく」
こうして決まってしまった。挨拶以外でちゃんと喋ったことなどない、人気者ハンサムボーイとの文化祭係が…!
荒木くんの方を見たら、その整った顔に大層素敵な笑顔をのせてニコニコと僕に手を振った。
***
「いやー悪い悪い、なんか俺1人じゃ不安だなーと思ってさ!」
「…う、うん…」
休み時間。どうしたもんかと思っていたら、自らその長い足で僕の方に颯爽と来てくれた荒木くん。ドカッと僕の隣の空いてる椅子に座った。そして長い足を持て余している。
「まあ俺一応学級委員長だろ、やっぱああ言うのは俺が引き受けねーとかなーって」
「さっすがあ…」
機嫌良くチュウウとイチゴミルクの紙パックを吸う荒木くん。ほらよと僕にも同じものをくれたナンパな奴。
「でも何で僕?」
陽キャ軍団とやれば良いのに。ほらあの子、アイドルみたいな誰だっけ、あ、柏木さん。
あの子、荒木くんが挙手した時めっちゃ見てたけど。
「俺お前とあんま絡んだことないじゃん!?俺クラスの皆のこと知りてーんだよなー。
お前いっつも難しい顔して本ばっか読んでるから絡む機会もなかったし」
はははと朗らかに笑う荒木くん。まじ良い奴過ぎる。いや神かな?
「って訳でよろしくな、ミツル!」
キラキラと素敵な笑顔。そして肩をパアン!と叩かれて思わず怯んだ。結構チカラ強い。何とか答えた。
「よ、よろしく。荒木くん」
すごいな、陽キャって名前いきなり呼び捨てなんだ。うん、無理。
***
終業式の日。終わるや否や、僕らは早速先生に文化祭係のことで呼び出されて一緒に職員室に向かっていた。
並んで歩く荒木くんが朗らかな笑顔でアレコレ最近あった面白い話してくれるので、ありがたく拝聴していた。
見上げる荒木くんは到底同い年と思えなかった。もちろんいい意味で。
荒木くんは完璧な存在だった。身長180越えで肩幅が広く、何かの格闘技やってるおかげで筋肉質な身体。
それに股下何メートル?みたいな足の長さ。凛とした美男だけどその瞳はちょっと垂れ気味で愛嬌がある。カッコいいに加えてカワイイすら兼ね備えていた。
おまけに性格が明るくて人望もある。およそ欠点が見当たらない。人類の完成形ってことでもう良いんじゃないかなって感じ。
少し長めの前髪の下、楽しそうにその瞳を細めて彼は言った。
「…でさあ、友達ん家で遊び過ぎて遅くなってさ。夜2階の自分の部屋に忍び込もうとしたんだけど、窓の立て付け悪くて無理やり開けたらガラスにヒビ入っちゃって。パリン!ていう音で親飛んでくるし」
「ゴリラじゃん」
「ひでえ!」
あははと朗らかに笑った荒木くん。
ただちょっと脳筋タイプだからそこだけだね、欠点があるとすれば。
でもそんな欠点すら親しみやすさに変えてしまう荒木くんはやっぱり本物の人気者だった。
僕ですらもう『荒木くんて話しやすい』と思ってしまっていた。こんなんじゃ懐いてしまいそうだ。
***
「これ全部チェックするのか」
「大変だねえ…」
文化祭係の仕事っていうのは、要はちょっとした書類作ったり準備室の片付けしておいたり、そういう仕事だった。
放課後残って教室で作業をすることになり、初日の今日は備品のチェック。
教室の後ろの方で床に座ってあれこれやってると、荒木くんに陽キャ軍団が声を掛けていった。
「わ〜荒木、夏休みなのにかわいそ」
「先カラオケ行ってるねー」
おーすと手を振って答える荒木くん。
1人の女の子が脚を止めた。あのアイドルみたいな子、柏木さんだった。まつ毛が本当に長い。
「荒木。はやく」
さくらんぼみたいな唇を尖らせた彼女。
ってかさくらんぼみたいな唇って表現、キモいね僕。
「ああ…先行っててよ」
「今日は来てよ?」
「まあ、行けたらな…」
「荒木!」
「わあかったよ。…また連絡するって」
