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“we girls can do anything”「私たち女の子は何でもできる」ドール服作家・nori

#10 INTERVIEW ドール服作家・看護師/nori

バービー人形は、時代のファッションを映してきただけではなく、女性の社会進出の機運を力強く後押してきた。バービーの歴史を見れば世の中の変化が見えてくる、とも言われている。それを作った世界大手の玩具メーカー米マテル社が掲げた80年代のスローガンは、“we girls can do anything”(私たち女の子は何でもできる)であった。



こんにちは。インタビューをメイン記事にしてるYOです。今回のお話は、看護師をしていたnoriさんがドール服作家になるまで。

ドール服作家とは?
「着せ替え人形」。女性なら幼い頃にその遊びをした記憶のある人は多いだろう。いまや子供だけではなく、多くの大人の女性からも大人気。バービー、リカちゃん、ブライス、ジェニー、momoko…。

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ドールだけじゃない、ぬいぐるみの着せ替えも人気だ。そのお人形の着せ替えに、女の子だけじゃない、大人も男性も童心に返る。そのドール服の需要が高まるなか、それをオーダーメイドで請け負うのがドール服作家さんだ。
今回は、そのドール服作家のnoriさんに、話を聞いてみた。


──こんにちは!今日はよろしくお願いします。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
──いまのお仕事をするようになったお話を、きっかけ含めて聞かせていただきたいです。

01/ プラモデルが大好き。服も家具も作ってた子供時代。


──早速ですが、noriさんはどんな子供時代でしたか?
「そうですね…。とにかく“つくる”ことが好きな子供でした。子供の頃、おもちゃとかをあまり買ってもらえない家庭だったせいかもしれないです。代わりに身の回りにある紙とか布とかで、常に何かを作ってるような子供でしたね。」
──へ〜!どんなものつくってたんですか?
「紙で花作ったりとか・・保育園の頃、初めてお人形買ってもらったときは、人形に服をつくってあげたり。中学校とか高校になったときは父に手伝ってもらって食器棚もつくったし、あとは洋服もつくるようになってましたね。学祭用のクラスの服をつくったり。」
──多才ですね。家具や服づくりは、なかなかその年齢ではやらないことですよね。
「そうかもしれません。ものづくりが好きな家庭に育ったことが大きいと思います。ちょっと変かもしれないけど、家族団らんを優先せずに、それぞれが個人の創作活動を優先するような家族でした。特に父と姉がつくるのが好きでしたね。あとは和裁と洋裁の教室をやっていた叔母と祖母からも、大きく影響されてると思います。」

好きな科目は、数学と歴史。
──なるほど。ちなみに、子供の頃の好きな授業は何でしたか?
「数学と歴史です。数字が好きなんです。家具を作るときも、数字で計算して設計してました。」
──へ〜!そうなんですね。では洋服もそのような感じで、計算して作るんですか?
「はい。数字でちゃんと計算して設計して、ぴたっと合うのがとっても好きで。プラモデルも好きだったんですけど、まるでプラモデル的な感じで服も好きなんですよ。服も計算して作っていて、当時はカーブをルートで出したりしてました。今ならCADとかあるけど、それがなかった時代ですしね。」
──そうだったんですね!すみません・・勝手な想像で「好きな授業は美術」とかかなって思っていました(笑)。
「いや〜。本当にそれは悲しいぐらい下手なんですよ。破滅的です(笑)。」
──ええ、とっても意外です!勝手なイメージで、つくることが好きな人は絵が好きな方が多い気がしていました。
「姉が学生時代に彫刻をやってたので、それも学んだことがあったんですけど、それもできなくて・・美術は、だめですね(笑)。」


