SF創作講座第2回実作感想 (ダルラジの補足)
河野咲子さんとダルラジ第3回を収録して公開しました。ダルラジ中では触れられなかった実作が幾つかあるのでテキストで補足したいと思います(本当は口頭で話したいんですけど。講座終わるの遅いし…。どこかで話しましょう)
降名 加乃さんの砕けた瓦礫の願いより
世界設定が淡々と書き下されていますね。冒頭部は《資源》についての説明をする以外の役割を果たしていないので、読者的には退屈で凡庸だと感じてしまう。暴行されて《資源》をよこせ!と言われた後から語るとか、「今」の設定の仕方次第では面白くなりそうに見えました。
乃亜が全然出てこない割にお話的にはおそらく重要そうなので、もう少し主人公との関係値を書いて上げたほうが良さそう。家族だから大切!というのは一般社会のロジックなので、フィクションの世界では一般社会と同じなのか、フィクションの世界に固有の(例えばキャラクターに依存した)ロジックがあることをきちんと書かないといけないように見えます。
> 恋は《資源》を食い潰す致死の病のようなものだと噂されている。それがこんなに甘美な感覚だなんてずるい、と思った。
これだけでSFにできる気がするポテンシャルを感じます。恋をするために破壊を繰り返すとか…なんか色々面白そうなお話の宝庫にみえますね。
普通の資本主義社会を《資源》のある社会に置き換えただけだとちょっと物足りない。社会を瓦礫に返す欲望が匂い立つのは好ましくて、とはいえその発露のさせ方として物足りない。フィクショナルな社会をかなり辛いものとして書いて破壊するか、いっそ現実側を《閉削》するくらいの飛躍を読んでみたいです。
馬屋 豊さんのディープフェイクおばあちゃん
Where should I find your short story?????
牧野大寧(だいねい)さんのイミテーション・アニマルズ
回想があんまりドラマに寄与していないので勿体ない。「心残りだけだった」より、実際に弟が出てきたりするほうがいいんじゃないかなと思いました。
この話の快楽は動物たくさん作るところとその掛け合わせのぶっ飛び度と面白さにあると思うのでそこから始めたほうが良い気がしました。鳥のくだりは凡庸なので、いきなりキメラ的動物を作って読者を魅了すると良いと思いました。
ギが裏切るところが少し面白いので、ここに重みをもたせるならもっと二人の関係値が必要に思えます。
生物合成する箱?の設定にAIのようなテクノロジーを使うから変に説明過多になってしまっていて(生物合成とAIって印象的には少し遠いので、読者も理解するのに時間がかかる)、食い合わせの悪さが読み味の悪さに血直結してしまっている用に思えます。
多分なのですが、深く説明してもつまらなくなってしまうので(超真面目にやる手もあるけど、、本質(=快楽のポイント)はキメラのバトルだと思うので、宇宙のどこかの惑星で発掘されたオーパーツみたいにしたほうが説得できるし、読者は没入できると思いました。
柊 悠里さんの孵(かえ)らなかった星間文明(あまかけるもの)への鎮魂歌(レクイエム)
物語の導線がちょっとわからなかった。設定を結構詰められているのはポイント高いのですが、読者にとって新奇の用語が頻発するので、序盤は結構ついていくのが大変。
実際に地球で起こりそうなことをひたすら追っていく感じになっているjのですが「なぜ滅びたのか」が読者的にはあんまり重要そうな謎に見えず、読み進めたいと思わせる力に書けているように見えます。
アダムとイヴになる話で落ちているのはちょっとおもしろい。アダムとイヴになる前提ならば主人公がティナに対して都度都度見せる性的目線も理解できます。むしろ二人の子孫(作れるのか?)が昔こういうことがあったと語っていくほうが面白くできそうな気もします。
主人公からティナに都度都度向けられるのがパートナーとしての信頼ではなく、性的目線(=欲望の対象としての目線)なので、ティナがツールじゃない!みたいな会話の納得感がちょっと薄い気がしました。肉の欲にとらわれて任務を忘れて倒錯していく方に降ったほうが面白くなりそうにも思いました。
方梨 もがなさんの二十日鼠が死んでいた。
設定が結構面白くて、「宇宙は絵画のようなものだ」という表現も大変好ましい。ただ梗概を読まないと設定が入ってこない書き方になってしまっているのが勿体ない。1,2段落目は結構ワクワクさせられる始まり方なのですが、3,4個目の手記的なやつは繋がりが分かりづらい(アルベールと人間の記述が交互に来るというのは読者的には想定してない)ので、区切り線を重力子メッセージだと分かるように工夫するか、アルベールの思念と人間の手記に同じモノが出てくる(ネズミのケージとか?場所を表すもの)とかにしたほうがいいように見えます。
人間側の視点がコロコロ変わっちゃうが(形式上しょうがないのですけれど)けっこう難点に思えます。はじめの5往復くらいまではずっと人間とかにしたほうが没入できそうです。
梗概では書けている読ませポイントが実作では上手く書けていないかもしれません。1. 面白そうな設定、2. 生と死のサイクルを繰り返すうちに、アルベールは生命への関心が強くなる。3. これが、人類とアルベールとの出会いであった。実作では「あるべぇる」と名付けた子供の部分は結構書かれていたので◎、1.は読んでいても「多分こうなのか? あってるのか?」となってしまうので勿体ない。手記形式なので、人類側でアルベールを見つけて研究している研究者みたいのはキャラクターとして必要そうです。
書きながらおもったのですけれど、四次元空間を動ける(時間軸上を自由に動ける)生命体にとって「名前」がどういう意味をもつかを突き詰めるだけで相当面白くなりそうな予感。
手記形式をやめてみるというのも手、手記形式で時間軸が行ったり来たりすると読みすすめるの大変(途中からわかるけど)、アルベールが主人公のノベルゲームをやりたいのかな? という気持ちはわからなくはないですけれど。やるなら手記形式の良さみみたいのに自覚的である必要があって(僕もよくわかっていない)
アルベールの目的をはっきりさせたほうが良い。手紙を送りつけてるだけ?「生と死のサイクルを繰り返すうちに、アルベールは生命への関心が強くなる」-> 人間に関心持つ(コミュニケーションしたい)だと思うので、ここの挫折とかあるといいですよね。最初の交信が実現してまじ嬉しい!を作り上げる必要があって、ペストの話とあるべぇるの喪失(子供の話)はあんまりそのカタルシスに寄与できてない。