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小説 『探偵メトロ東西線』 T-06 飯田橋駅(前編)
土曜の午後、私と探偵メトロは飯田橋駅の近くにあるラーメン屋さんにいた。
誘ったのは、私だ。
《依頼の前に食事でもいかがですか?》
《そんな時間はない》
《食事代、私が出しますけど》
《仕方ない。付き合ってやろう》
……何だコイツ。
年下の未成年者にランチをおごってもらうことに、プライドはないのか。それとも、かなりの金欠なのか。
中野駅で肉そばをご馳走すると言えば乗って来た。早稲田で依頼を受けた坂上さんの中華料理も謝礼がわりのゴチだった。
まあ、裏を返せば「ゴチする」と言えば、コイツは付き合ってくれるのだろう。
で、ラーメン屋さんのカウンターに二人並んで座っている。店のセレクトは探偵メトロだった。
「この店のワンタン麺が、すこぶる美味いんだ」
胸をはって説明する探偵メトロ。はたしてカウンターの向こうから現れたそれは、「おお」と唸りたくなるような一品。
透き通ったスープにたっぷりの青ネギ、チャーシューとプリプリなワンタンが食欲をそそりそうだ。
「いただきます」と割りばしを割り、まずはレンゲでスープをひとすすり……ううん。
「どうだ?」
「おいしいです」
「だろ」
自分の目利きに間違いがなかったと、探偵メトロは満足げな顔をしている。ゴチのくせに。
──と、私は彼を食事に呼び出した目的を思い出した。
「ねえ、探偵メトロ。私はこうして、あなたの謎解きに中野駅から付き合ってきたよね」
「押しかけでな、こっちからお願いしたわけではない」
「はいはい、そうですね。わかってますとも。でも、こうして中野から始まった東西線各駅での謎解きも、中野、落合、高田馬場、早稲田、神楽坂……ときて、今日は飯田橋。もう六つ目」
「だな」
「あなたの推理の見事さは、回を増すことによくわかったのだけれど、あなた自身のことが、まったくわからない。これもまたミステリーなのかも知れないけれど」
「ミステリーか」
フフ、と麺をすくい上げながら笑う。
「もうそろそろ、あなたが何者であるかを、少しでも教えてくれてもいいんじゃないの。こうして私のお金でラーメンをすすっているわけだし」
「…………」
レンゲを持つ手が止まる。
「今どき、探偵メトロって名乗って謎解きしてるスタイルって、相当イタイ奴だってことは認識した方がいいと思う。そろそろ、本名を教えてくれもいいじゃない」
「それが、私を食事に誘った目的だったのか」
「だけじゃなくって、あなたのことを何も知らないまま、ずっとアシスタントをやっているのもどうかなって、それに」
と、私は彼の右目下にある泣きぼくろを指さした。
「これ、ずっと見ていましたが、マジックペンで書いたものではありませんよね。どうしてウソをつくんですか」
「たしかに、これは本物の泣きぼくろだ」
──やっぱり。
「ウソをついたことは謝る。中野駅で絡んできた、鬱陶しい女子から逃れるための口実だった」
「それって、私のことですよね」
「いかにも。だが徐々に考えが変わっていったよ。探偵メトロに助手がいてもいいんじゃないかと」
「じゃあ、もっと探偵メトロのことを教えてくださいよ。その青い眼もカラコンじゃなくて、本当に青いんじゃないですか。あなたらもしかして、私の……」
「残念だが、君の思う、生き別れたお兄さんではないよ。私に妹がいるなんて、親から聞かされたことはない」
「…………」
今度は私が黙ってしまう。
「だがまあ、こうして出会って、一緒に飯田橋まで謎解きを続けてきたんだ。少しは教えてやろう。私の名前は……」
「名前は?」
「メトロだ」
「だからぁー」
何言ってんのよ、コイツはもう……。
そんな私の不服を気にせず、探偵メトロはワンタン麺に集中し始める。私も、これ以上は進展がないと思い、ワンタン麺をすすることにした。うん、美味しいな。
「ところで、アシスタント君」
「ハル、と呼んでもらえまえんか」
「わかったよ。ハル──ひとつ質問をしよう。この駅の名前は飯田橋というが、どうしてその名前になっと思う?」
「飯田橋という橋があるんでしょ? そのくらいは想像がつきますよ」
「じゃあ、飯田橋の飯田は?」
「うーん……それより、どうしてそんな質問を?」
「思いつきだ。探偵メトロのアシスタントなら、そのくらいの豆知識は事前に調べておくべきだ」
「はいはい」
ズズ……とスープをすする。
「ところで探偵メトロ、今回、飯田橋駅での依頼内容って、いつもと違いますよね」
「だな」
最後のスープを飲み干そうとして、持ち上げたドンブリで顔が隠れる。
《探偵メトロさま 次は飯田橋駅だと思うのですが、私の記憶について、調べていただけませんか?》
これが依頼内容。記憶って、何?