怒りを滲ませる彼女に、負けた様子でそう言った。
お、尻にしかれてるんだね。まああの子にキツく言い返せる男なんていないだろう。
なんとなく名残惜しげに去って行った彼女。ぺたぺたと上履きが遠ざかっていく音が寂しく聞こえた。
すまない。ちゃちゃっと終わらせて早く荒木くんを返してあげなくては。
謎の使命感で僕は高速で作業を進めた。細かい作業は得意だ。荒木くんが若干手こずっているのを脇目にサクサク進めていく。
「おお…ミツル、はええな。まあもうちょっとゆっくりで良いんじゃないか?」
「カラオケ行くんでしょう?さっさとやって解散しよ」
僕も自分の部屋の片付けを良い加減やらなくてはいけない。
「…あー、まあ。作業終わりに気が向いたら行く、くらいで考えてる。だからあんま気にすんな」
「あ、そうなの?」
行くっぽい返事は嘘だったのか。
柏木さんの後ろ姿を思い出す。
「それちょっとかわいそうじゃない?」
「まあ、しゃあねえじゃん…」
ふうん、そんなもんか。
ってかあんな美少女+キラキラ同級生とのカラオケ行けたら行くという温度感がすごい。僕なら両手で拝んでしまうところだ。
まあ本人があんまり行く気ないなら仕方ないか。
そう思って作業に戻ろうとしたら、荒木くんはふいにパッと何かを閃いた顔をした。
「あ!ってかカラオケ今度お前も来れば良いんじゃね!?そしたら楽しいし!」
「えっ何で!?」
訳わからなさ過ぎてつい、あははと笑ってしまった。そんな僕を荒木くんはジト、と見つめた。
「カラオケくらい来いよ、つめてえな」
「それ荒木くんが言う!?」
また笑ってしまった。
***
ミーンミーンと蝉の鳴く声が聞こえる。気づけば集中して作業をやっていた僕ら。無言になっていた。
冷房がイマイチな教室では、汗が滴るのを止められない。鼻先から垂れそうになるのをグイと半袖シャツで拭った。
ふいに荒木くんが口を開いた。
「ミツルってさあ」
「うん」
「いつもクールだよな」
「え!?うん…?」
ただぼっちなだけ。
「誰ともつるまず自分の世界を確立してるって感じ。カッコいいなお前」
そんなこと人生で初めて言われた。
蚊帳の外にいるだけ。他人に興味が持てないのもあった。どうして普通になれないんだろう?自分ですらほんのり疎ましく思っていた僕を、そんな言葉で評してくれるなんて。
驚いて荒木くんを振り返ったら向こうもこっちを見ていた。
「な。ミツル」
ニコと微笑んで言った彼。優しい瞳にバツが悪くなる。
「ただコミュ障なだけだよ」
そう言って瞳を伏せた。
それからお互いまた黙々と作業した。
特に何も話さなかったけど、荒木君と過ごす時間はおだやかで僕には心地良かった。
荒木くんにとってはどうだったかは分からないけれど。
***
「よおし、今日はこんなもんだろ」
夕方にキリの良いところまで終えられた。良かった。
「明日は16時に来れば良いんだよね?僕、これから図書室寄ってくから。それじゃまた明日」
そう言って鞄を肩に掛けつつ解散しようとしたら、グイと唐突に腕を引っ張られてドキッとした。
振り返る。
「つめてーな。俺と一緒に帰ったって良いだろ。俺も図書室行く」
不機嫌な眼差しが僕を捉えていた。
「え、はい。すみません…」
こんなド陰キャに荒木君と並んで帰る権利なんてあったのか。僕は初めて知った。
でもどうしよう。図書室、流れ解散にしたいから適当に言ったんだけなんだ。仕方ないので適当に行って適当に借りた。
『そういうの好きなのか』って聞かれて、適当にウンと返事した。
一緒に帰る道すがら。連絡先教えろと言われて交換した。
チラと見えた荒木くんの携帯の画面は、大量に色んな人からLINEのメッセージが来ていた。人気者って引っ張りだこなんだなあと実感した。
