見出し画像

Withコロナのブラジル・サンパウロから(5/6)

欧米での感染拡大がピークを打ったことから、次は新興国が危ないと言われるようになった。

実際にブラジルでは感染が大きく拡大。5月6日には累計死者が8,500人を超え、ベルギーを抜いて世界で6番目に多い国となっている。感染者数は12万5千人に達した。

また、ボルソナーロ大統領の「配慮がない」とされる発言の数々も国外で大きく取り上げられ、それがためにブラジルの実際の状況がどうなっているのかの問合せも多く受けるようになっている。

そこで、ここでは日々刻々と状況が変わる中で、ブラジル・サンパウロに暮らす者に何が見えていて、どのような生活・社会の変化が感じられているかを記録していこうと思う。

ブラジル全土に感染が拡大

国土の大きなブラジルでは、感染の広がり方が実に大陸的だ。

最初に国際都市サンパウロやリオデジャネイロでの感染が拡大した後、他の州の州都へ広がり、続いて中核都市、そして小規模な町へと広がっている。私の住むサンパウロ州(人口4,500万人)でも、サンパウロ大都市圏と比較して、州内陸部での拡大ペースは約3倍にも膨らんでいるという。

小さな町には人工呼吸器を配置した医療施設が一般的に少なく、中核都市がその対応を担うことになるが、それとて十分なキャパを備えているわけではなく、感染拡大が懸念されている。満床となった場合は、都市間で病床を融通することになる。

深刻な感染拡大が続くアマゾナス州とマナウス市

アマゾン川のほとりに広がるアマゾナス州マナウス市(人口220万人)は、3月16日の最初の感染確認から1ヶ月半で感染者数が5,400人超にまで拡大し、死者も532人に達した。

医療システムへの負荷が高まり、マナウス市の公営葬儀システムも崩壊。通常は穴1つに棺1基を埋めるのに対し、重機で大きな土坑を掘って棺を複数並べて埋葬する様子が、今回の事態がいかに深刻かを示すものとして繰り返し報道されている。

もう一歩踏み込んだ対策の必要性については;

このように、検察局が行政に対してロックダウンを求めるよう裁判所に起訴する事態に至っている。司法は影響範囲の大きい判断を避けたが、それ以前には州知事がマナウス・フリーゾーンにある工場の操業への影響を懸念するコメントを出しており、人の往来を止める措置に踏み込むのに慎重な姿勢のようだ。

連邦政府の政策に基づく税制特区を抱え、州の財政の屋台骨でもあり、市の雇用と税収の源となる工業を受け入れてきた街としての苦悩もあるのかもしれない。すでに操業を一時停止し、再開のタイミングを図っていた進出日系企業も影響を受けそうだ。

なお前述のサンパウロ州と同様、アマゾナス州でも州都マナウスからより内陸の町へと感染が拡大している。水運が州内交通の中心のため、船での人の行き来から感染が拡大する。先住民族への感染拡大も懸念されている。

赤道に近い州の状況悪化が目立つ

サンパウロやリオデジャネイロのような大都市を抱える州での感染拡大は、ウイルスの特性上理解しやすい。一方で、それらの州に次いで感染拡大が進み医療崩壊の危機に瀕しつつあるのは、意外にもブラジルの中でも赤道に近い高温多湿な州となっている。

ブラジルは、東西と南北でそれぞれ大体4,300kmずつの長さがあり、北の方では赤道をまたいで北半球にも国土が伸びている。

前述のマナウスを抱えるアマゾナス州とその東隣のパラー州は、アマゾン熱帯雨林の緑の絨毯で覆われた州だ。そしてこれらの州と緯度の近い、大西洋沿いのマラニョン州やセアラー州でも感染拡大が深刻化している。

