いちご一パック
子供の頃の夢で、実際かなったものは、皆さんお持ちだろうか。
私は大きなものは(歌手、漫画家、獣医になりたかった)一切叶わなかったが、ささやかなもののうち、叶ったものがある。
それは何かといえば、いちごを一パック、全部自分で食べる、ということだ。
小さいころから今に至るまで、いちごは一番の好物だった。
実家で子供の頃、一パックを5人家族で分けて食べていたのだけど、
そうすると食べるのはせいぜい、数個しかなく、物足りないことこの上なかった。
それで、一パックを全部一人で食べれたらないいのにな、と思っていたのが、大人になって実現したわけだ。
「いちごを一パック全部自分で食べる」という夢自体は、
叶えようとすればもっと早く実現できていたわけだが、
アメリカに移住して、一人暮らしを始めた時に達成した。
アメリカのいちごを見たことがある方はおわかりいただけると思うが、
日本のいちごに比べてとんでもなく大ぶりで、かたちはいびつで統一されていない。食べでがあるのはいいのだが、甘さもコクも日本のいちごからはかけ離れている。
とはいえ、いちごを思いっきり好きなだけ食べられるのができるのは、本当に嬉しかった。
年月が経つにつれ、アメリカでも日本のものが手に入りやすくなったけれど、長らく果物は流通していなかった。
他の人に比べて、あまり日本のものを恋しがらなかった方だが、
日本の美味しい果物…みずみずしい白桃、深い味わいの巨峰、メロン、いちご…などといったものは、帰国しない限り、味わえない存在で、たまに無性に食べたくなったものだった。
しかし、何年前からか、日系スーパーで、日本産のフルーツが多く並ぶようになったのだ。
だが、当然ながら高額である。
非正規雇用で働いて、借金持ちだった一人暮らしを始めた当時の私には、手が届かない、高嶺の存在だった。
正規雇用の仕事をゲットした時、借金を完済した時。
それぞれの節目で自分にお祝いはしていたけれど、
日本産のいちごのパックのことはすっかり忘れてしまっていた。
そんな中、去年、ようやく春先に、日系スーパーが近くにある場所に住み始めて、日本から空輸されたとちおとめが売られているのを目にした。
円安のおかげで、値段もお手頃で、迷わず購入した。
そして、いつもの通り、一パックを独り占めしたわけだが、
日本産のとちおとめは特別に美味しくて、格別だった。
そして、大人になってからみた夢、もかなった瞬間だった。