「実際に会って、話を聞いてみないとわからないな」
「ですよね」
依頼者とはこのあと、飯田橋の近くにあるホテルのカフェで会うことになっている。
「向こうは、次の謎解きが飯田橋であると知ってのうえで、依頼してきたんだ」
「ということは、やはり地下鉄に関することになるのね」
「いこうか」と探偵メトロが立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待って。私まだ半分も食べてない」
「だったら先に行く。待ち合わせ場所はわかってるよな」
「ええ」
「ワンタン麺、ごちそうさま」
すう、と立ち上がった探偵メトロ。そのまま店のサッシ戸をカラリと開けて、出て行ってしまった。
「たくもぉ!」
ひとり残された私は、急いでワンタン麺を平らげようと……やめた。こんなに美味しいワンタン麺は味わって食べないと。
それと、さっきの「飯田橋の飯田」だ。スマートフォンを取り出して調べると、この一帯を徳川家康に案内した人物の名前が、飯田さんだったわかる。なるほどね。
十五分後。
私は探偵メトロのあとを追って、駅から徒歩数分の大きなホテルに到着した。
場所を指定したのは依頼者で、《萩原と申します。待ち合わせ場所についたら連絡を取り合いましょう》と、探偵メトロにリプが入っていた。
「いらっしゃいませ、一名様ですか?」
「いえ、待ち合わせで……」と広いカフェを見渡すと、いた、奥の席に探偵メトロが座っている。
「あそこにいましたので」とスタッフさんに言ってから、彼に近づいていく。私の存在を認めた探偵メトロは、何ごともなかったかのようにコーヒーを一口。
「依頼者は、まだみたいね」
「まだ約束の時間前だしな」
時計と見ると1時50分。約束は2時だった。
四人掛けの、彼の脇に座った私もコーヒーを注文して、依頼者の到着を待つ。すると探偵メトロがスマートフォンを見た。
「いらっしゃったようだ」と、顔をカフェの入口に向ける。
私も同じ方向を見る。
紺のスーツを身にまとった、若いサラリーマンがこっちを見ている。おそらく、あの人が萩原さんだろう。
案の定、近づいてきた彼は「探偵メトロさんですね。本日はよろしくお願いいたします」と丁寧に頭を下げた。
探偵メトロと私も立ち上がって、頭をさげる。と、依頼者が私を見て(誰?)という表情。
「はじめまして。探偵メトロです。こちらは辻堂ハルさん──大学生のアシスタントです」
おお、やっと私の存在と名前を。
「そうですか、探偵メトロさん、辻堂さん、よろしくお願いいたします」と、改めて深々とお辞儀。礼儀正しい人だなあと。
アイスレモンティーを注文した萩原さんは「さっそくですが」とスマートフォンの画像を見せる。
萩原さんによく似たおじいさんが、ベッドで上半身を起こしている。
「私の父です。今は介護施設で暮らしています」
と、いきなり父親の写真を見せられて、これからの展開が読めなくなる。
探偵メトロは、あいかわらずクールな表情のまま、写真に見入っている。
「謎解きの依頼は、私の記憶について……と申し上げたのですが、実はこの父にもかかわってくるのです」
「詳しく伺いましょう」
運ばれてきたアイスレモンティーを口に含み、萩原さんはゆっくりと話しだす。
「父とは血の繋がりはあるのですが、戸籍上では微妙なことになっていまして、私の父はほかにもいます」
「それは、お母さまが離婚、再婚をされたと」
「はい、その通りです。私はいま二十九歳ですが、この実の父が四十八歳のときに生まれた、遅い子供でした」
「するといま、お父さま七十七歳になられると」
「数年前に脳疾患で手術をしまして、それ以来、身体も心も弱くなってしまいました」
