#20 トレードオフ


この世に溢れる、トレードオフ。

こっちを取ったら、もう片方は取れないよね。
って類のあれ。

今から4年前の2020年。
僕は大学を中退した。

向かいたい場所に、全く向かっていなかったこと。
向かう気配がなかったこと。
前者より、後者の方が問題だった。

サッカー部に所属していたわけだが、居場所を作りきれずにいた。
僕自身の結果が伴わないこと、不名誉な役割がのし掛かったことから、疎外感を感じる日常を送った。

そんな僕のオアシスは、ゼミだった。
ゴリゴリの体育会系で、暑苦しい僕のことを受け入れてくれた。
お互いのリスペクトを忘れない、彼らの姿勢には敬服。

プライベートは決まってこの仲間を選んだ。
夏も、冬も、クリスマスも、誕生日も。
何の血の気もないからこそ、ゆったりと時間が流れるんだ。

居場所だった。居心地が良くて、大好きだった。


やがて、この先のことが想定できてしまった。
自分の本当の気持ちに蓋をしながら、住み慣れた我が家に定住し、のらりくらりする未来図。
このままいけば、世間では大切とされている安定、就職みたいなものを手にし、大切な仲間と一緒にいられる。

それを分かっていたからこそ、僕はよく決断をしたと。褒めてあげたい。

人の目を気にせずに帆を進められるほど、そんな無鉄砲さは持ちわせていなかった。
本当に良かったのかと、決断をしてすぐの自分に何度か問いかけた。

できるだけ本音は晒したくなくて、退学の理由を偽った。
お前じゃ無理だと言われる懸念があったから。

その度に、自分を励ますように言った。
正解にできるかは、今後の自分次第だと。

何年か経って、今は幸せな人生だと思えているし、あの時の決断を恨んでもいない。

とか思っていた。
先日、ゼミの仲間たちと、久々の再会を果たした。

研究室で駄弁りながら、ああだこうだ話していた記憶が蘇ってきたし、当時起こった事柄に、数年経った今気付いたりする。

あの尊い時間を犠牲にしたって考えたら、手放したものの代償はデカい。デカすぎた。

あぁ、僕はこんなにも素敵なものを手放してしまったんだと。

心の底から欲しかったものを追いかけるために、心の底から大好きな居場所を離れる。
挑戦する人間として、犠牲心みたいなのはかっこいいし聞こえはいいけど、もっと同じ時間を共有したかったと、切に思ったりする。


お金とか暴飲暴食とか欲とか、大抵のことは人生の後半でも取り戻せるし、引退したらいくらでも手を付ければいいと思っていたけど、
それに当てはまらない、人生で最も大切なコトの1つを、僕は早いタイミングで失ってしまったみたい。

難しいところ。

渡邉 宰




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