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国際政治の道具と化しているアマゾン熱帯雨林の火災問題(3)

前回(2)で述べたように、アマゾン熱帯雨林の保全を目的としたアマゾナス基金の運用方法に関するブラジルの現ボルソナーロ政権の意向を受けて、資金を拠出するノルウェー・ドイツの両国とブラジルの間では、今年に入ってから溝が深まってきていたところでした。

そして8月に入り、一気にこの問題は深刻化し、アマゾン熱帯雨林は最終的には世界中を巻き込んだ議論の渦中に置かれるようになります。

森林伐採が前年比で4倍に増加

2019年8月1日、科学技術通信省配下のブラジル国立宇宙研究所(INPE)は、あるデータを公表します。

このデータによると、アマゾン熱帯雨林の森林伐採が、今年7月に急速に拡大したというのです。実際にそのデータを見てみましょう。

このグラフでは、2つの折れ線で前年との比較が可能になっています。青線が24~13ヶ月前、オレンジが直近12ヶ月の推移を示しています。

2019年6月の森林伐採面積は、前年同月比90%増の931平方キロ、そして7月の1ヶ月間には2,254平方キロと、前年比約4倍に急増していることが分かります。これは東京都とほぼ面積と同じ広さの森林が、1ヶ月間で姿を消したのに相当します。

INPEのデータは衛星画像を解析して得られるもので、毎月公表され、違法伐採の取り締まりを現地で行なう機関でも活用されています。つまり、政府の公認データということです。

しかし、この「不都合な」データを自身の許可なくINPEが公表したことを、ボルソナーロ大統領は非難。データは現実にそぐわず、その背後にいる「NGOの意向を汲んで」作為的に作られた虚偽のものに違いないとして、INPE長官を痛烈に批判します。

同庁の長官はあくまでテクニカルに得られたデータだと反論したものの、8月4日に罷免されました。

森林伐採面積の突出は本当なのか?

大統領が虚偽と信じて疑わないINPEの公表データについては、政府の公式な数字として我々も捉えるほかはありません。

参考までに、1990年から活動しているImazonというブラジルのNGOは、別の手法で計測される森林伐採面積データを次のように8月16日に公表しています。

これによると、同じ2019年7月に見られた森林伐採面積の増加は前年同月比では+65%となっています。増加傾向こそ同様に認められますが、INPEの4倍増というデータと比べると大きな隔たりが見られます。INPEのデータが、大統領が非難するように果たして作為的なものであったかは、それでも判断が付きません。

(補足まで、いずれのデータでも5~9月にかけて森林伐採面積が増加するのは、この時期がアマゾン地域の乾季だからです)

ドイツ・ノルウェーによる基金への拠出停止

このデータで森林伐採の増加が改めて確認されたことや、ボルソナーロ政権から森林伐採を防止する具体的な対策が明確に示されないことを理由に、アマゾナス基金に資金を拠出するノルウェー・ドイツの両政府がいよいよ動きます。

ドイツ政府は8月10日、予定されていた1億5,500万ブラジル・レアル(約45億円)の拠出を一時的にストップすると発表。ボルソナーロ大統領は返す刀でメルケル首相宛てに「そのお金は自分で使えばいい」と返します。

ノルウェーもまた、8月15日に1億3,300万ブラジル・レアル(約40億円)の基金への拠出を停止するとそれに続きました。

ボルソナーロ大統領は、自身のSNS上でノルウェーの捕鯨活動とされる動画を掲載して応酬。「環境活動家が庇護を得るNGOには、アマゾニア基金の資金の4割が流れている。(そのノルウェー政府が支援する)捕鯨活動を見ろ」と皮肉で押収します。なお、その動画は後にデンマークで行われている伝統的捕鯨活動のものであったと判明しています。

サンパウロの昼間の空が真っ暗に

8月19日(月)、南極方面からの冷たい空気が流れ込み、ブラジル最大の都市サンパウロには寒冷前線が接近していました。

冬季のサンパウロには、このような寒冷前線がおよそ1週間から10日おきくらいに南の方からやってきて、その都度冷たい雨が降って、10度近くまで気温が下がるのが通例です。

空に分厚い雲がかかり、日が遮られて多少暗くなるのはいつものこととしても、この日は普段とは異なりました。昼食を食べ終わった14時過ぎくらいからどんどんと空が暗くなり、16時頃にはまるで夜のように真っ暗になってしまったのです。いつもより2時間ほど早く、夜になってしまいました。

ブラジルには長く住んでいますが、こんなことは初めてだったので大変に驚きました。

この原因は、寒冷前線の通過に合わせ、それとぶつかり合う北(赤道方面)からの暖かい空気に森林火災で巻き上げられた塵が含まれていたからだ、ということが分かりました。次のブラジル国立宇宙研究所(INPE)の分析画像でも、PM2.5粒子を含んだ煙の「川」がブラジル北西部から南東部にサンパウロ方面に流れ込んできている様子が分かります。

当初の報道では、この煙はボリビア・パラグアイ・ブラジルの3国国境付近、つまりアマゾン熱帯雨林よりもさらに南方の別地域で発生している大規模火災によるものだと伝えられました。しかし気象分析機関によっては、アマゾン熱帯雨林の火災の煙もそれに合流してサンパウロまで流れてきた可能性があると説明をしているところもあります。

サンパウロの空が真っ暗になったこの不気味な現象は、その様子の写真がSNSにアップロードされ、ブラジル国内で大きな話題となりました。

翌8月20日には、この現象を受けて原因究明のためにメディアが様々な分析機関への取材に奔走し、それを伝えます。例えば、当日採取された雨が真っ黒に濁っていたため、その成分を分析したらバイオマスの燃えカスが検出された ── など。

それまでは、INPE長官の罷免をめぐって森林伐採面積の急激な拡大こそ着目されていましたが、ここにきて初めて、それまであまり報道されていなかった森林火災の状況に目が向くようになります。

繰り返しますが、(1)で述べたように、森林火災自体はブラジルでは珍しいことではないのです。


次回(4)では、いよいよ世界の目がアマゾン熱帯雨林の火災問題に注がれたこの数日間の動きに入っていきます。


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