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ISEF2024 体験記

はじめに

 はじめまして。突然すぎますが、私はISEF2024に参加し、物理・天文学部門で4等を受賞しました。情報の共有,可視化を大事にしたいので,来年度以降の人に向けて体験談を作成します。

 とはいえ,同じく日本代表のかたがすでに素晴らしいことを書いていますので,まずは以下記事をお読みになると役に立つと思います。(特に審査の受け方について。)


今回の会場

準備

 1月から本格的に準備を進めました。私たちはチームプロジェクトだったので、Teamsというチャットツールで、複数のチャネル(スレッド)を立てて、そこで情報共有をしながら進めました。誰かが知っていて、誰かが知らないという状況が発生しないように気をつけました。

 進め方としては、誰かが資料作成→別の人が確認→全員で読み合わせ→提出 といった感じです.

複数のチャネルで資料作成

 また,ToDoリストを作って,作業内容を可視化+リマインドしていました.

資料作成,Display&Safety関連

英文に入る前に

 まず,英文を書く前に論理構成が正しいかどうかを複数の人に読んでもらいましょう。目的と結論があっているか,実験の方法は目的を達成するためのものであるか。

 意外と間違っていました。私は JSEC の審査の後で,論理構成が良くなかったとご指摘をいただきました。ISEF に向けての練習の中で,学校の先生と発表練習をしているときにも言われました。(SONYの技術者のかたからもとても詳しくかつ分かりやすくご指摘いただきました。個人的にはこれがすごく大きかったなと思います。)

 まずは日本語で正しい文章・ポスターを書いておくのが私の場合は近道だったなと振り返ります。

英文校正

 英文校正は全2回あります。忙しいと思うのですが,しっかりとNSSのかたや先生方の意見を聞いて,1回目と2回目の間にも英文を改善しましょう。2回目の校正が終わってから英文を変えようと思っても遅かったです(当然)。

 やらかした私達は自分たちで英文校正会社に依頼しました。良い経験になったと言われればそうですが,もっと別のところにお金と時間を割いたほうが良いと思います。

Display&Safety

 書類づくりで一番悩んだのが,Display & Safety です。
 Display&Safety 含む,大会のルールはNSSが日本語訳してくださっているので,それを何回も読んで自分の研究に該当しそうな箇所を調べました。
 そのうえで,印刷した英語版を読み線を引き,単語の定義や細かいニュアンスを確認していきました。

 ルールは穴があくくらい読んだ方が良いです。

問題①:自己推薦とは?

 研究機関などの情報を提出物に書いていたのですが,Display & Safety の自己推薦にどこまでが該当するかが非常に難しかったです.そもそも自己推薦の定義は何なのかという状態になります.他の機関の権威を借りているような状態がいけないのかなと思いましたが,今も良く分かっていません.

  同じようなことを書いているつもりでしたが,Abstract は合格,Quad Chart は不合格 といったことがありました.ポスターに書いて危なそうなこと(他の研究機関情報など)は12枚のプレゼン資料に載せて,バーチャルブースであらかじめDisplay & Safety の審査を受けておくと安心できると思います.

   私たちは Quad Chart を3回ほど再提出しました.締め切りギリギリに再提出を繰り返すのはかなり辛いので,早めに色々な資料を作成するということをお勧めします.(分かっていても締め切りギリギリになってしまうのですが)

問題②:展示規定が良く分からない

 Display & Safety のうちの展示規定を満たしているかの判断は難しかったです.展示規定を順守しているか自分たちで判断できないので,複数の手段で展示ができるようにして,会場で不合格になったらすぐに修正するという方針にしました.
   例えば私たちは分光器を持って行ったのですが,分光器を密封するカバーや3Dプリントした模型,さらに 3Dスキャンしたデジタルデータも持っていきました.(3Dプリンタの印刷品質はお見苦しい限りですが….)

