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小説 『探偵メトロ東西線』 T-00 序章

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『東京メトロ東西線の各駅で、謎解き承ります』


そのツイートが気になった。


アカウント名は『探偵メトロ』。


見つけたのは大学進学前の春休みだ。


通学に利用するから東京メトロ東西線をググっていたとき、


現れたのが、このツイートだった。



★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ 

  探偵メトロと申します。

  東京メトロ東西線各駅で、謎解き承ります。

  ★謝礼不要(趣味で活動しております)

  ☆活動は土日のみ(本業ありますため)

  ★ご依頼は東西線ひと駅、一組様まで

  ☆中野駅(T-01)から順次、承ります

  ★殺人などディープな謎解きは警察へ

  ☆当方は、ライトな謎解きが専門です

  ★ご依頼者は連絡ののち、指定駅まで

  ☆当方ハイライトブルーのシャツです

  ★右目下に、ふたつの泣きぼくろあり

  ご依頼をお待ちしております。

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ 



「なにこれ……」


はじめて見たときは、正直、ひいた。


何よ「探偵メトロ」って。「ポアロ」なら聞いたことあるけど、この自意識過剰なネーミングって恥ずくない?


それに「ご依頼は東西線ひと駅、一名様まで」「中野駅(T-01)から順次、承ります」ってくくり、おかしくない?


これはたぶん、中二病をこじらせた、鉄ヲタ君がやらかしたツイートに違いないと私は思った。


けれど、この一文に釘付けになる。


「右目下に、ふたつの泣きぼくろあり」


駅で依頼者と待ち合わせるときの目印なのだろう(目の下の泣きぼくろだから、本当に「目の印」だけど)。


泣きぼくろがある人って、たくさんいると思うけど、ふたつの泣きぼくろはめずらしいんじゃないかって。


それと実は、この「ふたつの泣きぼくろ」に揺れた。


生き別れたお兄ちゃんなのでは……。


私のお母さんは、若いころに一度結婚して、離婚している。


相手は外国の人だった……ようだ。


ようだ、というのは私が偶然、知ってしまったから。


本人の口からは、怖くて聞けずにいる。


お母さんは日本人と再婚して、それが私のお父さんなんだけど、昔のことは絶対に話そうとしない。


まあ、それはわかる。お母さんにとっての黒歴史なんだから。私から詳しく聞き出すこともないだろう。


けれど、中学三年のとき、お母さんの机のひきだしに入っていたアルバムをこっそり見て、そこに写っていた赤ちゃんの写真にショックを受けた。それは私ではなかった。


若いときのお母さんが、赤ちゃんを抱っこしている。その横には金髪の外国人男性……映画に出て来そうなイケメンだ。

そして、抱っこしている金髪の赤ちゃん。右目の下に泣きぼくろがふたつ、色白な肌にくっきりと浮かび上がっている。


将来、会えるかも知れないお兄ちゃんの目印だった。


話を戻そう。


探偵メトロのアカウント、その自己紹介写真には右目のアップだけが映っている。


やや青い瞳、その下にふたつの泣きぼくろがある。


そうだ。


そうに違いない。


私は生き別れたお兄ちゃんに再会することができる。


そう思ったら、ちょっと痛い「探偵メトロ」の告知ツイートも許せると思った。


この春、私は高校を卒業して、東京西部にある大学に進学することになった。


これから四年間、東京メトロ東西線を利用する。


土日にしか活動しない「探偵メトロ」に会うためには、土日も東西線に乗らなければならないけれど、私は通学用の定期券があるのだから、会おうと思えば会えるのだ。


ワクワクしながら入学の日を迎え……依頼者からメッセージがあった土曜日に、私は東西線に乗って中野駅へ向かった。


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