こうした地域での感染拡大の要因はいくつか挙げられそうで、何度か聞かれるのが以下のようなものだ。

・海外旅行のできる富裕層しかかからない病気と捉えられていたこと
・ブラジルで一番の大都会サンパウロの病気と捉えられていたこと
・行政の要請を無視した店舗が営業を続け、人混みが絶えなかったこと
・激しいスコールを屋内でやり過ごす際に、同じ空気が共有されること

マラニョン州の州都サンルイスの都市圏では、5月5日からロックダウンが行われている。しかし2日目だというのに、一部では守られていないのが現実のようだ。

パラー州の州都ベレン市を含む周辺の街でも、明日からロックダウンが始まる。

ロックダウンが他の大都市にも拡大される可能性

ブラジルでは、ロックダウンは強制力を伴った外出制限とされる。

サンパウロ市など多くの都市では、外出自粛要請や一般商店の営業禁止措置は3月後半から行われている。これらは、社会的距離の確保(Isolamento Social)とか防疫措置(Quarentena)と呼ばれていて、もう一段階強いロックダウン(Lockdown)とは区別されてきた。

サンルイス都市圏で行われているロックダウンは、病院や薬局、食料品の調達以外の外出を「禁止」するもの。当該区域の内外の行き来も行政・貨物の車両以外は認められない。従来の自粛から一歩踏み込んだ措置を実際に採用した都市が出てきたことで、他の自治体も右へ倣えする可能性がある。

例えば、リオデジャネイロは州検察局はロックダウンの可能性について州・市に対して検討し明日までに回答するよう要請した。リオデジャネイロ市長は、市の商業地区の一部の閉鎖を発表している。

渋滞をあえて発生させて外出自粛

最も感染者数の多いサンパウロ州は死者3千人を超え、3日間の喪に服することを決定した。3月24日から続く外出自粛措置を5月11日以降に緩和する可能性も示されているが、州内陸部で感染拡大が進んでいるために不透明だ。

感染数・死者数ともに最多のサンパウロ市でも、さすがにこの2,3週間は市内を行く車の数が増えてきており、渋滞まで発生するようになった。

そこでサンパウロ市役所は、一風変わったこんな対策に乗り出した。

その結果、車線減少の措置をとった大通りでは狙い通り渋滞が発生した。しかし、車で通勤していた医療関係者が出勤時刻に間に合わない、検問箇所のはるか後方で救急車がハマるなどの問題が発生。その結果、1日で撤回となった。

サンパウロ州では、5月7日から外出時のマスクの着用が義務化される。

緊急ベーシックインカムとフィンテックの連携

ブラジル連邦政府は、外出自粛措置等で所得が不安定となったインフォーマル労働者を含む約5千万人を対象に、月額600レアル(約12,000円)の緊急ベーシックインカムの3ヶ月間の支給を決定し、法令としては4月2日に公布された。総額980億レアル(約1兆9,800億円)。

ブラジルには銀行口座を持たない国民が4,500万人、つまり口座を持てる成人の3分の1が自らの口座を持っていないため、支給にあたっては国営銀行の社会保障用口座が用いられた。

それでも、現金での受け取りや申請上の問題解決などを目的に、国営銀行の支店には未明から長蛇の列ができ、社会的距離の確保ができない人混みが発生するなど、別の問題が出ていたところだった。

そんな中、フィンテックが仲介することで市中のATMでも引き出せる仕組みが登場した。

様々な課題が山積しているだけに、技術で乗り越えてそれをビジネスチャンスに変える機会も多いブラジル。本件もそうした取組みと言える。

Mercado Pagoは、Eコマースや商店での決済サービスが本業のため、緊急ベーシックインカムを手にしたアプリ利用者をそうした店舗に誘導することもできる。

同社では、今回のCOVID-19ショックで痛手を受けた小規模店舗向けに決済手数料を期間限定で無料にする取り組みも行っている。困ったときの社会貢献を通じてコロナ禍明けの存在感を増そうとする戦略は、今回のサービスインのスピード感と併せて、実に素晴らしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?