並んで歩く。
東京都内のこの高校は駅チカなんでそこは助かる。じきに駅が見えてきた頃。
ラーメン屋の前を通りかかる際に荒木くんは突然言った。
「…ってかさ、ラーメン食ってかね!?俺腹減った」
「まだ4時半だよ」
「やだああ腹へったらーめええん。なあ付き合えよー」
「えええ…」
やっぱ身体鍛えてると代謝が違うのかな。僕なんてお昼のお弁当の唐揚げがまだややもたれているのに。それかただのわんぱくなのか。
おねがい!と手をすりすりされて僕は折れた。
カッコいいのに時にカワイイ系美男。荒木くんは手に負えない。
ちんまりとした店内に、サラリーマンがまばらに座っている。
店内のガラスのショーケースにはコーラとラムネの瓶、ドムと置かれた古びた扇風機。古民家感漂う内装。僕は結構好きなやつ。
「何にする」
ニコと僕を見下ろし、慣れた手つきで発券機を押していく荒木くん。僕のもサラッと買ってくれた。
慣れてるなあ。きっと友達と遊ぶのもデートにも。
友達(仮)と放課後にラーメン屋さんに寄るなんて僕は人生で初めてで、ちょっぴり感動すらしてるんだけど!
木造のカウンターに並んで座った。
頼んだのは荒木くんは醤油ラーメン。
僕はりんごジュースに杏仁豆腐(冷やかしもいいとこのチョイス)。
いただきますと食べ始めた。
「やっぱメッチャうめーわ。俺あとでミニチャーハンも追加しよ」
ラーメンが景気良くずばばと吸い込まれていくのを感心して見ていた。なんて食が良いんだ。お母さんこれはさぞ料理しがいあるだろう。
ふと荒木くんが僕を見た。
「チャーシュー食う?」
「ううん大丈夫」
「遠慮すんなって」
ホレ、と差し出されて迷ってあむと一口頂いた。
ここで頑なになるのは何かダメな気がした。
「他に欲しいもんあったら言えよ。ラーメンでもラムネでも」
「かあっこいい〜。彼氏じゃん」
茶化して言った。
だろ、と荒木くんは嬉しそうに笑った。
その後チャーハンを追加発注し、ラーメンと併せて食べてる最中。
「ってか、あっち」
ついに暑さにあえいだ荒木くん。シャツをパタパタやって扇風機の方を向いた。その時、首筋が露わになり、浮いた汗の玉がひとしずく、たらりと落ちていくのを見た。健康そのもの、男らしさそのもの。そんな荒木くんだった。
良いなあ、羨ましい。ドキッとして…。
「ミツルってあんま食わないのな」
ヒヤッとした。え、僕今何考えてた?やだやだやだ。
「うーん、まあそうだね。
荒木くんはさあ、そんなに食べててどうして太らないの?」
雑念を振り払った。
「まあ鍛えてるからなー。今日も家帰ったら10キロくらい走るし」
「ひえー、無理」
「あっ一緒に走る?」
「何でだよ」
だめかーとちぇっと荒木くんは言った。
「一緒にトレーニングしてくれる奴探してんだよ。ちょっとは付き合えよミツルう」
「それ人選ミスだよ」
「つめてーな」
ガッと首に腕を絡ませられて怯む。うわっ距離近っ。しかも荒木くんおしゃんな香水の様な匂いするし。ませてますね。まあ高校生なら普通か。
「ちょっと、ちょーっと一緒に走るだけ。終わったら喫茶店でコーヒー奢ってやっからさあ」
「やだよー」
まあでもあの普段仲良い子達、走ったりとかはしなさそうだもんなあ。
おねがいと2度目の荒木くんの懇願に…。
「まあじゃあ考えとくね」
そう社交辞令120%で答えたんだけど。
「よっしゃあやったぜ!」
めっちゃ喜んでしまった荒木くん。ゴールデンレトリバーが頭をよぎった。
「…ミツル、あーん」
ふいに荒木くんが言ったので、一瞬理解出来なかった。
「え、なに?」
「杏仁豆腐。俺にも一口くれよ」
あ、と口を開けた荒木くん。犬歯がちょっと尖ってる。やっぱ犬系だ。
「そういうのは女子にやってもらえば」
「おねがいい俺も杏仁食べたいい」
