【創作bl小説】あの雨の日のふたりに捧げる歌【stardust番外編2/ひかり編】
⚠️創作BLです。
⚠️本編は以下のサイトで無料公開しています。
https://tsukiyo-novel.com/2021/11/29/stardust/
⚠️番外編1のひかり目線のお話ですが、この番外編2だけ読んでも楽しめます。
番外編1はこちら↓
https://note.com/tsukiyo0710/n/n075a4630050c
⚠️オメガバース要素含みますので、閲覧はご注意ください。
⚠️一部性的描写を含みます。18歳未満の方は閲覧・購入をお控え下さいますようお願い致します。(イチャイチャ度★★☆☆☆ 描写はあるけど少ないです)
悪い知らせ
「話があるんだ。ひかり・・こっち来てよ」
ある日の夕方。廊下で梓に固い声音で話しかけられて、ものすごくドキッとした。
ひと気のない廊下の奥に向かって連れていかれる。あそこで何か言う気だ。悪い予感に支配されていく。
近づくにつれて、ドキドキ、バクバクと緊張が高まった。
さて、と梓が振り返る。大好きな梓。まっすぐ見つめられて、こころ揺れた。
だけどそれも束の間。
「俺、雨宮先生が好きになった。昨日、番になったんだ。ごめん、今までありがとう。
・・それだけだよ」
その残酷な言葉を聞いた瞬間、僕は頭が真っ白になってー・・
「・・ひかり?」
ただただ震えていた指先。
「ひかり、怒ってるよな。運命に抗いたいだの言っておいてって呆れてるか。
・・でも俺は先生への気持ちを抑えられない。すまない」
それじゃと背を向けようとした梓。
行かないで!!!
慌てて梓のブレザーを掴もうとした手は、空を切った。
「あ、優馬!待ってよ!そこにいて!」
そのとき窓の下をたまたま通りかかった先生を見つけるなり呼んだ。
『優馬』・・?
その愛おしそうな呼び声。
僕をトンと押し退けた素気ない梓の手。
じゃあねと本当に行ってしまった冷たい梓の背中。
それら全てが僕をズタズタに切り裂いていた。
「・・・」
見なきゃ良いのに、梓が先生に追いつくところを窓から見ていた。
嬉しそうに声を掛け、ひと目も憚らずに抱きしめた。そして確認する様に、先生のワイシャツの首元をグイと捲った。
噛み跡があったのを、僕は確かにこの目で見た。
『アンサーソング』
その後のことはあまり覚えていない。ショックに打ちのめされたままふらふらと学校を出て・・。
駅で適当な電車に乗って、適当に降りて、彷徨い歩いた。ふわふわと現実味がなかった。
思い出すのは今までの梓のこと。
僕を好きだと言ってくれた梓。臆病がらずにその手を取っていれば、こんな風にならずにすんだ?
僕が学校でクズって虐げられて辛かった時も、側で僕を守ってくれた梓。どんな時もそばにいてくれた梓。
そんな梓はもういない。
あず、あずさ・・。
薄暗い駅の高架下。人通りのまばらのそこに僕はしゃがみこんだ。
ワンと反響して聞こえる物音だの、人の声。
『優馬』
先生を愛おしそうに呼ぶ梓の声音が頭の中で妙にリアルに蘇った。まるで耳元で言われているみたいに。
・・うなじの噛み跡。『優馬』。
梓は、先生のものになったのだ。
もう『ひかり』って僕だけを呼ぶことはないの?
そう思うと涙が込み上げてきて、僕は肩を震
わせて泣いた。
梓、あずさ、大好きだった!
初めてちゃんと受け止めた現実はあまりに苦しくて。何度も蘇る今日の1場面1場面が、僕を容赦なく追い詰めた。
『雨宮先生が好きになった』
『俺は先生への気持ちを抑えられない』
トンと素気なく僕を押した、梓のあの手の感触。
それらが何度も何度も頭の中を駆け巡る。
だめだ、やめてくれ!頭がおかしくなってしまいそうだ!今日見たことなんて、もう何も思い出したくないのに!!!
