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Withコロナのブラジル・サンパウロから(5/8)

ブラジル保健省の発表では、COVID-19による死者数は5月8日時点で累計9,897人となった。各州から連邦政府への報告にはタイムラグがあり、州毎の発表数字を集計した速報では、すでに1万人を超えたことが報じられている。

死者数発表の見方

COVID-19による死者数が毎日発表されているのを見ていると、ついつい昨日から今日にかけてそれだけの数の方が亡くなった様子を想像してしまう。しかしそれは正確ではない。

この数字はあくまで、死因がCOVID-19であったことが過去24時間以内に確認された死亡者数であり、その中には過去の数字も入っている。この発表方法はブラジル政府に限った話ではなく、他の国でも同じだ。

この数字を厳密に亡くなった日付別に整理すると、次のグラフのようになる;

最近になって、ブラジル保健省が「過去3日間の死者は○人」という言い方をし始め、メディアもそのように伝え出したが、この数字ですら、過去3日間の報告に計上されてきていない死亡件数が除かれることになるので、実際の3日間の死者数からは少なく捉えられてしまう危険性がある。

どちらの数字にしても、その説明から連想される世界とは少し離れてしまうという難しい問題をはらむ。しかし少なくとも、こうした数字が過去にさかのぼったものを含む数字であることは、ニュースを見る際に心構えとして持っておいた方が良さそうだ。現実が厳しいことに変わりはないのだが。

サンパウロ州、外出自粛要請を5月31日まで延長

サンパウロ州はブラジル国内でも最も人口が多い。

その数は4,600万人で、スペインのそれに等しい。また面積は日本の本州程度で、これもイギリスにほぼ等しい。サンパウロ州は国内でもとりわけ人口規模が大きい方ではあるとはいえ、ブラジルにはこうした州が26個もあることは忘れてはならない。

何せブラジルは大きい。EU全域がすっぽり2つ入る。そのため全国データで理解しようとしても、とてもじゃないが実態が捉えきれない。それはまるで、イタリアの話をしたいのにEUのデータを引っ張ってくるとか、ニューヨークの話をしたいのに全米のデータを引っ張ってくるのと、同じくらいナンセンスなことなのだ。

そこでサンパウロ市に住む身としては、ブラジル全国ではなくサンパウロ州のデータをより注視するようにしている。それには、サンパウロ州データ分析財団(SEADE)のデータが見やすいだろう。

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これによると、5月8日のサンパウロ州内の感染確認者は41,830人、死者数は3,416人だ。いずれもざっくりとブラジル全体の3分の1を占めている。100件目の確認からの感染者の倍加時間(左上グラフ)は、4月上旬には4日程度だったが、今では7日線に近づきつつある。とはいえ、頭打ちしたとはまだ言えない。

ということで、3月24日に始まり、2度の延長を経て5月10日までの予定だったサンパウロ州内の外出自粛要請は、5月31日まで継続することが決定された。

※ツイート中「2分の3」は「3分の2」の誤り。

このサンパウロ州だけでも十分広大だ。州の全域で外出自粛要請を続けるのはやや強引に映るかもしれない。中には感染が未だ確認されていない市もあるためである。しかし、そうした町には人工呼吸器を備えた集中治療施設がないことも多い。それらの市をカバーする中核都市の医療キャパを温存する意味で、州全土での外出自粛延長を決めたということだろう。

なお、外出自粛措置から一歩踏み込んだ外出制限=ロックダウンがサンパウロ州で実施される話は今のところ出ていない。

ブラジル国内都市で初めてロックダウンが行われているマラニョン州サンルイス都市圏では、サンパウロ市が5月11日から実施するのと同様、車両ナンバーの下1桁の奇数・偶数を基準としたナンバー規制が行われることが決まったそうだ。

またリオデジャネイロ州は、5月11日までの予定だった外出自粛要請を5月31日まで延長することを決めた模様だ。州としての一歩踏み込んだロックダウンは、州検察庁からその検討資料を提出するよう州政府はプレッシャーを掛けられているものの、知事が固辞している。

