「読ませ押し」という技術について

 早押しクイズのテクニックの1つに「読ませ押し」というものがある。簡潔に説明するならば、「ボタンを押してから、さらに数文字読まれる部分を活用する」テクニックと言えるだろう。
 代表例として挙げられがちなのは答えが列挙の一部となっている問題。つまり名数問題だ。適当な具体例としては「世界三大瀑布に数えられる3つの滝とは、ナイアガラの滝、/イ」みたいな感じ。
 あと1文字聞こえれば確定するようなポイントで早めに押す、みたいなニュアンスで語られることが多い気がする。

 「読ませ押し」の技術は往々にして早押しクイズを知らない人へ「早押しクイズの代表テクニック」として語られがちだ。確かに「答えが完全に分かってから押す」のとは異なり、「問題を推定しながら押す」ことが要求されるテクニックである「読ませ押し」は思考の変革という点において都合のよいものなのかもしれない。

 ただ、この「読ませ押し」という技術、実はかなり難易度が高い。少なくとも「読ませ押し」という概念を知った完全な初心者がおいそれと真似できるものではない。

 そもそもとして、「読ませ押し」は「問題文の確定ポイントを推定しながら押す」テクニックだ。つまり、前提として「問題文の推定技術」と「問題の答え」がある程度分かっている必要がある。
 また、当然ながら読ませ押しにはリスクがある。名数の問題では起こりにくいが、問題の続きが急角度で曲がる可能性だって普通にある。(このあたりは問題群の傾向の加味が必要になる。)問読みによっても押すタイミングが変わる。
 要するに「読ませ押し」という技術はいくつかの早押しの技術の複合体であるのだ。

 初心者が早押しをする時にぶち当たる大きな壁は「分かってから押してもボタンが点かない」ことだ。私はその原因として「問題推定の技術」が大きなウェイトを占めると考えている。
 「結局この問題で聞かれているもののジャンルって何かを推定する」という部分だ。「読ませ押し」という技術はその先の発展技術である。一足とびに習得することはできないし、出来たつもりになっているのは応用の利かないミクロな問題毎の技術になってしまう。例えるならば答えを順番に覚えた数学の問題集みたいなものだ。

 それでもひと昔前ならばある程度の効力があったのかもしれない。問題文の構造が今に比べればまだ少なかった短文シーンならば。
 ただ哀しいことに現代の短文シーンは違う。問題文を聞きながら選択肢をイメージと経験からリストアップし、妥当な選択肢を絞り込んでいく現代の短文シーンでは、旧時代的な「確定ポイントを読ませる読ませ押し」の出番は少ない。そもそもとして名数問題ですら妥当な選択肢を推定するゲームに成り代わる。
 今使われている読ませ押しは「問題文を推定しきって、確定のワードが来そうなポイントを読ませる」とか「自身のイメージを補強するために追加のワードを聞く」とか、そういった類のものだ。

 先程あげた例は極まった環境における話だと言われれば確かにそうかもしれない。だが、個人的には問題文の変革が大きく起こっている現代のクイズにおいて旧来のような「読ませ押し」をクイズを始めたばかりの人に積極的に教えるのは少し違うんじゃないのかと思っている。
 少なくとも私は「早押しクイズのコツってありますか?」と聞かれて「読ませ押しってのがあって〜」とは言えない。
 おそらくだが早押しと定型の問題に慣れ、今風の短文問題に触れ始めたタイミングで意図しない誤答が爆発的に増える。「読ませ押し」に求められる技量が跳ね上がるからだ。(というか、そもそも今の短文で私は読ませ押ししてない。できる問題が少ないし。)

 「読ませ押し」という技術は使いこなせればかなり有用であることには間違いない。しかし、クイズを始める上で必須技能では絶対にない。今の短文シーンならば尚更だ。
 まずは自信のある問題を自信のあるところで押すことができるようになること。これが私が思う早押しクイズの第1ステップだ。
 


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