さっきの画像を思い出す。施設のベッドで上半身を起こしているが、力のない眼をしていた。
「認知症の初期であると診断されましたが、私が見舞うと、いつもの父に戻るのです。でも」
んん、と思いつめたように一度下を向いた萩原さんは、ややあって顔をあげた。
「私の母と離婚した父は別の家庭を持ち、いまはその家族と暮らしています。そちらの家族からは、かなり症状が進んでいると言われましてね……記憶が曖昧になったと」
私は自分の、母方の大叔母を思い浮かべていた。八十をすぎて認知症になった彼女は、家族の顔と名前がわからなくなり、最近では過去と現在の記憶が曖昧になっている。
「それって、もしかして」と探偵メトロが反応する。「遺産相続に関わる話ということですか」
「ええ、むこうはそう思っていますが、私は違うんです」
萩原さんが首を振る。
「最近の父の言動から認知症の進行を、あの人たちは声高に言うのですが、私自身は社会人として自立してますから、遺産がどうのということには興味がないのです。ですが父の記憶の違いを言うのであれば、それはすなわち私の幼少期の記憶の否定にもなると思い、こうして探偵メトロさんに依頼したのです」
「それは……ありがとうございます。で、私に出来ることは、どういったことでしょうか」
「赤い電車、についてです」
「赤い?」「電車?」
探偵メトロと私が同時に反応する。
「そうなんです。赤い電車についてなんです」
私は、萩原さんの言葉に「赤い電車」をいくつか思い浮かべる。鉄道マニアでなくても、赤い電車と言えば……。
「京浜急行とか、赤でしたよね」
「ええはい、その通りなのですが、私の幼い記憶に残っているのが、この、飯田橋から乗った赤い電車なんです」
「?」と私はなる。飯田橋で乗る赤い電車となると、思い浮かぶものがなくなるのだ。
「その前に、萩原さん」
探偵メトロが、まっすぐに萩原さんを見る。
「お父さんとあなたとの、赤い電車にかかわる話を、もう少し詳しくお聞かせ願えませんか」
「ですよね、すみません、勝手に話を進めてしまって」
言いながら萩原さんが、再びスマートフォンを操作する。現れた画像は幼い子供を抱っこしている中年の男性。
「二十四年前の、私と父です。私は五歳、父は五十三歳」
幼い萩原さんの、屈託ない笑顔がかわいい。抱っこしているまだ若いころのお父さんも精悍な顔をしていた。
「大阪で不動産業を営んでいた父は、仕事でしょっちゅう東京に足を運んでいまして、銀座で出会ったのが母でした。男女の仲となって生まれたのが私で、両親は結婚したのですが、幸せな関係は何年も続かなかったようです。私が三歳の頃に離婚が成立して、私は母と市ヶ谷にあるマンションで暮らしました」
萩原さん、いろいろ苦労したんだなあと。
「父は東京に来るごとに、幼い私に会いに来てくれました。親権は母にありましたが、月に一度は飯田橋のこのホテルに泊まって、ここから私を動物園に連れていったり、ここのレストランで食事をしたり。帰る時間になると、市ヶ谷のマンションまで私を送り届けてくれるのですが……そこで赤い電車です」
「萩原さんは、電車がお好きだった?」
「そうなんです、探偵さん。父にはよく神田の交通博物館に連れて行ったもらったんです」
「え、ちょっと待ってください」と私が止める。
「鉄道博物館って、確か大宮では」
「……」「……」
萩原さんと探偵メトロが、顔を見合わせて笑う。
「もしかして、私いま、変なコト言っちゃいました?」
「いや、ハルの言ったことは正しくもある。ねえ、萩原さん」
「ええ、交通博物館は昔、神田にあったんですよ」
「へええ」
それほど年齢が離れていないと思ってたのに、ジェネレーションギャップなのかな……。