  また,一部部品はカッターナイフの刃を使っていましたが,これはアクリル板と接着剤で密封して持っていきました.この板の角にはフィレットをつけてかなり安全さを強調しています.

 結果としては,杞憂に終わり,JSEC の時とほぼ同じように展示できたかなと思います.意外と何でも許されたような印象です.一例として,液体の展示は禁止でしたが,グリス・電解コンデンサの電解液は液体とはみなされませんでした.

分光器模型
Display&Safety 対応のアクリル板で密閉したスリット

 鋭利なものの密封に,植物や海藻標本などに使われているレジンを使うという手もあるかもしれないです(未検証).私は気づくのに遅れたため作れませんでしたが,そちらの方が高級感があったのかな…,と思います.

 JSECからこの規模の物を持ち込んだ例は少ないそうです.飛行機に乗るか,展示できるのか,現地に行くまで非常に心配でした.(持っていけたのは,共同研究者が " It's safe !!!! " と言って保安検査を乗り切ってくれたおかげです。)

持ち物

あった方が良かった/あまり必要でなかったものを記述します.正確な持ち物リストは,事務局からのものをご参照ください.

あった方が良いもの

  • 展示する模型
    私は何か置いてあるブースに興味を惹かれました.(私が理論屋ではないからかもしれませんが.)Display & Safety の規定内で,なるべく色々と展示した方がいいのかなと思います.
     質疑応答の時や,発表の時も便利です.英語が多少伝わらなくても,見せるだけで理解してもらいやすかったように思います.
     他の研究発表を聞かせてもらうときも,実物を見せながら "What is this?" で会話できたので,交流という意味でも役に立つと思います.それに巨大なものが展示してあると,それだけで目を引きます.私は実際にそれで展示に興味を持ち,発表を聞きに行きました.

  • 研究を表す小物
    写真を撮るときに一緒に写れます.携帯できるサイズがベストと思います.カニ殻とか折り紙の鶴とか,写真撮影の時に良さそうでした.


  • ホテルにはコインランドリーが無く,Valet Laundry だということだったので,洗濯をしなくてもいいように服は多めに持っていきました.(そのせいで帰り道に預入手荷物の重量制限に達し,色々と捨てることになったのですが….)一着12~18 USD と価格表に書いてあったので現地での洗濯は諦めました.

  • instagram ID
    海外ではLINEは主流ではありません.色々な場所に留学に行った人たちの話を聞くに,instagram が一番汎用的かなと思います.実際にISEFでもinstagramの連絡先を交換した人が一番多かったです.もし持っていない人は作っていくことをお勧めします.

  • 頑丈なポスターケース
    ポスターケースがつぶれない保証はありません.できるだけ頑丈にしておいた方がいいなと思いました.(帰路に一人潰されていました.)そして何人かは折りたたんだ予備のポスターを機内持ち込みで持って行っていました.貼るのに失敗することもありますし,予備があると安心できます.

  • ポスター設営用品(ハサミ,ガムテープ,両面テープ,タッカーなど)
    借りられましたが,持参する方が楽です.どれを借りたいのか,どれくらい必要なのか,など英語で交渉するのは少し大変※でしたし,会場は広く少し時間もかかるので,持っていくと便利だと思いました.
     ※例えば,両面テープだとどれくらい必要なのか聞かれますが,すでに切られたものを渡されそうになるので,「これと同じ長さのものをもう一切れください」などと交渉していました.ある程度英語が話せるなら,問題無いと思います.

  • 暖かい服
    何回も言われると思いますが,これは本当に必要です。絶対に絶対に必要です。冷風直撃のところは寒かったです。私はヒートテックの超極暖を下に着ていきました.私のブースは冷房から遠かったこともあり,快適でした。ロサンゼルスは意外と乾いた気候だったので,会場に行くまでの間に暑さを感じるということもなかったです。

  • 現地SIM
    現地で通信をすることはあまりなかったですが,何らかの通信手段があったほうが安心できる気がします.会場,ホテルともにフリーWifiがありました.JSEC組は毎日会場とホテルの往復しかしなかったので,SIMの必要性はあまりなかったです.日本学生科学賞組はけっこう観光をしていたので,もしかするとあると便利かもしれないです.

