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柘榴の花がこぼれる

強い西日のように柘榴の花が咲いた
次々咲いてはこぼれた
窓辺にこぼれた花は部屋中をいつの間にか花の色に染めてしまった
同じ色のわたしと同じ時間の中にわたしよりも若い母が居て
目くばせし合うみたいにすぐわかり合った
決して穢されない眩しさに安心して
わたしは素足の指の間をひろげたり反らしたり
親指と小指を丸く近づけ
青く硬い柘榴の実が静かに艶めくのを思い浮かべたりした

ねえ、お母さん
大人になったら必ずしあわせになるの?

答えはYESしかない
勘づいて母は答えを言わない

口遊むように
ケ・セラ・セラ Whatever will be, will be
—はぐらかされたようで悔しい

しつこいから嫌いよ
母は時々わたしの探究心に
(それとも少し含んだずるさにだろうか)
たぶん大人の本音を口にした

わたしはまだ大人じゃないのに
母から聞いたヴィオロンのため息も
春の心臓も何処かに置いて来てしまっても
柔らかな風に揺れるカーテンのモアレや
陽を浴びてきらきらと光る夏草に
不意に惹きつけられるように
締めつけられるように
胸がドクンと鼓動を打つの
どうして?

キッチンの古びた戸棚は父の手作り
桜の木の皮が鈍く輝いて
今も変わらず美しいまま朽ちようとしている
引き出しの奥にはたぶん古いものが入っている
わたしは開けないでおく
たぶん永遠に

どうして? どうして?
大人になったら必ずしあわせになれる?

ケ・セラ・セラ Whatever will be, will be
—はぐらかされた

ケ・セラ・セラ Whatever will be, will be
—答えていない

<大丈夫、全て上手くいく>って
あの嫌な気持ちがするセリフ
必ず誰かが言うの
どうして? どうして?

ケ・セラ・セラ Whatever will be, will be
—答えが知りたいの

ケ・セラ・セラ Whatever will be, will be
—しあわせだった?

ケ・セラ・セラ Whatever will be, will be
—答えが知りたいの

ケ・セラ・セラ
唱えてごらん
ケ・セラ・セラ
これだけを
ケ・セラ・セラ
ケ・セラ・セラ

夕日が沈むまで

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