ヨルシカ「チノカテ」に学ぶ歌詞の書き方
こんにちは。
ボカロPの月影さんしょです。
今回は自分の歌詞の勉強として思ったことをまとめた本当の意味でのノートですので、歌詞自体の考察ではなく、歌詞の表現、書き方や配置についてのみ言及しています。どうやって作詞したらいいか分からない方や、もっと上手くなりたいという方の参考になれば幸いです。
歌い始めから順に説明しているので、是非曲を聴きながらこの記事を読んでほしいと思います。
この曲は前奏がなく、いきなりAメロに入ります。
音の構成が非常にシンプルなため、曲を聴く人はまっさらな状態で、まずこの一節に耳に傾けることになるでしょう。
センスしかない。
唯一無二の歌詞、加えて一瞬で情景が浮かんでしまう。
こういう詩、書いてみてぇなぁ。。。
この「情景が浮かぶ歌詞」が作詞での大切なポイントの1つであるように感じます。そして、情景が浮かぶ歌詞を書くうえでのキーワードは、「日常生活」かなと思います。綺麗な夕日って案外珍しいものではないけど、やっぱり見ると嬉しく(?)なりますよね。そういう「日常に隠れるエモさ」は皆が経験しているので想像しやすい歌詞になったりします。
花瓶の白い花については2番以降ずっと触れられる対象になります。
これが何の隠喩でどんな意味なのか、ここでは考察しませんが、重要な存在であることは明らかです。
この読点 (。)で大胆に無音が入ります。
最近のヨルシカ楽曲を聴いて毎回思いますが、曲に「作者の余裕」がすごく出ているような気がします。他人がどう思うかではなく、素直に自分の好きな音楽を追求している何よりの証拠ではないでしょうか。本当に尊敬です。
さて、歌詞の間に余白を設けるのはn-bunaさん(ヨルシカのコンポーザー)がよく使う手法ですが、ここで私たちに「想像させる時間」を与えているのではないかと勝手に思っています。
「あ、夕日。 …….. 」
この空白の間に、聴く人は夕日を思い浮かべる。
綺麗だなぁと思ったところで歌詞が入る。
「本当に綺麗だね」
まるでsuisさん(ヨルシカのボーカル)と会話をしているようですね。
一気に世界観に引き込む戦略でもあり、エモさを感じる時間を存分にくれる優しさでもあると思います。
前に進むことへの不安を「それでいい」と静かに肯定してくれる部分にグッときますね。
サビは聴かせどころなので、曲を通して一番伝えたいことに触れるのが基本です。
その中でも印象に残したいフレーズは最初か最後に配置するのが良いかもしれませんね。もちろん曲によりますが。
ここでは「ソファ」というワードが出てきていますね。
先ほどは触れませんでしたが、ここまで「土曜の生活感」、「テーブル」など家に関係する言葉が使われています。
これはおそらく「魔法のリノベ」のドラマ主題歌を想定した言葉選びでしょう。
こうやってさりげなく入れるのって良いですよね。
おそらく今回n-bunaさんはしていないかなぁと推測しますが、何か1つ大きなテーマがある場合、マインドマップを作るとスムーズに作詞できることが多いです。
白い花が再登場しました。
うーん、確かになぁ……と考えさせられる詩。
あまり長々と書きたくないので2番サビは省略します。
この辺りからこの曲の全貌が見えてきます。
大事だったのは花だと思っていたが、そうではなかった。
本当に大事だったのは……..
この一節で、ここまで聴いて、初めて気付かされる。
この曲の主人公と同じタイミングで。
このように2サビ後は詞をおもしろく(深く)するチャンスだと思っています。起承転結の転のようなイメージ。この曲ではメロディ自体は同じですが、新しいメロを持ってくると今までと雰囲気を変え、新たなメッセージを伝えることもできるので、有効活用できれば自分の曲をさらに強くできるのかもなぁと感じています。
抑えておきたいのは「待って」の音程です。
ここがまじで重要なポイントだと思います。
1、2番の同じ部分は「夕日」「散った」で「C#↗️D#」と上がっています。
でも「待って」では「F↘️D#」と下がっています。
これは普通に発したイントネーションに合うように作られています。
会話で「夕日」と言うときには「ゆう↗️ひ」って言うし、「待って」は「まっ↘️て」と言います。
つまりこの部分では、違和感のないように音程とイントネーションを一致させているわけです。歌詞を違和感なく聴かせるって、作る側は結構努力しないといけない部分なんですね。
この話はどちらかというとメロディの組み立て方の話かもしれませんが、歌詞とメロは密接に関わっているので、歌詞を書く際には必ず意識しないといけませんし、曲先であれば作詞時のメロディの細かい変更は必須と考えておいた方が良いかもしれません。
ちなみにこの後にも余韻を感じさせる音の空白があります。
チノカテでは特にこのテクニックが多用されていますね。
最後のサビは2回しあります。
1周目は1番サビの繰り返し。
2週目はこの曲の核心となる注目フレーズを配置する役割でしょう。
この曲のモチーフとなったアンドレ・ジット著の「地の糧」では次のような内容が出てきます。
「本を捨てて、街へ出よう」
コロナ禍で何かと閉じこもっていた生活から、思考から、自分から、何も持たずに出てみたとき、そこには何があるのだろうか。
そっと背中を押してくれる、柔らかでいて大胆な一曲でした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。