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小春日和のセーラムドライブ 2

 省吾は、支店からは約5キロ程離れた場所にアパートを借りていた。美里の実家がそこから500メートル程しか離れていなかったのは偶然だったが、この偶然が二人が恋に落ちる必然の大きな要素となっていたのは間違いなかった。

 親しくなって程なくして、デートといえばもっぱら省吾のアパートで二人で夕食を取ったり、テレビを観たりするようになった。社内恋愛に寛容とはいえない職場の同僚の目などを考えても好都合だった。

 美里は病気がちで休職中の父親とパート勤めの母親との間の一人娘だった。競馬場や場外馬券売り場のないその山あいの地方都市で生まれ育った彼女は、家族や友人など身近に競馬を嗜む人がいないこともあって、それまで競馬と全く無縁の人生を送っていた。

 10月末の土曜日、省吾は夕食後のテーブルの上に競馬新聞を広げて、翌日のレース検討をしていた。食後の片づけを終えてキッチンから戻ってきた美里が、
「省吾、眉間に皺が寄ってるよ」
と笑いながら、省吾の左斜め前の椅子を引いて座った。

 競馬新聞の一面見出しには、『芦毛二強対決』と大きな文字が書かれていた。
「明日、天皇賞っていう大きなレースがあって、前評判ではこの2頭が強いって言われている馬が対決するんだ。両方とも芦毛なんだよ」
「芦毛って何?」
「馬の体の毛の色。たまに灰色っぽい馬がいるだろう。あれのこと」
「どっちが速いの?」
「うーん、俺は競走馬が一番強くなると言われている5歳の秋を迎えたこのタマモクロスの方が一日の長があると思うんだけど、こっちのオグリキャップは一つ年下なんだけど、そういうこれまでの常識を覆す強さがあるからなぁ…」
 省吾は、馬の強さを「速い」と表現した美里の言葉に若干違和感を覚えつつ、新聞を指差しながら質問に答えた。

「競馬って、面白い?」
「俺にとってはね。競馬っていうとイコールギャンブル、身を持ち崩すって決めつける人もいるけど、そんなことないんだけどなぁ…。そうだ。ちょっと馬券買ってみるか?」
「どうやって買えばいいかわからないよ」
「いいんだよ。名前が気に入ったとか、顔がかわいいとか、で」
「省吾はそのタマモクロスの方を買うの?」
「今のところはそのつもり」
「じゃぁ、私はもう一頭の方を買ってみる」

(続く)

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