02/ 叔母が作ってくれた、紀子様と同じドレス。それが服作りが好きになったきっかけ。


──ちなみに、年齢ごとにつくるものは変わっていきました?
「小学校時代は、とにかく“紙”でしたね。家でも塾でも、紙で花とか。何だかどうしようもないもの作ってた気がします(笑)。小学生後半くらいから布ブームがきて、中学校後半からはお洋服。でも、家庭科の授業はきらいでした。指示通りのものをつくるのいやだったんですよ。「そんなださいパジャマつくりたくない」ってね(笑)。
──なるほど(笑)。いろいろなものを制作はされてると思いますが、nori さんにとって服は特別ですか?
「そうですね。服が特別に好きです。どうして服が好きなのかなと思ったとき、叔母がつくってくれたリカちゃん用のドレスが一番のきっかけだったと思い出しました。
皇族の紀子様っていらっしゃるじゃないですか。その紀子様が結婚されるときに着ていた、ローブデコルテのドレスと全くおなじものを、リカちゃん用に叔母がつくってくれたんですよ。それにとっても感激しちゃって。だから、それからだと思います。服が自分にとって特別になったのは。」

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紀子様ご結婚時のローブデコルテのドレス
引用:https://ameblo.jp/sakuhana-osk/entry-12544985937.html
https://news.yahoo.co.jp/articles/22987bd515f5466e7b4cec269d96920a03b9a8b5/images/001

──素敵ですね!それがドール服作りをするようになったきっかけですか?
「そうですね。高校の頃からは、自分用や学校の行事用に、服作りもするようになりました。市販の型紙から作ったり、自分が持ってる服から型とったりとかして。」
──今でも洋服は作ってるんですか?
「いまはしばらく作ってないです。お人形の服作りを本格的に始めてから二、三年なんですけど、販売するようになってからは時間がとれなくなっちゃったんです。そこからもパッタリ作ってないですね。売れるようになってから時間がとれなくなっちゃったんです。」


03/ 看護師だったときに訪れた転機。 ドール作家デビュー。


──お人形の服を本格的に作るまでは、ずっと看護師をされてたんですよね。
「はい。長年看護師をしてた母を見ていて、憧れていて。保育園の頃から、看護師になりたいと決めていたんです。実を言うと最初は、工業系の会社を経営してた父の仕事を継ぎたいとも考えていた時期があって。でもそう伝えたら、女の子だしそれはちょっとやめなさいと両親に説得されました(笑)。」
──(笑)。看護師になるのは、やはり大変なことでしたか?
「それはもう・・辛かったですね。高校卒業して看護学校に入って、1年目は座学で勉強なんですけど、二・三年になると病院で実習授業にはいるんです。その実習での看護師さんがとにかく怖くって怖くって(笑)。オペ室でも容赦なく怒られたのを、今でもすごく覚えてます。そういう時代だったんですけどね。
──看護師さん、怖かったんですね・・(笑)。
「あ、もちろん今はそんな感じじゃないですよ! わたしが最後のスポコン世代だったんですよ(笑)。」

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──ドール服作りについて聞かせてください。当初は趣味の範囲で行ってたんですよね。
「そうです。もともとはただ好きで作ってただけだったんですけど、あるとき、“そんなに好きで作れるなら、もっと本格的にやってみたら?”って言われたことがあって。
“あ、そっか”という感じで始めてみました。最初は、どうなるんだろうと不安に思ってたんですけど、販売も始めて、ご購入してくれる方がだんだん増えてきて。今はそのお客さま達と「ドル友」になったりしてるんです。私は人形用に作れるものは服だけなんですけど、ドル友さんには家をつくってもらったり、靴とか小物とかを頂いたり。交友が広がると制作範囲も広がっていって、とても楽しいし、嬉しいんです。」


──いまは看護師さんを休業中とのことですが、近いうちに復帰されるんですね。常に2つの仕事をするというのは、大変ではないですか?
「うーん。大変と思ったことはないですね。ひとつのことだけをやるのが無理なタイプなんです。私にとってのバランスのとり方なのかも。看護婦はもともと母の仕事だったし、ずっと目標にしてた職業だし。そしてお人形の服作りには、創造性と楽しみがあるんです。その2つの仕事はどちらも好きだし、やり続けたいと思っています。」