自動車生産が前年同月比「99.3%」の下落

4月はブラジルの主要州で外出自粛要請を丸1ヶ月経験する月となり、その影響がデータでも見えるようになってきた。花形産業の自動車生産は、前年同期比99.3%の減少。想定できていたとはいえ、現実離れした数字である。

ブラジルには年産500万台の生産能力があるが、景気回復途上である今年はに300万台程度が想定されていた。寝耳に水のコロナショックで、ブラジル自動車工業会(ANFAVEA)は年内の見通しを立てられずにいる。記事中には、調査会社が180万台を予想しているとの記載もある。

なお、4月の販売台数は前年同期比76%減とのこと。隣国アルゼンチンの債務危機により昨年後半から輸出に陰りが見えていたところで在庫過剰状態だったが、それに拍車がかかる状態となっている。

気になるのは雇用だ。レイオフによる減給を失業保険でカバーする特例は90日間、労働契約の一時停止は60日間だ。活動再開やその度合いに関する不透明感は未だに極めて高く、近いうちにもこうした特例措置の継続に関する議論は活発になるだろう。

利用しにくい中小企業救援策、理由は「現金支給」

企業向けの政府による救済策が利用しにくいという話は日本からも伝わってくるが、ブラジルでも固有の問題で利用が進んでいない。

中小企業向けの対策の目玉となっているのは、毎月支払いが伴う従業員の給与を低金利で貸与するというもの。融資の申請は企業が行なうが、従業員の個人口座に直接融資額が振り込まれるというのが特徴だ。

市中金融機関からの融資となるため、給与相当額を振込むために、従業員が銀行口座を持っている必要がある。しかし飲食業などでは現金支給の事が多く、そもそも給与振込をしてこなかったために融資条件に合わないという事態になっている。

しかし逆に言えば、こうした課題に着目して解決に乗り出すフィンテックが出てくる可能性もあるのもまた、ブラジルである。こちらは5/6の記事で紹介した一例。

消費者物価は0.31%のデフレ

ブラジルでインフレというものに慣れ親しんでいた身としては、過去12ヶ月間のインフレ率が2.40%という数字でもにわかに信じがたいものがあるが、4月には原油価格の暴落と、COVID-19感染拡大による先行き不透明間が原因となった消費の冷え込みで、物価が下落した。

下落幅が大きかったのは、燃料に加えて観光・サービスなど人が動くことで利用されるサービスであった。

なお市場関係者らによる2020年通年のインフレ率は、2.0%をギリギリ切る予想が多い。政策金利は昨日、年率3.0%にカットされた。次の利下げ幅次第では、実質金利がとうとうゼロとなることも起こりうる。

アルコール・ジェルの供給は、一転過剰状態に

コロナショックで最初に商品棚から消えたのは、日本と同じくトイレットペーパーだった。続いて、この消毒用のアルコール・ジェルの入手が困難に。特に医療現場で調達できないのが問題となった。

しかし、そこはアルコールの原料となるサトウキビの生産量で世界第2位のブラジル。燃料用エタノールを生産するプラントに衛生監督庁がすぐさま衛生用品用アルコールの生産許可を付与した。

ジェル化材料が入手できるようになると、今度は国内のビールメーカーや化粧品メーカーが生産ラインでアルコール・ジェルの販売を一斉に開始。最初は医療機関や自治体、衛生状態の悪い貧民街に寄付され、その後小売市場にも出回るようになっている。

今後も長く供給されるようになるだろう。ブラジルでは飲料水サーバーが公共の場によく設置されているが、それに近いほどに身近な存在となるかもしれない。

なお、アルコール・ジェルの需要が高まることでさぞかしエタノール業界は潤っていると思われるかもしれないが、外出自粛による需要減と原油価格の下落でガソリン価格が下がり、競合する燃料用アルコールの需要も大幅に減っていることから、多くのエタノールプラントは経営危機に陥っている。

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