月影太陽光発電所 発電24日目 上級4
素浪人エンジニア月影です。
上級3では、太陽電池モジュールの出力特性に用いる順方向等価回路を説明しましたので、今回はモデル作成に必要なダイオード・モデル設定や、出力値測定コマンドおよび波形ビューワ/LOG窓を、作成例にて説明してみます。
なお、動作環境は、アナログ・デバイセズ社:LTspiceXVII/WIN10版を使用した説明になります
(LTspiceのインストールは、spicemanさんのブログを参考にされると便利です。
また、太陽電池モジュールの順方向等価回路モデルの概要は、上級3および豊島安健氏(産総研)の資料を一読ください。)
1.LTspiceXVII の設定ポイント(推奨)
spicemanさんのブログにLTspice:コントロール・パネル設定手順が紹介されていますが、太陽電池モジュールのように単純な回路モデルでも、シミュレーション操作を円滑にするため、下記の設定を確認ください。
・Solverは「Alternate」に切替
LTspiceは様々な場面で、フリーズ現象が発生し、Try&Freese的な回避手法が必要です。初歩的ミスとして、回路接続の欠落やGND端子忘れはありますが、収束計算ができない場合も多々発生します。
収束計算の対応では、計算エンジン:Solver設定変更を最初にトライしますが、太陽電池モジュールの出力シミュレーションでも、Solver設定は「Alternate」を設定してください。
(『LTspiceで学ぶ電子回路』では、「Alternate」と「Normal」は構文解析手法が異なり、Normalに比較し、計算時間:2倍/計算精度1000倍と紹介しています。)
LTspiceの「Tools」メニューから、「Control Panel」を選択し、「SPICE」タブのSolver設定が「Alternate」になっているか確認します。
・グラフデータの自動消去設定
解析スピードは十分速いことから、通常用途ではグラフ・データ(.rawファィル)の自動消去設定が便利です。コントロールパネルから設定変更が必要ですので、忘れないように設定をしましょう。
2.ダイオード・モデルの作成と登録
太陽電池モジュールの出力シミュレーションでは、等価回路で使用するダイオード・モデルの登録が必要です。豊島安健氏(産総研)の資料では、LTspice付属の「standard.dio」フォルダへの追記方法で紹介がされています。 C:\Program Files\LTC\LTspiceXVII\lib\cmpには、下記の素子ライブラリがありますが、Win10では..\OneDrive\ドキュメント\LTspiceXVII\lib\cmp
下の「standard.dio」ファイルを改変してください。
(WIN10は、C:\Program Files\LTC\LTspiceXVII\lib\cmp下「standard.dio」 ファイルは書換できませんでした。)
この「standard.dio」は、LTspiceから開いて、編集できます。モジュール型名毎に、等価ダイオードを作成する必要があり、飽和電流:Is、直列抵抗:Rs、ダイオード因子:Nの三種類のパラメータ値をモジュール型名毎に調整し、追加する必要があります。今回の説明では、下記モデルを使用しますので、下記データを上記ファイルに追記ください。
・300W(6×10セルモジュール)のダイオードモデル 追記例
セル等価ダイオード:型名 60CELL の登録例
.model 60CELL D(Is=3.1n Rs=0.15 N=68.3 Iave=10 Vpk=75 type=silicon)
モジュール内蔵バイパスダイオード:型名 ByPASSの登録例
.model ByPASS D(Is=0.00003 Rs=0.005 N=1.2 Eg=0.69 Iave=20 BV=75 IBV=0.004 type=Schottky)
なお、LTspice添付のディスクリート素子パラメータは、ヘルプメニューを開き、.MODELから調べることができます。
Nはエミッション係数であり、シングルダイオードでは1~2となることから、60セルであれば60~120の数値に調整することになります。
