きみと話したかった
2022年7月15日、家族が虹の橋を渡った日。
大切で大好きな相棒、ぽち。
この1週間とってもたくさんがんばったね、
暑かったね、痛かったね、苦しかったね、
本当に、本当にがんばってくれたね。
その年の2月14日、18歳になったきみ。
とんでもなくおじいちゃんなきみ。
きみを迎えに行ったあの日、
お母さんの車の助手席に乗った中学生のわたし、ちいさな命を零さないように、大事に大事に手に抱えたこと。
昨日のことのように思い出せるの。
両手に乗るくらいに小さくて、柔らかくてふわふわで、きゅうきゅう鳴いてたちいさい命。
とっても小さくてさ、よく門の隙間から逃げ出していたよね。
ちっちゃい体でどこまでも走っていった。
その度にどれだけ心配になったことか。
お兄さんになっても、ちょっとおじいさんになっても、ずーっと脱走癖の抜けなかったきみ。
ついには塀を乗り越えるなんてアクロバットな方法まで編み出しちゃってさ。
わたしの背くらいあるんだよ。
きみはいぬじゃない何かなんだろうか。
裏門の下から覗くかわいい鼻先。
公園に遊びにきてたちびっ子といつの間にか仲良くなっていた、お砂を被った白い鼻。
「ぽちー!」って、いつのまにか名前まで教えちゃってさ。どこで仲良くなってきたの、きみ。
たくさんの人に呼んでもらったね。
小屋の屋根に登ってはお外を眺めていたきみ。
誇らしげな姿。
絶対に何か喋ってるでしょ、ってくらいのほぇほぇした鳴き声。
お散歩連れてってよってくんくん話しかけてくれたこと。
大好きなお散歩。きみの青いお散歩紐。
「左に曲がるとたのしい気がします!」
「絶対ここの草むらで寝転がりたいんです!」
気づくとくっつき虫だらけ、藁だらけになって。
側溝のあみあみが怖くって、そこだけ渡れずに困ったふうに見上げてくるお顔。
意気揚々と歩いてたら急に田んぼに落っこちた日。
何もないとこでずっこけては、「コケてませんけど?」って顔してスタスタ歩いてくお尻で揺れる尻尾。
くるっと丸まった尻尾。
えいって伸ばすと不服とばかりにすぐに元に戻される形状記憶の自慢の尻尾。
開け放しにしてた玄関から、いつのまにか部屋に入ってきてるきみ。
気づくとお家の中を巡回してて、「いつのまに入ってきてたの?」ってお母さんに連れ戻されるきみ。
静かなはずの階段からカチカチ爪の当たる音、そんなわけないと思って寝たままでいると、気づいたら耳元でハッハッハッって楽しそうな息と冷たいお鼻が布団の中まで朝を連れてくる。
この芝生も、小屋も、にんげんの家も、ぜんぶおれの庭。お風呂だけはちょっとこわいけど。
放っておくとそのうち飽きて、玄関でジャーキーを待ってる。
「まだ食べたい気がします」
「今日はもう一本もらっても良い気がします」
ずうっと食べたいジャーキー、わんこジャーキー。
いつも太陽の匂いがして、ふかふかあったかくて、だいすきないぬ。
部活帰りの大通り、いつもの信号、
お母さんと一緒に迎えにきてくれてありがとうね。
一緒にお散歩するの、とってもたのしい時間だったよ。
自慢の家族。
きみは自分が兄って思ってただろうけど、わたしが姉できみは弟だからね。
足を踏むと踏み返してきたり、ぎゅってするとお互いくしゃみが止まらなくなったり、ずっとでこぼこな姉弟だったけどさ、大切でだいすきな相棒だと思ってるよ。
人生でいちばん消えちゃいたかった時、
助けてーって帰った実家でもさ、勝手に落ち込んでは庭で座ってた時さ、
ずっと隣でコロコロしてくれてさ、本当にありがとうね。
体育座りしてると隙間から顔出そうとしてきたけどさ、知ってる?きみはそんなにちいちゃくないのよ。つっかえちゃって一緒にバランス崩して転がっちゃうの。
何回やれば覚えるのよ、もう。だいすきだよ、いぬ。
草むしりをする母の膝に顎を乗せた姿とか
あの父とお散歩友だちになったこの数年とか
新しくできたちいさい子分たちに「困ったなあ」って顔しながらも撫でられてあげたりさ。
優しい優しいおじいさんになったね。
今年の夏は厳しいかも、
今年の冬は、夏は…
何度もよく乗り越えました。
きみは本当にすごいいぬ。
みんなの愛ですくすく育ち、たくさん太陽を浴び、時には雑草を食い、冬には雪に吠え、たまに狩りをして。
どんな、人生でしたか。
どんな犬生でしたか、ぽち。
たった5メートルほどのお散歩だったけど、支えたきみの体の暖かさも前足の力強さもずっと忘れないからね。
柴犬とカンガルーのハーフ、ぽちくん。
うちの子になってくれて、ありがとうね。
好きなだけ走り回って待っててね。
きみの好きな青いお散歩紐とジャーキーを持って、そのうち家族がいくからさ。
ちょっとかかるかもしれないけどさ、たくさん遊んで待っててね。
きみの先輩のぽちくんが先に待ってるはずだからさ、探してみてよ。
柴犬とたぬきのハーフのぽちくんがどこかにいるはずだから。
あーあ、さみしい、なあ。
まほぴさん▽