ショートショート。のようなもの#47『銭湯の親子』
私は、一週間で溜まりに溜まった仕事の疲れを癒そうと思い、帰り道にある小さな銭湯へ立ち寄った。
ほぼ毎週、私はこの銭湯を訪れる。
これは、金曜日の夜の些細な自分へのご褒美なのである。
がしかし、きょうは運が悪かった。
今、まさに私が浸かっている湯船の中で二人の親子が追いかけあってる。
他にも、沢山のお客がいると言うのに荒波を立てて水しぶきを飛ばしながら、泳いだり跳び跳ねたり縦横無尽に父親が息子を追いかけてやがる。
子供だけがはしゃいで泳いでいる光景なら度々目にするが、あろうことか注意もせずに、父親のほうが必死で追いかけてるではないか。
『…はぁはぁ、本当だな!?…本当に、俺が、ヒロくんを捕まえることができたら、約束を守るんだな!?絶対だぞ!…はぁはぁ…守ってくれるんだな!?』
まったく近頃の親というのは本当になっとらん。百歩譲って子供の遊びに付き合うのも親の仕事だとしても、何故ここまで必死になれるのだ?
それ以前に、周りでこんなに迷惑をしているのに叱ることすらできないのか?自分の子供だろ?
そんなことを沸々と考えていると、周りが見えなくなっていた父親の手が私の肩をペチンッと叩いた。
私は、瞬時にイラッとしてこの数分で溜まったものを全て吐き出してやろうと思い立ち上がったが、次に、その父親が発した言葉を聞いてゆっくりと腰を下ろした。
『…はぁはぁ、本当だな!?本当に、俺がヒロくんのことを捕まえることが出来たら、明日から俺のことを〝おじさん〟じゃなくて、ちゃんと…〝お父さん〟って呼んでくれるんだな…!?』
私は静かに手を伸ばすと、逃げる子供の通せん坊をした。
~Fin~