自らの弱点を理解しているブラジル(5/11)
先日、ブラジルのCOVID-19による死亡者数が1万人を超えたことが日本語メディアでも大きく取り上げられた。「1万」という数字は書けば簡単だが、その1人1人に悲しみに包まれている家族がいることを想像すると、心が痛む。
ただ、当地で生活する者の感覚をもって誤解を恐れずに言えば、ブラジルに新型コロナウイルスが上陸した時点で、大変な事態になることは十分に想像できていた。
ブラジル社会がこのような感染症に対して脆弱であることは、普段の生活の中で感じている問題点を指摘していくだけでも、枚挙に暇がないからだ。
「だから何だ?」発言は、市民の諦観の裏返し
ブラジル国内の死亡者数が中国と肩を並べた日、メディアからコメントを求められたボルソナーロ大統領は「だから何だ?」と切り返し、国民の抱く不安や遺族への配慮がないと、猛烈な批判を浴びた。
日頃からやりあっている宿敵のメディアからの問いかけに対するとっさの返事だったとはいえ、確かに軽率な発言だったと思う。
とはいえ、ブラジル国内で一度感染が拡大すればそう簡単には止められないのは、誰にも分かっていたことでもある。あの返しには、そういう意味合いもあったように思う。
どのデータを指して言っているのかは不明だが、当の大統領も、国民の70%がいずれ感染すると言っている。それは差し置いたとしても、ブラジルは絶対に大丈夫だったと胸を張って言える人など、実際にいるのなら会ってみたいものだ。「感染拡大がどうしようもなく広がっているよね」と聞けば、「ここはブラジル。仕方がない」と尋ねたブラジル人の全員が答えるに違いない。
それは別に大統領が色物だからなのではなく、自分を取り巻く社会の状況を総合的に考えれば当然だよね、というものだ。それを恥ずべきことと受け止めるブラジル人も多いが、この未曽有の事態にうまく対処できていると言われている他の国とは、この国は社会構造があまりに違い過ぎる。できることを粛々とやっていくしかないではないか、と思う。
2ヶ月前の予測が的中している
「誰にも分かっていたはず」という話で行くと、初の国内死亡者が出た3月16日の時点で、当時の保健相はすでに次の予想をしていた。
「命と同時に雇用を守る」というボルソナーロ大統領との方向性の違いから後に解任されたマンデッタ大臣は、ブラジルの公共医療分野でのキャリアも長い専門家だ。当時、ピークは4~6月だと話していた。今はまさにその真っ只にある。
そして、もう1つ当時話されていたこと。
5月も半ばの今、実際に起きていることとしては、ブラジル国内でも最も感染者数が多いサンパウロ州は、集中治療病床が多いためにまだ3割以上の余裕があるのに対して、リオデジャネイロ州はその使用率が100%近くに達し、人工呼吸器の不足も問題となっている。
あのリオデジャネイロ州ですら「脆弱」なのであれば、全部で27ある他の州ではどうだというのか。つまり、それ以上に脆弱なのだ。
実際のところ、アマゾン熱帯雨林のど真ん中に位置するアマゾナス州マナウス市では医療崩壊が起きている。セアラー州フォルタレーザ市、ペルナンブッコ州レシフェ市、パラー州ベレン市でも医療体制がひっ迫。外出自粛要請よりもう一段階強い市民の移動制限をかける、ロックダウンの実施に至っている。
そしてこれらのどの州も、赤道からそう離れていない熱帯気候の州だ。
危機が訪れるのは事前に分かっていた。問題は、最悪の状況に至るまでの時間稼ぎができなかったこと、資機材が不足したこと、どこかしらに「諦め」があり市民の行動を根本から変えることができなかったこと、そして相変わらずの公金横流しの汚職体質が、医療資機材が必要とされるこの火事場に出てしまったことなどにある。
5月11日の状況
ブラジル国内のCOVID-19感染確認数は16万8千人、死亡者数は1万1,500人を越えた。増加の伸びに衰えは見えたものの、週末には各州から報告される数値が少なめになると保健省から説明されている。州別の分布は次の通り(左:感染確認数、右:死亡者数、保健省のパネルより)
日本人が多く住むサンパウロ州では、感染確認数が4万6千人、死亡者数は3,700人超となっている。(州立データ分析センターより)