3.太陽電池モジュール等価回路作成方法と解析コマンド記入
上記の、「standard.dio」ファイルを書き換えたサンプル例で、太陽電池モジュール等価回路の作成と解析コマンドの使用方法を説明します。
・サンプル回路作成手順
A. 上記のように、LTspiceから、
..\OneDrive\ドキュメント\LTspiceXVII\lib\cmp にある
「standard.dio」ファイルを開き、ダイオードモデル: 60CELL、ByPASS
を追記・保存します。
B. 新規回路図を開き、下記のように素子を配置します。
C.各素子に定数を下記の手順で記入し、操作コマンドを記載します。
・ダイオードモデルだけは、Di図上でマウス右ボタンをクリック
し、PICKUPボタンから、上記で追加したダイオード型名の選択
が必要です。
・DC電圧源:V1は、解析コマンド:.dc を用いて、記載します。
下記ではSPICE Analysisより、DC sweep画面を選び、電圧源V1
を、0V→41V間を、0.0001VステップでSWEEPしています。
増分値:0.0001は、必要精度に応じて、高精度側に設定します。
(.MEAS コマンド探索での水平軸一致点が出せない時に、増分値
を小さくする事が必要な場合があります。)
計測コマンド:.MEASURE(.MEASでも可)は、SPICE Directiveを
用いて記入します。
太陽電池モジュール等価回路に必要な特性値計測コマンド例
.MEAS Pmax MAX V(n001)*I(V1)
Pmax値:モジュール出力電圧点:V(n001)と、電圧源:V1への流入電
流:I(V1)の乗算値から、MAX点を探索
.MEAS Vpm FIND V(n001) WHEN V(n001)*I(V1)=Pmax
Vpm値:Pmax点のV(n001)値を探索
.MEAS Ipm FIND I(V1) WHEN V(n001)*I(V1)=Pmax
Ipm値:Pmax点のI(V1)値を探索
.MEAS Isc FIND I(V1) AT V(n001)=0
Isc値:電圧源が0V時の流入電流値(:短絡電流値)を探索
.MEAS Voc FIND V(n001) WHEN I(V1)=0.01
Voc値:電圧源の流入電流値が0.01A時を開放電圧値Vocとして探索
D.上記の手順で、太陽電池モジュールのシミュレーションモデルを下記の
ように作成します。
4.シミュレーション結果の表示
太陽電池モジュール等価回路を作成後は、RUNさせればグラフプレーンが表示されます。表示ポイントは回路図上から選択したり、ADD-Traces画面を開いて、数式表現でグラフプロットができます。下図のようなI-VカーブやP-Vカーブが表示できるように、軸調整方法などをマスターします。
計測コマンドの数値は、SPICE Error Log窓を開いて確認ができます。
上記のシミュレーション結果とカタログ定格とを比較し、各パラメータ
を微調整することで、等価回路モデルを完成させていきます。
各素子定数の影響は、豊島安健氏(産総研)の資料を参照したり、ご自身
でパラメーターSWEEPにて、特性変化を確認してみてください。
・まとめ
今回の方法は、もっとも基礎的な手法と想いますので、LTspiceの習得練
習用に紹介してみました。ただ、この手法は、エンジニアの手許ツールに
は便利ですが、シミュレーション・モデルの配付や説明資料図的には向き
ません。
シミュレーション・モデルの配付では、簡単利用や改変防止/著作権記
載/COPY防止を兼ねた、データ・カプセル化や暗号化が有効です。
次回は、LTspice機能の紹介として、サブサーキット化によるカ
プセル化や暗号化を紹介したいと想います。
(太陽光発電とずれちゃいますが、LTspice機能(階層化と暗号化)の
簡単な紹介です。ご興味がありましたら、お立ち寄りください。)
・ちょっと寄り道
月影ん家の鯉は、冬用の浮き蓋をもらって、夜は寝る季節になりました。
友達と長芋を掘ったり(友達は中古のショベルカーも持ってる..)、奈良漬け
も漬け終り...月影の苦手な冬がはじまります。
スキーを再開した先輩爺もいるけど、温泉かな~とも想う爺でした。。