「それで萩原さんは、お父さまには結構電車に乗せてもらっていた、ということですね」
「勘が鋭いですね、探偵メトロさん。そうなんです。飯田橋から市ヶ谷のマンションに帰るとき、父ならタクシーでひとっ走りなわけですが、私のために、必ず電車で帰ってたんです」
「その電車が、赤色だった」
「はい。私が戦隊ヒーローの赤が好きだったこともあり」
うーん、と私は唸ってしまう。
萩原さんの話はわかった。家族のこと、父親が電車好きの息子のためにタクシーを使わなかった。萩原少年は赤が好き……。
「でも、赤い電車で飯田橋から市ヶ谷って?」
「って、ハルさんも思いますよね。そこが依頼した謎なんです。父はいまでも私と電車に乗って市ヶ谷に帰ったことをぼんやりとですが覚えています。赤い電車だったことも。そして私も当時四歳でしたが、赤い電車を断片的に記憶しているんです。けれどハルさんが疑問に持たれたように飯田橋から市ヶ谷まで移動する電車に、赤い電車は考えられない」
「ええ、はい。そうですねえ」
「その後、母も再婚して父と会うことはなくなったのです。お話しした通り、近年になって父は私に会いたいと言い出したものですから、私も彼の元へ通うようになりました。それを警戒してか、むこうの家族は父の記憶が曖昧になっていると、認知症の進行を主張するのです……でも、私と父の記憶の中には明らかに赤い電車は存在するわけで、私は相続や父の認知症うんぬんより、あの頃の思い出を否定されたくないんです」
キッ、と口を固く結んだ萩原さんの顔。大事な記憶なんだなと私は感じ取った。
「なるほど、一緒に考えましょう。萩原さん」
探偵メトロが明るく声を張る。
そうは言っても、飯田橋から市ヶ谷までの赤い電車って、リアリティがないと思うんですけど……。
「先ほどウチのアシスタント──ハルが言った京浜急行は車体がほとんど赤いのですが、その路線は飯田橋〜市ヶ谷を通っていません。だとすると車体に赤いラインが入っている電車という解釈もできますよね」
「ええ。赤いラインの入った電車だったと思います」
「でも」と私は首をかしげる。
「赤いラインの車両って、地下鉄なら丸ノ内線じゃないですか。JRだったら京葉線。でも飯田橋から市ヶ谷は……」
「ええ」と萩原さんが応える。
「JRで飯田橋駅なら総武線の黄色ですよね。快速の中央線はオレンジで、これは赤に近いけれど通過してしまいます」
「でも萩原さん」と探偵メトロが応じる。「早朝や夜遅くなら中央線の車両が総武線を走ることもあったはず」
「ですが」
「あなたを送り届ける時間が、早朝や夜遅くだったとは考えづらい。なのでJRは正式に、なし」
となると「飯田橋から市ヶ谷は、東京メトロの二路線……ですよね。有楽町線、南北線」と私が情報を足す。
「うん、ハルはよくわかってきたな」
「探偵メトロのアシスタントですから」
「じゃあ聞くが、それぞれの色は?」
「有楽町線は黄色、南北線は……あれって?」
「エメラルド、と呼ばれている。ちなみに有楽町線は黄色でなく、正式にはゴールドなんだよ」
へええ……そうなのか。さすが探偵メトロ、詳しい。
「ハルは、東京メトロの二路線も赤いラインが入っていないと考えるか?」
「ええ、だってエメラルドと、ゴールドでしょ」
「乗り入れている路線があるだろう」
「そっか、それがありました。ええと……」
これ以上は私に知識がないので、ためらわずにスマートフォンを取り出した。ググると、いろんな路線が乗り入れている。
「南北線は埼玉高速鉄道と東急目黒線、有楽町線は東武東上線と西武池袋線が乗り入れてますね。それぞれの車両の色は」
画像を出してみる。