僕は苦笑して杏仁豆腐をひと匙掬い……荒木くんはスプーンにかぶりついた。
「うめ」
超ニコニコに笑った荒木くんは、何か同性ながら可愛かった。
ご馳走様と店を出て、駅の改札に着く。
「じゃあね荒木君」
「おお、またな。てかやべ、めっちゃ腹いっぱい。走れっかなこの後」
「それで走るの!?」
「まあな」
じゃあなーと手を振って別のホームへと向かっていった荒木君だった。
僕もホームの階段を登る。携帯を見ていると、荒木くんからLINEが来た。
『次ここに行ってみない。うめーんだよ。俺のおすすめ』
そう言って送ってきたURLは別のラーメン屋のURLだった。
思わず微笑んだ。ラーメン好きなのかな。
電車が来たので乗る。
まだまだ明るい夏の夕暮れの景色を見ながらふと思った。
そういえば荒木君、やっぱ結局カラオケ行かなかったな。
***
翌日は夕方から集まり、作業をもくもくと進めた。
終わる頃には18時。帰ろうとしたら荒木君は言った。
「俺今日これから近くの公園でいつもの皆で花火やるんだ」
「へえ」
さすがザ・青春て感じ。感心すらした。
まあ僕には関係ないですね。
「楽しんで来てね。それじゃ…」
「それで、お前も来るって言ってあるから」
「え!?」
ニコニコ顔の荒木くんは、僕を勝手に文化祭係に任命した時と同じ顔で悪戯に笑った。
所定の公園に行くと、既に皆集まって花火をやっていた。
夏休みの彼らは一層カッコ良い・可愛い・お洒落だった。雑誌から抜け出てきたの?って感じ。荒木くんという接点がなければ一生関わり合いになることはなかっただろう。
自分の子供っぽさが際立ってしまってつらい。
「おつかれー!こっちこっち!」
そう言って手を振ってくれたのは、柏木さんだった。
陽キャ軍団、と小馬鹿にした様な名称で内心呼んでいた彼らだが、僕なんかにも気さくに声を掛けてくれた。ちょこっとお話してみた感じ皆普通に良い人だった。
美男美女で性格も明るくて優しいとか完璧じゃないか。神はなぜ人をこんなに不平等に創り上げるのだろう。
「ほら、藤崎くんもコレ持って!」
握らされた太い花火の束。爆発?ってくらい火花が飛んで僕は心底怯えていた。
「死ぬ!死ぬから!」
「大丈夫だよ藤崎くん」
「だ、誰かーー!!」
助けを呼んだ僕。荒木くんがめちゃめちゃ笑いながら僕から花火を取り上げた。ちょっと人から離れたところに行って花火を振り回して見せてくれた。すごいな。無理。
火花散るオレンジ色の光の中、美しい横顔がチラつく。
花火が消えたところで、わいわいと色んな人が荒木くんに近寄って行った。彼は自然に真ん中になる。楽しそうな笑い声。
荒木君を少し遠くに感じていた。
向こうの方でキャッキャと皆が派手な花火で遊んでいる。
それに引き換え、線香花火でちんまりやっているのは…僕。
そしてそれに付き合ってくれる律儀な荒木くん。
手元の線香花火を見つめながら言った。
「……荒木くんはさあ、どうして僕に構うの」
ずっと気になっていた。
こんなド陰キャの何が良いのだろう。自分でも思っている。
線香花火を見つめるフリをして、荒木くんの視線から逃れていた。
「知りたいからかなあ。お前の頭の中が」
「ええ?」
苦笑してつい顔を上げてしまった。
「頭良いから、ミツルは」
「買いかぶりすぎ。あり得ない」
さすがに失笑してしまった。
「そんなことない」
真っ直ぐな瞳が断言する。言い切られてドキッとした。チラと向こうの皆を確認して、彼は言った。
「俺、ずっと死にたかったんだ。
だけどミツルに救われたんだよ。お前は知らないだろうけど」
公園の蝉がジジ、とひとつ鳴いた。
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