04/ ドール服でつながる、ひろがる輪。

──素敵なオンラインショップもつくっていますね。
「ありがとうございます。夫がクリエイティブ系の仕事をしているので、作ってもらいました。思えば半ば無理やりだったかも(笑)。」
──優しい!この活動を応援してくれてるんですね。

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maison melange(メゾンメランジ)
https://shop.maison-melange.com/

──どういったものを販売してるんですか?
「1点ものとしてオーダーも承ってますし、すでに販売用につくったものもあります。オーダーは、生地の組み合わせを選んでもらったり、着てた服を送ってくださるお客様もいます。こだわりのあるお客様が多いですね。」
──1着どれくらいでつくるんですか?
「簡単なワンピースなら2時間ぐらいで、凝ったものになると2日とか。着物とかだったら6時間くらいですね。凝ったやつとかは2日とか。着物なら6時間ぐらいかな。」

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──すごい。そんなペースで作るんですね。
「そうですね。多くはプレゼントだったり、自分の人形のためだったり、何か記念だったりというタイミングで注文される方が大半です。あるときは着なくなった昔の着物でドール服をお願いしたいというお客様もいました。娘さんの20歳の時に送りたいというんです。素敵ですよね。やはりオーダーメイドだし、思い入れがあるプレゼントが多いんですよね。頑張って作った服を、受け取って喜んでもらえる瞬間が何より嬉しいです。」
──それは一番の喜びですね!
ちなみに、noriさんのお気に入りのお人形はありますか?
「やっぱりバービーですね!でも、実は一番複雑で、作るのが大変なお洋服ですね・・」

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──これから挑戦してみたいことはありますか?
「ドール服を作りたいという方が増えてきているのもあって、今後は型紙の販売を考えています。作り方のハウツーとかですね。ただ、システムがとっても難しい。簡単にコピーできちゃうものだから・・。ものが欲しい方、つくりたい方、それぞれ貢献したいと思っていて。あとはインテリアコーディネーターの勉強もしています。」
──たくさん挑戦があるんですね。インテリアにはもともと興味があったんですか?
「そうなんです。すっと、お人形とインテリアの融合を考えていて。お人形って、せっかく買ったとしても、お部屋を選ぶところがあるじゃないですか。いつかインテリアとして、気軽にお人形を飾れるようなことをしていきたいです。そういう日常のゆとりを提供したい、というのが今後の夢で目標です。」


05/ ドール作家になりたい人へ。

──ドール作家になりたい人へ、メッセージをお願いできますか?
「私なんかが言えることかわからないけど・・。やりたいと思っているなら、まずはやってみてみるのが一番だと思います。最初は、“マネ”からはいっていくと、楽しく続けられると思いますよ。こんな服つくりたい!と思えたものを作ってください。作りたいものを作る。それがなによりのモチベーションになっていくと思います。」



06/ 「喜び過ぎず、悲しみ過ぎず」。


──これは、皆さんに聞いてる質問の一つなんですが、世の中に足りてないものってなんだと思いますか?
「昔祖母から教わった、“喜び過ぎず、悲しみ過ぎず”という考え方があるんです。
これは、人間万事塞翁が馬(じんかんばんじさいおうがうま)という中国の故事から生まれた言葉の考え方です。

人間万事塞翁が馬(じんかんばんじさいおうがうま)
意:人生における幸不幸は予測できなくて、幸せが不幸に、不幸が幸せにいつ転じるかわからないのだから、安易に喜んだり悲しんだりするべきではないというたとえ。

“バランスをとることが大事”だと、子供の頃からずっと教えられてきました。
喜びすぎると足をすくわれるし、悲しみすぎるとそこから抜け出せなくなるよ、と。この教えは、もう私のなかにずっとあって。
看護師として働くようになってからは、より強く感じるようになりました。なぜなら私たちの仕事は、次に起こるリスクを常に考えないといけないからです。例えば1人の患者さんがいたとして、今検査した結果がとても良かったとしても、すぐに病状が悪くなってしまうという考えは常に持っているんです。」
──なるほど、たしかにそうですね。

