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巡る星と新月の夜
冬の朝、家
夢を見ていた。
景色は夜だったし外に出ていたはずなのにまるで木漏れ日の中でうたた寝をしているかのようなほのかな温かさと幸福感だった。
「私はルナ……早くこっちに来て……」
見覚えのある人影が見えた気が
あれは…
「ジリリリリ……」
目覚ましは今までの多幸感とか夢心地を打ち消して現実味を与えると同時にぼくに寒さを与えた。
さっきまでの温かさは布団の温もりでアラームを止めるために布団から出した手は朝の寒さをこれでもかと脳に伝えてくる。
15分後
気だるさと自制心の長い戦いの末、ゾンビのように布団からはい出て電気ストーブと湯沸かし器の電源をつけトーストを焼く。加湿機能付きの電気ストーブはぼーっと弱々しく温風を吐き出すが正直いって気休めにしかなっていない気がする。それでもその前に座ってしまうから不思議である。カチッという音と共に立ち上がりインスタントコーヒーを作りカップで手を温めながらトーストをさらにのせ食卓に着く。この時間は自分の中で平穏な日々の象徴であると同時に抜け出してみたい退屈で凡庸な日々の象徴でもあった。
しばらくのんびりしたのち学校に向かう。自転車で最寄り駅まで向かい、電車に乗り目的地の最寄り駅まで着いたら降りて歩いて向かう。何ら特別なことなどない普通の高校生だ。ただ、自分にはそれを変えられる力もがないのでその当たり前の日常を当たり前に享受して人の群れに埋もれる毎日である。学校につくとそこそこに中のいい友達たちと程よい距離感で過ごす。恋人もいなければ、好きな人もいない。ラノベのような夢の学校生活はどこにもないのである。もちろん現役の学生諸君や卒業生の大人たちならよく知っているはずだ。学校とは所詮そのようなところであると……。
幕間
今この小説を読んでくれている君はラッキーセブンの777字を少し超えたところまで読んでくれているわけだが君はどんな話が読みたいのだろうか。なにせ小説を書いたのは初めてで構成も文章見ての通り非常に拙く上手な出来でないことは先に謝らせてほしい。ただ本当にここまで読んでくれてありがとう。私はきっとそう伝えたかったのだ。
曇天の昼間、学校にて
私は物思いにふけるのが好きだ。学校でも電車の中でも頭の中で考えていると飛ぶように時間が過ぎていくし様々なことを思いついたり予測したりできる。かくいうこの小説もその物思いの中で生まれたものを少し書き出しているに過ぎない。気だるく退屈な曇天の心にはそのような平穏がちょうどよかった。
自分の席で物思いにふけっているとふと声をかけられた。
「今日の日直だけど仕事やった?」
声をかけてきたのは友人の瑠璃だった。
彼とは小学校からの仲で友人の中では一番仲がいい。
「忘れてた。というか今日ぼくだったのか?」
「引き継ぎされてなかったのかい?」
「うん、そうみたいだ。教えてくれてありがとう。」
そう言いながら黒板を消すために席を立った。黒板を消し終わって席に戻りまた彼と話し始めた。
「そういえばあの噂聞いたか?夜に学校でって話。」
「なんのこと?聞いたことがないな。」
そう聞き返すと彼は詳しく話し始めた。
彼が言うには夜の学校に行くと異界への門が開き何らかの能力を与えられ、いわゆる異能というものを手に入れられるというのだ。
いくらなんでも、高校生にもなってそんな話を信じるわけが……。
大いにありだな。
「その話どこで聞いたんだ?ってか今夜にでも見に行こう。」
そう私は魔法やファンタジーの世界が非常に好きでいつかそんな世界に……などと考えているタイプのいわゆる厨二病オタクだったのである。このなんの面白みもない世界よりもアニメなどのファンタジーの世界でのほうが絶対楽しそうだと感じていてオカルト的なものからアニメまで気がついた頃にはどっぷりハマってしまっていたのだった。
「行きたいのはわかるけど夜の学校だよ……。しかも噂には続きがあって、見に行った人は一人も帰ってきてないらしい。しかも、学校の屋上に見たことのない人影を見たっていう噂もある。そんなに曖昧な情報じゃ流石に……」
