5年後、またここで【1話読み切り】
25歳の春、4年付き合ってた彼氏と別れた。
原因は、相手の浮気。
3年目の浮気ってよく言うけど、本当にそんな事するんだ。と
泣きながら頭では冷静に考えていた事を思い出す。
浮気しそうな人じゃなかったのに。
精神的に参ってた私を支えてくれたのは、幼馴染の涼だ。
『そんな奴早く忘れろ!』
といつも励ましてくれた。
落ち込んだ時はいつも、昔からよく涼と遊んでいた家の近くの公園のブランコに座る。
すると、何故かいつも涼がそこに現れる。
『よー、元気ないじゃん。どした?』
と、声をかけてくれる。
昔からそうだ。
私が別れた時は、しばらくこの公園に通うことになった。
相当なダメージが来ていたから。
涼もいつも来てくれていた。
何日経っても落ち込んでる私を見かねてか、
『じゃあさー、5年後の7月28日の午後6時にまたここおいでよ』
『なんで5年後なの?』
『それは5年後のお楽しみ』
私はこの約束をずっと覚えていた。
何故今言わないんだろう?とずっと疑問だったし、
スマホのスケジュールにちゃんと5年後の予定を空けておいたから。
久しぶりに公園に来た。
最近は仕事が忙しかったし、そんなに落ち込むことも無くなって来たから。
涼にもしばらく会っていない。
涼は、転職して東京へ行ってしまったから。
それでも連絡は取り続けていた。
でも今日、涼が来ることなんてないだろう。
きっとあんな約束したことすら忘れてる。
連絡は取ってるけど、この5年間一度も”約束”についてお互い触れたことは無い。
あの約束は何だったんだろう。
今度会った時聞いてみよう。
涼はもう彼女出来たかな。
私はもう5年間もいない。
涼に、彼女が出来たらちょっぴり悲しいな。
幼馴染なのに、涼の恋愛事情は一回も聞いたことが無い。
聞いたことが無いというより、聞きたくなかった。
私の話はいつもしていたけど、涼の事は何となく触れたくなくて
聞かなかったし、向こうも言ってこなかった。
さすがに彼女いた時あったと思うけど。
時計を見ると、すでに6時を回っていた。
やっぱり来ないよね。
何となく来る気もしたけれど。
そんなわけないよね。
5年前の約束覚えてたなんて言ったら、どんな顔するかな。
ちょっと電話してみようかな。
”~♪, ~♪~”
出ないか。
まだ仕事かな。
「あき。お待たせ」
「え・・・涼?どうして?」
ブランコに乗った私の背後から急に涼の声が聞こえた。
「5年前、俺から約束したのに忘れるわけないじゃん。
あきこそ、覚えてくれてたんだ」
「え、仕事は?今日平日だよ?東京から来たの!?」
「今日は1日有給取ってる。週末は実家で過ごすよ」
「そ、そうなんだ。」
「あきと会うの1年ぶりだね。去年のお正月以来?」
「そうだよー。涼全然帰ってこないんだもん。おばさんも寂しがってたよ」
「ちょっと忙しくてさー。でも、もう仕事辞めるんだ」
「え?どうして?」
「ちょっと忙しすぎてプライベートの時間取れないから、そんな人生嫌じゃん」
「そうだね。体壊したら意味ないもん。また東京で働くの?」
「うーん。ちょっと迷ってる。こっち戻ってくるか、東京で探すか」
「そっかぁ。涼がまたこっち戻ってきてくれたら私は嬉しいけど」
「あきは東京行くつもりはない?」
「どうだろ。行ってみたいとは思うけどー。私も転職ちょっと考えたりするからね。そのタイミングで東京もアリかなとは思ってる。でもまだ何にも決めてないや」
「そっか。あきさ、俺と結婚しない?」
「・・・は?」
え?何?
なんて言った?結婚?
「ええ?!?!なに!?どうしたの突然!」
わけがわからなくて大パニックだ。
「いや、言った通り。結婚しよう」
「ちょっと待って、意味がわからなすぎる。私たち付き合ってた!?」
「いや、付き合ってない。」
笑いながら涼が答えた。
「だってもうお互いの事知り尽くしてこれ以上交際する必要なくない?」
「いや、え?だって恋人らしい事ゼロじゃん!これで急に結婚とかどういうことなの!?涼、東京行っておかしくなったの!?」
「ははは、ごめんごめん。いきなり結婚はちょっと行き過ぎてるな。
じゃあ付き合おう」
「なにそれ・・・。涼、私の事好きだなんて一回も言ったことないじゃん。」
「え、気づいてたんじゃないの?それで今日来てくれたんじゃないの?」
「はあ?いつそんな素振りみせたのよ。一回も気づかなかった」
「ええええ・・・。俺結構アプローチしてたと思うんだけど・・・。」
「言葉にしてくれなきゃわかんないよ!」
「そっか・・・。ごめん。あき、ずっと好きだよ」
”好き”
まっすぐこっちを見て言った。
ドキッとした。
「私だってずっと涼と一緒にいたいって思ってたけど、早く言ってよ!!!私に彼氏できてたらどうしてたの!?」
「奪う」
「なにそれ!」
「うそ。あきに彼氏いない事知ってた。」
「でも私たち、恋愛の話してなかったよね?」
「うん。でも、みきちゃんには聞いてた」
”みきちゃん”とは私の姉の事だ。
私は恋愛相談は全て姉にしているから、いつも好きな人が出来たらすぐに姉に報告していた。
「そこがグルだったとは・・・。え、でもいつから私の事好きだったの?」
「小学生の時から」
「そんなに・・・?言ってよ・・・」
「小さい時は関係性壊すのが怖かったんだよ。いつか俺のところに来るって確信があったし」
「えーなんか嫌それ」
「はは、冗談。本当はどこか違うやつと一緒になっちゃうんじゃないかってちょっと不安だった。」
「なにそれ・・・。ってか涼って彼女いたことあるの?」
「あるよ。あきに彼氏が出来た時」
「そうだったんだ」
全く知らない事だった。
「でも、その子と向き合ってみたけどやっぱりあきが良くてそのことバレて別れた」
「それサイテーだよ・・・」
「うん。本当にひどいことしたと思ってる」
「涼の事はよく知ってるけど、恋愛観がわからないからなあ。ちょっと様子見。男って、友達の前と彼女の前じゃ全然違うから。暴力振るうやつもいるし」
「いやいや、俺絶対暴力しないから!」
「わかってるよ」
涼はそんな人じゃないことは私が一番よくわかってる。
「じゃあ、まあとりあえず付き合ってみる?」
「とりあえずっていうか結婚を前提によろしく!!」
「えーおもーい」
「重くない!俺は真剣なの!」
「真剣なら早く言ってよ!」
「それは本当にごめん!」
「っていうか何で今日なの?7月28日ってなんかの日だっけ?5年後だったのは何で?」
「俺が初めてあきに恋した日。その日自分の気持ちに気づいた。もう20年前だけど。その時俺はあきに『結婚いつしたい?』って聞いたら『30歳』って答えてたから。だから今日にした。」
「よく覚えてるねそんな事、私何も覚えてないや」
私は笑いながら言った。
「じゃあ、手繋いでみる?」
「そうだね」
こんなに長く一緒にいるのに、改まって手を繋ぐなんて初めてで、
涼と手を繋ぐ事に違和感を覚えつつも
手を握った感覚が妙にしっくり来ているのは
やっぱりこの人かもと思わせる事でもあった。