「あと子供の頃は、祖母に平家物語の冒頭を暗証させられたんです。

平家物語の冒頭
祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。」 意:祇園精舎の鐘の音には,この世のすべての現象は絶えず変化していくものだという響きがある。

つまり『この世のすべての現象は絶えず変化していくもの』ということを言ってるんですね。つまり、“まずは自分を幸せにしなさい、余力があれば人を幸せにしなさい”、ということなんです。」
──素晴らしい教えですね。
「私もできてないことなんですが、第一に自分を幸せにできてない人が多いなってよく感じます。」


07/  女性を応援する米マテル社のプロジェクトと、これからの日本の女性の生き方。


世界各地の男女格差の調査で、日本は現在、156か国中120位。また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、仕事を失った女性の割合は5%と、男性の3.9%に比べて高かったという調査結果もある。
(2021年調べ。https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/57115.html)

noriさんが一番好きだと言った、バービー人形。そのバービーたちは、女性の社会進出の機運を力強く後押ししてきたと言われている。

上:バービー人形の生みの親であるルース・ハンドラー。夫のエリオットと1945年に創業したマテル社から、1959年にバービー人形を発売した。
下:2019年に発売された「ロールモデル」シリーズの20体は、実在する19〜85歳のロールモデルたちがモデル。
引用:https://www.vogue.co.jp/lifestyle/culture/2019-03-22/barbie-is-staying-relevant-in-2019/cnihub


2018年から始めた「ドリーム・ギャップ・プロジェクト」もその流れに繋がるもので、女の子に「夢と現実の差」を埋めよう、「女の子でも何にでもなれる」と呼びかけている。公式サイトには、子どもたちの現状についてこう書かれている。

「研究によると、子どもたちはまだ小さいころに『女性は男性ほど賢くない』という文化的なステレオタイプを持ちはじめます。メディアや大人がじわじわと伝えることで、受け継がれて来たものです。自分自身の限界を低く設定させる、こうしたステレオタイプは、女の子の未来、キャリアに大きな影響を与えかねません。女性が輝かしいキャリアを目指すことを、諦めさせてしまうかもしれないのです。知的であることに価値が置かれる分野では特にそうです」


彼女の仕事は、お人形を心から愛してる彼女だからこそできる仕事だ。好きだと思えることを貫いて、いまのnoriさんがある。

noriさんは、強くて美しい人だ。それは外見だけじゃなくて、内面も。
博識で、知識欲も豊富で、そして愛に溢れる人。なにより、美しくあろうとする気持ちが、人を綺麗に魅せるものだ。
「喜び過ぎず、悲しみ過ぎず」。

この言葉が芯となって、彼女を強くさせてるんだと思った。

この世の現象は絶えず変化していく。明日、また世界の状況も価値観も変化していくのだ。その流れに逆らわず、でも流されることなく、できるだけ強く生きていきたい。米マテル社の掲げるスローガンが、全世界の女性に届くことを祈りつつ、彼女のような人々が、社会で活躍してほしいなと思えたインタビューでした。
ありがとうございました。


nori PROFILE
maison melange  online store  : https://shop.maison-melange.com/
instagram  :  https://instagram.com/maison_melange_?igshid=ve24ntzywboo

出身 :高知県高知市/好きな匂い:キンモクセイ/好きな映画:不思議の国のアリス/旅行などで行った、一番印象に残ってる場所や国:15歳の時に行ったタスマニア島。美しい自然と沢山の動物に触れることが出来た。/これに出会えてよかったと思う分野やジャンル、または人:夫と、夫を中心にクリエイティブを生業とする人々に出会えて、刺激を貰っています。






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