「帰ってきた人がいないのならこの噂は誰が流したんだ?それに、人影なんてどうせ噂を確かめに行った誰かを下から見つけただけじゃないのか?」
「一個目のはたしかにそうだ。帰っては来られないとこの話は成り立たない。ただ人影の方は白い長髪だった事はわかるのに顔とか服装とかはっきり誰も覚えていないみたいなんだ。そこまで見えててわからないなんておかしいだろ。見たはずなのに、全員忘れてしまうんだってさ。」
その話を聞いて私が一瞬顔をしかめたことに彼は、
「なにか知ってることでもあるのか?」
「ん……?いや、特に何も……」
「どちらにせよ屋上への侵入はまずいでしょ。しかも夜だよ……。」
「ならなぜ私にこの話を教えた?君ならこうなった私に何を言っても無駄なことくらい知っているだろう。」
「そうだな……。それもそうだ。一人で行かせるわけにはいかないしぼくもついていくよ。」
「ありがとう。それでこそ瑠璃くんだ。」
薄明かりの放課後、学校で
「学校に夜まで残り、更に屋上に侵入するにはとりあえず隠れなくてはならないね。」
「確かに、先生に見つかったら帰らされちゃうしね。」
誰もこなさそうなところを探すということで理科塔の廊下の奥に座って待つことにした。
ここを選んだ理由は実はもう1つあって、私も瑠璃くんも理系科目のできが非常に良くもし万が一見つかっても理科科目の先生たちなら許してくれるかもしれないという期待もあった。
途中、先程の態度について何かあったのかと、本当は心当たりがあるのではないのかと彼に聞かれた。
「なにか心当たりがあるんだろう?」
「実は今朝見ていた夢が……あまりにリアルで美しかったのだが、夢の中にその、はっきりと思い出せないのに鮮明な白髮ロングの少女が出てきたんだ。それでさっき噂を君から聞いたらいつも以上に何がなんでもそれを見に行きたいという気持ちが湧いてしまってね。もしかしたら夢のせいなのかもしれないと思っているんだ。」
瑠璃くんは少し考えているようだったが
「なるほど。もしかしたらなにか関係があるのかもしれないね。ここまで来たらぼくも興味が湧いてきたしどんなものなのか確かめてみよう。」
となると残る問題はと残る問題は……
「とりあえず隠れ場所はいいけど次はどのように屋上に上がるかだよね。」
「それなんだが外にある非常用階段を使って上がるのはどうだろうか。瑠璃くんが頑張って塀を越えられればその階段を上がることで直接屋上に迎えるだろう。というかそれ以外の方法がないと思うんだ。」
幕間2
私は星空が好きだ。星の名前は知らないしそんな物に興味はない。純粋にあの夜空いっぱいに降り注いでいる星を見るのが好きなのだ。夜は外も昼間と比べて静かで涼しく家の近くでもどこか遠くにいるのかのような気分になれる。ただひたすらにそれがとても心地いい。
宵の空、学校
瑠璃くんは賛同するように頷いた。ついに屋上への作戦を決行する時が来た。
実は電気を付けるとバレてしまうからということで電気をつけずに進むしかなかったのだがこれが思った以上に何も見えず特に非常階段の柵を越えるのは難関だった。新月の夜だったため何も見えず手すりを越えられるところも窓から階段の柵に軽く飛び移って行わなければならなかった。しかも足をすべらせて落ちた場合3階の窓から真っ逆さまに落ちていくしかないのだ。冷たく冷えた外の空気と凍りつくような窓枠を掴み下を覗けば本当の奈落のような暗闇と寒さのせいだけでは説明のつかない寒気を感じさせた。そんななか非常階段の柵に手をかけた瞬間、足元がぐらついた。手が冷たくなりすぎて感覚が鈍っていたのだ。
「おい、大丈夫か?」
瑠璃が慌てて呼びかける。
「な、なんとか」
少しスリリングな場面もあったが無事階段にたどり着けた。そうして階段を登っていくと何やら声が聞こえて屋上に誰かがいるのが感じ取れた。ついに屋上にたどり着くとそこには真っ白い髪の美しい少女がいた。年齢的には同じくらいだがファンタジーの世界から出てきた魔法使いような服装だった。
「やっと来てくれた。ずっと君のことを待ってたのに他の人ばかりで君は来てくれなかったから。夢の中で何度も呼んだのに。」
そんなことを告げる彼女の後ろに広がる星月夜はまるでオーロラのような美しい光を放ち淡く美しく輝いていたのだった。