割れそうな頭に爪を立て、グシャと頭を押さえた。ぼたぼたと涙がこぼれ落ちていった。
物珍しそうに遠巻きに人が通っていくのを肌で感じる。でもそんなのどうでも良かった。
梓・・。
予想外の出会い
どれくらい時間が経った頃か。
日が沈んだ寒空の下。変わらずしゃがみ込んでいた僕に、誰かが話しかけてきた。
「君。高校生だろ?一体何してるんだ、何時間もこんなところで。今何時だと思ってる」
手の甲でグイと涙を拭って顔を上げると、訝しげに僕を見下ろす若い男の人がいた。
ダークスーツにメタルフレームの眼鏡、芸能人並に整っているけれど冷たい顔をした男の人。歳は27、8といったところ。
「・・・」
放っておいてくれとばかりに再度顔をうずめた僕を、その人は良いから立てと手首を掴んで無理やり立たせてきた。
「補導されたくないならこっちへ来い」
有無を言わさず僕を引っ張っていく。
何なんだよこの人、放っておいてくれよお・・。
高架下から出てみれば、気づけば雨がパラついて降っていた。
訳も分からず通されたオフィスの様な場所。黒い革張りのソファ、無機質なデスク。誰もいない。
「はいタオル」
「・・・」
タオルを放り投げられた。色んなことに困惑していると。
「・・世話が焼けるね君」
イライラした声で言うと、側まで来て僕の頭だの肩だのを拭ってくれた。しっとりと濡れてしまっていた。シャープな甘さの香水の匂いがした。
「・・顔上げろ」
男の大きな手が僕の顔を上向かせた。額にそっと触れ、温もりが伝わる。
「!」
「熱はないみたいだがな」
自分よりも随分背の高いその人に、間近で見下ろされる。しばし見つめ合ってしまい、変にどぎまぎした。
「・・君ね、何か言ったら」
男は僕を見つめたままイライラと言う。
まずい。鞄からノートとペンを出して、筆談で伝えた。訳あって声が出ませんと。
「・・ふうん」
チラと僕を見て言う。僕は居心地が悪くて、縮こまった。
「で、あんなとこで何してた訳?何時間も。俺、打ち合わせで夕方通りかかった時も君見たけど、こんな夜になってもいるんだから。驚いたぜ」
「・・・」
また悲しみが込み上げた。
ただ首を振った。こんな赤の他人に簡単に言える話じゃないんだ。
「それじゃ何も分からん、せめて何か書け」
それでも首を振った。放っておいて欲しかったのだ。男はイライラと思案した。
「・・・。
君くらいの年齢の悩み・・何だ?模試が悪かった?身内の不幸?
それか失恋か」
ふいに言われてドキッとした。身が固くなったことでバレたのか。
男にため息を吐かれて、僕は居た堪れなかった。
「失恋したぐらいでなあ。君みたいな子供がこんな時間にこんな場所にいたらダメだろ」
心抉られてギュッと手のひらを握った。
失恋ぐらいだって?放っておいてくれ、何も知らないくせに!!
「・・家に帰れ。車で送ってやるから」
ブンブンと首を振って断ったけどその人は許してくれなくて。良いから書けの一点張りで結局、寮の住所を書かされた。
僕を高そうな車に押し込み、大分スピードを飛ばす。無言の車内。街灯に照らされる横顔は随分整って綺麗だが、やはり冷たい顔だ。
・・梓の優しい顔とは違う。またズキリと心が痛んだ。
一体何なんだ、この人。なんでこんなお節介するんだ。人の世話をする程優しそうになんか見えないのに。
考えて、辞めた。良いんだ、どうでも良い。この人が何だって。僕は梓を失った。それだけが事実だったから・・。
寮の駐車場に着くと、去り際その男の人は名刺を僕に押し付けてきた。
「これ、俺の連絡先。・・礼の連絡くらい寄越せよな。メールくらい出来るだろ。あと流石に思い余って自殺なんか考えるなよ。・・じゃあな」
来た時と同じようにスピードを出して、再度あっという間にその車は消えていった。
手に残る名刺を、半信半疑で見つめた。
肩書きが芸能事務所の社長だったから。
名前は霧崎モネ。
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