他にもいくつか,あった方が良いものがあるそうです。リンクします。

注意が必要なもの

  • 食事(下調べが必要)
    まず,アメリカに肉製品などは持ち込めません.(2024年5月現在.)日本から何か持っていくときは注意が必要です.
    私は日本のお菓子(KitKatの抹茶味)を持って行って,会った人に配りました.私は台湾と韓国の飴をいただきましたが,お菓子を持ってきている人は少なかったように思います.

  • 名刺(あまり必要ない)
    頑張って作りましたが,あまり配る機会はありませんでした.名刺に穴を開けて,分光シートを貼っていきました.15枚くらい渡しました.

現地で

審査

 私たちのブースには1日で11人の審査員が来ました.15分審査~15分休憩という感じでしたが,向かいの人は1時間休憩なしで審査が入っていて,審査日程は人それぞれです.私の知る限りでは,いらっしゃった審査員の数は最大11,最小5人です.うち,質問から始まった人が2人で,あとはプロジェクトに関する説明を求められました.私は5分程度の説明をし,Background を重点的に説明しました.(これが良かったのか悪かったのかは分かりませんが.)

 ホワイトボードを持参することをお勧めされていたので,私たちも持っていきました。すごく役に立ちました。あとは,数式は世界共通だなと感じました。数式は強いです。機械翻訳であっても,数式の含まれた資料は持っていったら便利です。


 審査にあたっては通訳をお願いしていました.事前に打ち合わせて,「基本的に自分たちで頑張ります.もし必要だったら,審査員からの質問を英語→日本語に翻訳をお願いします.」ということは伝えていました.

 結果として,2回お世話になりました.様々な地域の英語を聞き取るのが難しく,お願いしました.回答を考えることに集中できたので良かったです.(例えばHの発音が消える傾向がある話者など,授業で習う英語とは違う発音に対応しきれませんでした.Hが消えるのはフランスのかたかな?ということです,審査後に通訳のかたから教えていただきました。)

会場.ポスターを眺めるだけでも本当に楽しいです.

交流

 おじけずに頑張りましょう.みんな優しいです.下手な英語でしたが,伝わりますし,交流が目的なので,最後は翻訳機に頼ればいいと思います.
 私が一番英語が下手なのではないかと思いましたが,何とかなりました.

 声をかけること,英語が得意ではないからゆっくり話してほしいと伝えること.どうしても怖ければ,英語が第一言語ではない国の人と交流するという手もあると思います.お互い英語を頑張って勉強している人たちなので,分かり合えると思います.とにかく怖がらずに喋ること.焦らず落ち着いて堂々と話せば,たいていのことは何とかなります

 以下写真のような交流会 Student Mixer もあります.これはとても難しかったです.
 楽しむコツは,積極的に声をかけることでしょうか.内気な私は,席を見つけられなかった人に声をかけて,研究について色々と聞いていました….

Student Mixer の様子

体調管理

 ホテルは2人部屋でした.同学年・同プロジェクトなどをベースに同性同士で割り振られます.共同生活ということを念頭に置く必要があります.朝は協力し合って準備をすればいいので,理論的には寝坊,遅刻等せずに過ごせるはずです.理論的には.

 私は朝型なので,同室を起こしたり,朝に日本の友達と電話したりしていました.(せっかく東京を経由するなら東京の友達とも会おうということで会ってきました)

食べ物

 朝食は,2024年は事務局が日本から持ってきてくださっていました.お湯で戻すおにぎりなどでした.昼食・夕食は,各自でグループを作り食べに行ったり,スーパーマーケットで買ったりしました.
 と言いながら,私はアメリカにいるのに日本の食事を食べるのはもったいないと思い,朝もスーパーマーケットで買ったパンを食べていました.意外となんとかなりました.一緒に行ったメンバーは体調を崩したようなので,栄養バランスよく食べること,野菜や果物を買うことを意識したらいいのかなと思います.全てのものの量が多いので,JSECメンバーでシェアするなどしていました.

