人を中毒にする、なぜか声に出したくなる言葉を集めてみた
もう十何年も前のことになるが、学生時代の「歴史」の授業で覚えた「長宗我部元親(ちょうそかべもとちか)」という地方豪族の名前を定期的に口に出したくなる。彼は戦国時代から安土桃山時代を生きた、現在の高知県の戦国大名で、織田信長や徳川家康ほど有名でもなく、試験に出るわけでもなく、教科書の隅っこに鎮座していた。
ただ、十何年経った今でも、なんだかそのワードを発したくなってしまうのだ。長宗我部元親、ちょうそかべもとちか、チョウソカベモトチカ、ChosokabeMotochika……。この現象はなんと形容すればいいのだろうか。
意味なんてないけれど、なんだか声に出したくなってしまう言葉。あなたにはあるだろうか。そこで今回、皆様がつい声に出したくなる言葉をアンケートで募ってみた。
墾田永年私財法
まず、「明治プロビオヨーグルトR-1」の広告として渋谷駅に登場したことでも話題の「墾田永年私財法(こんでんえいねんしざいほう)」だ。これは、天平15年(743)に発布された法令で、一部の条件を満たせば、墾田の永久占有を許されるといったもの。
漢字7文字と覚えにくく、歴史のテストで学生たちを苦しませる単語だからこそ、逆に暗号のように唱えたくなったり、無駄に友人との合言葉にしたくなったりする。こんな風によくわからない言葉も、青春のカケラのひとつなのかもしれない、と思ったりする。
スリジャヤワルダナプラコッテ
意味が全くわからない。スリランカの首都の正式名称であるため、この言葉自体に意味があるわけではないが、なんだが言いたくなってしまう気持ちがじわじわと湧いてくるのも事実。
とっても語呂がいいのだ。ネイティブな発音はわからないが日本人が読むなればスリジャヤ、ワルダナ、プラコッテの3つに区切りをつけて言葉を発するかと思う。
そこで簡単に分析してみると、はじめの「スリジャヤ」は「ヤ」の母音「あ」で終わり、次のワルダナもの「ナ」も「あ」で終わる。どちらの濁音からの「あ」で終わるため、次に発音する言葉の助走をつけている気がしてくる。そうして、きっちり助走をつけた後に「プラコッテ」だ。
この「プ」という少し気が抜けた音から始まり、詰まる音「ッ」が入ることで綺麗にジャンプが決まり、無事に「テ」で着地する。これはつい声に出したくなってしまうのもうなずける。皆さんもどうぞご唱和あれ。
おびんずるだこ
おびんずるだこ……? 「おびんずる」から連想するに何かが剥けているイメージが湧くが、実態はどんなものなのだろう。
京都の新京極通にある蛸薬師堂(たこやくしどう)に木彫りのタコさん「なで薬師」がおられるのだが、別名、御賓頭盧蛸(おびんずるだこ)と呼ばれるそうだ。なるほど、やはりタコだったのか。ちなみにこの「賓頭盧」とは釈迦の弟子の1人、またはその像など諸説あるようだが、病気の快復を祈願する信者に撫でられるあまり頭がつるつるになってしまった人やその状態も指すらしい。
おそらくそこに附随して、この「おびんずるだこ」さんも左手でなでなですると病気がよくなるんだとか。こんなご時世ではあるが、早急に頭をなでなでしに行きたい。
そういえば、漢字の羅列である「御賓頭盧蛸」で思い出したが、一時期、大乗仏教の仏である「盧舎那仏(るしゃなぶつ)」という言葉にハマりすぎて、SNSのアカウントをすべて盧舎那仏に変更したことがある。それによって友人4人ほどにアカウントのブロックをされたが、後悔はしていない。
アジャラカモクレン、〇〇〇、テケレッツノパ
なんだこの呪文のような文言は、そう感じられた方は大変鋭い。もしかして一度、足元に死神がいた経験があるのだろうか。こちらは古典落語の演目のひとつである「死神」にて登場する「まじない」である。病人の足元にいる死神に「アジャラカモクレン、〇〇〇、テケレッツのパー」と唱えるとたちまち死神は去り、病気が治るそうだ。
「ひらけごま!」であったり、「ちちんぷいぷい」であったり、幼少期の我々はこんなにもたくさんのまじないを持っていたのに、大人になった今、そのまじないを信じて唱える人は少ない。そんなことを思いながら、明日目が覚めたときに、枕元に死神がいないことを祈る。枕元に死神がいたらすでに寿命が尽きる間近で、その命が助かることはないそう。
トリニトロトルエン
この言葉を初めて口にした時、普段の会話において、いかに舌が仕事をしていないかと、ちょっとばかり責めたくなった(食べ物を味わう際に大いに活躍していることは存じており、感謝はしているので、舌を切るとか言い出すのは勘弁してほしい)。「ら行」って他の五十音よりも舌をちょっとばかり動かして発音するんだなあ、と実感することができるのがこの言葉である。
と、言葉を観察してみたところで、なんだこれは。文系の私からすると皆目見当もつかないが、トルエンを混酸でニトロ化したものだそうだ。ちなみに分子式はC6H2(CH3)(NO2)3である。ピクリン酸よりも安定しており、金属とは反応しないので爆弾の炸薬として使える。
さらに、1gのトリニトロトルエンの爆発でおよそ1,000calのエネルギーが放出されるため、1トンの場合だと4.184×109J(≒42億ジュール)となり、マグニチュード3.2の地震を上回るエネルギー出るよう。しかしここでなぜ1トンが出てくるのかわかりかねるため、次に進もう。
若者よ、体を鍛えておけ
最後にこちら。上述の5つとは少し毛色が異なり、繰り返し声に出したくなるというものよりかは、決め台詞としてドヤ顔をしながら空気を震わせたくなるフレーズだ。
元ネタとしては、ぬやまひろしさんが作詞された「若者よ」という曲の最初のワンフレーズである。朗らかなリズムと共に「若者よ、体を鍛えておけ」と言われると、なんだか運動会を連想させるのは自分だけだろうか。
「体を鍛えておけ」の箇所を「揚げ物は食べられるうちに食べておけ」であったり、「寝る前に歯を磨いておけ」であったり、様々な言葉に置き換えると日常生活においても汎用性がありそうだ。「若者よ、〇〇しておけ」の「〇〇」部分に、あなたは何を当てはめて、したり顔をするのだろうか。
いかがだっただろう。皆さんのお口のお供となる「声に出したい言葉」は見つかっただろうか。ちょっと知的で、もしくはブラックジョークで、なんだか好奇心をそそられる言葉が多い印象を抱いた。ほかにも、たくさんのお言葉をいただいたので紹介する。
金髪豚野郎
マンダム
ワクワクチンチン(ワクチンを2回打ったこと)
くしゃがら(禁止用語のこと)
ウガヤフキアエズ(日本神話の神)
北海道ほくほくポテト
貨客船万景峰号
ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ(『罪と罰』の主人公)
武家諸法度
愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ/中国王朝「清」のラストエンペラー)
ご協力いただいた皆様に深く御礼申し上げたい。では最後に、坂口安吾の『FARCEに就て』に登場するこの言葉でお別れしよう。これもまたつい声に出したくなってしまう魔法の言葉なのだ。Peste!(文・みきえみこ)
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