「あ、ありました。東急線は赤のラインです!」
ビンゴだ! と私が喜んでいると……。
「残念でした」と探偵メトロが笑う。
「えー、何が残念なんですか」
「南北線と東急目黒線が相互乗り入れを開始したのは、二〇〇〇年からだ。萩原さんがお父さんと会っていたのは今から、二十四年前になる」
「となると、一九九六年だから……」
東急線ではないのか。
「まあ、落ちこむことはない。次の有楽町線だ」
指示されて、東武線、西武線の画像を検索する。すると。
「ありました。西武線は青ですが、東武線は赤のライン。しかも東武線の乗り入れは一九九六年よりも前です」
出てきた画像を、萩原さんに示す。
しばらく無言で東武線の車両を見ていた萩原さんは、「いえ……」と首を横に振る。これもハズレ、ということか。
「違いますか」
「せっかく探していただいて申し訳ありませんが、記憶していた赤いラインとは違うと思うんです。これはやや暗めの色ですよね」
「ロイヤルマルーンと言います」と探偵メトロ。
この人、何でも知ってるんだな……ちょっとオドロキ。探偵メトロの知識はすごいけれど、問題は解決していない。
「じゃあ、飯田橋と市ヶ谷を結ぶ、東京メトロの二路線も該当しないということですか」
「残念ながら、そうなるな」
涼しい顔で答える探偵メトロだけど、この人、どうしてこんな余裕のある表情をしてるんだろ。
「ねえ探偵メトロ。あなた、もう答えを知ってるの?」
「いや、いろんな可能性について君と考えたいと思っているだけだ」
「可能性?」
「そう、飯田橋駅は六つの路線が通っているからな」
「五つ……」
私は順番に指を折って数えてみる。JR総武線、通過しちゃうけど中央線、私たちが謎解きをしている東京メトロ東西線、違うと認定された有楽町線と南北線……あとひとつは」
「あ、もしかして!」
私はふたたびスマートフォンを手にする。調べたいのは飯田橋と市ヶ谷の地図だ。
現れた地図をじっと見る。そして萩原さんに質問する。
「萩原さん、市ヶ谷のマンションというのは、麹町側ですか? それともお堀を渡った、防衛省の方ですか?」
「お堀を渡って坂を上がって行きました。防衛省の裏の、大日本印刷があるあたりです」
「ああ、でしたらこれはどうでしょう? 萩原さんがお父さまと一緒に乗っていた電車は、赤いラインの都営大江戸線」
「ほお……」と萩原さんが口を丸くすぼめた。
「今、探偵メトロに言われて気づいたんです。飯田橋駅にはもう一路線ありました。大江戸線は市ヶ谷駅には行きませんが、お堀を越えた、坂の上に駅があります」
「なるほど……たしかに大江戸線は赤いライン」
「でしょう」
「いや、残念だがそれもないよ、ハル」
また探偵メトロに否定される。
「どうしてそんなことが言えるんですか!」
「だって、お江戸線の全線開通は二〇〇〇年だから」
「あ……あああ」
すべての可能性が消えた瞬間だった。
「もう該当する路線はありません」
「だよなあ。だが、ひとつだけ可能性はある……萩原さん」
探偵メトロが、まっすぐに萩原さんを見た。
「あなたが記憶している赤いラインの車両は、もしかして一種類だけではないのでは」
「……どういうことでしょうか?」
「複数の、赤ラインの電車を記憶されていたのではと」
「…………」と数秒考えていた萩原さんが、「んん、確かにそうかも知れません」と答える。
「でしたら、答えは出たかも知れません」
探偵メトロが、ゆっくりと立ち上がった。
「どういうことなの、探偵メトロ」
「答を証明すべく、今から二十五年ぶりに、その赤いラインの電車に乗りに行きましょう」
「わかったのですね、探偵メトロさん」
「ええ、おそらく」
……何がわかったというのだろうか?