常備薬はあると便利です.何人か体調を崩していたようです.大事なことは審査に出ることだと思うので,無理せず頑張ってください.

お土産

 ISEF の T シャツは早い段階で売り切れていました.現地のISEFショップには早い段階で行ったほうが良いと思います.Pre-orderみたいなシステムで予約しておくのも手かもしれません.
 ロサンゼルスでは,お土産を探すのが難しかったです.KitKatのアメリカ版などを沢山買って帰り,お世話になった人に配りました.

最後に

 夢のような1週間でした.楽しいです.本当に楽しいです.
日本代表としてISEFに行けるということが,それだけですごいことです.だから楽しんできてください.心配しなくてもなんとかなります.実際私は何とかなりました.

 これまでの研究,資料作成で辛かったこと全てを忘れられます.世界各国の同年代の研究者たちと友達になってほしいと思います.

いただいたピンバッジ

 何か私にできることがあれば,遠慮なくお知らせください.質問等あれば気軽に連絡してください.(私達もたくさんの先輩から情報を教えていただきました.)

X:TsukimiDangoX 
https://x.com/TsukimiDangoX

最後にひとつお願いです.公開する/しない に関わらず,自分の気持ちを文章にしておくと後で見返せて良いので,ぜひ皆さん体験記を書きましょう!!
 多分,これを読んだ人のうちの何人かはNSSに入って,次年度以降の後輩のために道を作っていくと思います。その時にも役に立ちます。絶対忘れない,と思っていても少しずつ記憶は薄く抽象的になっていきます。
 書けるとき, ――帰りの飛行機の中とか,日本についてから,あるいはアメリカで日記形式で―― 文章を綴ってみませんか。
 

謝辞

 NSSのスタッフの皆様,SONYの技術者のかたをはじめ,ISEF出場にあたりたくさんのかたにお世話になりました.ありがとうございました.
 また研究において,指導教授,高専の先生がた,保護者,後輩,鳥取県教育委員会をはじめとする,たくさんの方々,組織にお世話になりました.この研究を支えてくださったすべての皆様に,この場をお借りして深謝申し上げます.

ISEFその後

 ISEFが終わった後も,ファイナリストたちで時々交流をしています.JSECの同期会もしました.料理の計量単位が mol だったり,水をこぼしたときにキムタオルを要求されたり,来ないなと思っていたら虫を捕まえていたりして,理系あるあるを感じて面白いです.
 一つ上の ISEF2023 勢も定期的に同期会をしているみたいです.世代横断型の交流イベントはないですが,自然と集まって近況報告しているようです.ぜひ皆さんも良い関係を作ってください.

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更新履歴:2024年11月28日 8:15 PM   英文校正のアドバイスの追加,持ち物リストの追加
2024年12月8日 9:15AM 軽微な修正
2025年01月03日 16:00 PM 内容の一部加筆,構成の見直し
2025年02月15日 21:20 PM ファイナリストコミュニティ関係の内容の加筆

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[参考資料]

持って行ったもの一覧です.参考程度にお願いします.
防犯対策等についてはあてにしないで,信頼できる機関の情報を参照してください.

個人的な持参物1/3
個人的な持参物2/3
個人的な持参物3/3
持参物(研究用)一式

本当の最後の最後に余談
ISEFの準備のために学業の手を抜かないようにしましょう(当然)


免責事項:今回はISEF2024 (開催地:ロサンゼルス)について書いています.会場によって違いがあると思いますので,ロサンゼルス・コンベンションセンターでのことだということを頭の片隅に入れておいてください.また,プロジェクトによって異なる部分がたくさんあると思います.私個人の経験ということをご承知おきください.


This work is licensed under CC BY-NC-SA 4.0


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