月光ヶ原 海音 独炉留

((独炉留 ・ 屋上

(久しぶりに外の空気に触れる為に学校の屋上に出る。勿論事前に誰も居ない事は異能に確認させた。夜の空気は冷たいが、海音は夜しか外には出られない。白い肌も白い髪も異能も彼女が望んで手にした物では無い。それなのに常に彼女に纏わり付いて居る。
そんな海音は屋上の端っこへと足を進めた。山の中だ。夜景という概念は無い。白い薄い生地のフリルのロングワンピースは夜風で靡いている。普通の人間なら、いや普通の異能者なら太陽が輝いている世界も楽しめたのだろうか。自分みたいに星と月と生き続ける必要は無いのだろうか。海音は“普通の異能者”の生活を知らなかった。産まれた時から“異常”であった彼女にとっては到底理解出来なかった。)
『寒いね。』
(女神の崇拝者は呟いた。崇拝者は濃紺の長い服を着て全身に布を身に纏っていた。女神は彼女をシスターと呼んだ。英語でsisterと書いてシスター。彼女が仕える女神は自分に仕える女性を自分の妹に見立ててシスターと呼んだそうだ。)
『また咲いてますよ。』
(女神の周囲に咲き、辺りを花の香りで包んだのは“エリカ”の花。花言葉は“孤独”女神は悲しそうに微笑んでその場に屈み、その花を摘んだ。花を摘むと白い鳩を遠くに放す時の様に屋上の上空へと飛ばす。牡丹の花より幾らか薄い色をした花は風に乗り屋上の下へと舞い降りて行く。その様子は空から天使が舞い降りる時の様だった。)
………飛びたいね。
(海音は悲しそうに呟いた。エリカの花弁の様に私も遠くへ飛んで行ってしまいたいと願った。海音が少し俯くと、足元に黒い何かが有るのに気が付いた。その黒い何かを拾おうとした時、棘の様な物が指に刺さり一瞬手を引く。その黒い何かの正体は“黒いバラ”。花言葉は“美しい死”。
海音はその薔薇を引き抜くと、それを片手に確りと握り締めて屋上の出口の方へと足を進めた。手には確りと棘が刺さっていた。)

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