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政治(金融・財政)講座ⅴ706「MMT(現代貨幣理論)と防衛費」
以前掲載した「MMT(現代貨幣理論)」と「防衛費を国債で賄う」内容を再掲載する。
吾輩は経済活動における債権・債務のために振出・引受・裏書された手形こそ企業間の信用創造(credit creation)の証ではないのかと、一般論の「銀行貸し出しが預金として滞留残金となり、その滞留残金がまた貸出の原資として使われるという」預金創造とは意見を異にする見解を持つ。
貨幣の三つの役割と手形の共通点、本来は手形に記載された受取人が、支払期日に現金を受け取れるという仕組みのものですが、裏書をして第三者に譲渡すれば、そのまま支払いに利用することも可能です。
これらの機能は、貨幣の三つの役割の
交換手段(medium exchange)、価値尺度 (standard of value)、価値の貯蔵手段 (store of value)に他ならない。
商品債権と手形債権の交換、同通貨単位(価値尺度)、支払期日まで(価値の貯蔵)であり、有価証券と言う名称の通りに、企業間においての債権債務が具現化(信用創造)した結果と考えることができる。
経済が活発化して有価証券が大量に流通して、それに伴う信用決済資金の需要が増すことで、今度は決済のための貨幣が必要になるのである。貨幣の役割に「信用決済手段」が増えて、「貨幣の四つの役割」に表現できるのである。
翻って日本のバブル崩壊後の低迷の根源は銀行の自己資本比率規制である。それ以外にも企業間でお互いに疑心暗鬼が生じて、企業間の信用取引(手形発行・裏書)の収縮をおこした。本来なら企業間の信用の仲立ちをするべき銀行がその役目を放棄して信用収縮した側面があるのである。近年、「電子記録債権」は「手形債券」のように流通することなく、信用創造の機能を果たせなくなっており、銀行の顧客の囲い込みの手段となり、新規顧客を包含できにくいシステムのように感じるのである。
日本経済は金融機関の自己資本比率の範疇内でしか経済成長できなくなっており、デフレの一つの原因でもある。日本の個人資産2000兆円のうち1000兆円は現預金であるといわれているが、銀行にいくら金が集まろうが、1000兆円の貸し出しの原資にはならないのである。銀行の自己資金比率で縛られており、銀行における信用創造は起きないのであるから、経済取引規模が膨らむことは起こりえないのである。バブル崩壊の失われた30年と言われる正体は信用創造を自己資本比率規制で箍をはめたためである。このような状態で経済成長させようとすることは無理であり、国債発行により現預金を市場にばらまく手段だけが、経済に活性化させる原資となり得ると考える。規制緩和せずに増税することは益々経済を委縮させることにない、国民は貧困の生活を強いられることになる。今考えられることは、防衛費を国債で賄いその資金が産業経済にばらまかれて国民の懐に潤いをあたえ、財布のひもを緩めることであろう。
皇紀2682年12月21日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
はじめに
報道記事の前に以前のブログを参考にしてください。
金融講座ⅴ3「現代貨幣理論(MMT)の詐術に騙されるな!」|tsukasa_tamura|note
政治(防衛・財政・金融)講座ⅴ670「防衛費の原資捻出の提言:領海の資源を担保に国債を発行(仮称資源開発債)」|tsukasa_tamura|note
金融講座v4「信用創造とは?銀行が日銀から借入するときは『担保適格手形』の差入れをする」|tsukasa_tamura|note
元銀行員の田村が解説「電子記録債権と手形債権の比較」 | Orange Law Office Blog Ò オレンジ法律事務所
以下は報道記事から
防衛費の財源を「増税」で賄うのは不可能なワケ 資本主義以前の「前近代的な発想」をやめる
中野 剛志 - 東洋経済
拡充される防衛費の財源を巡って、自由民主党内で議論が白熱している。
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(写真:Kiyoshi Ota/Bloomberg)© 東洋経済オンライン
例えば、西田昌司参議院議員は、財源は、国債の発行でよいと主張している。
これに対して、稲田朋美衆院議員は「防衛費の抜本的強化が必要だとすれば、それをすべて国債、また安定しない財源に頼るというのは非常に私は無責任だという考えです」と述べ、増税を容認している。
西田議員と稲田議員といずれが正しいのか、検証してみよう。
大勢順応的で閉鎖的かつ反知性的な姿勢
ちなみに、西田議員は、MMT(現代貨幣理論)の影響を受けていることで知られている。確かに、MMTによれば、政府支出を増やすのに増税は必要ではないということになる。
もっとも、「MMT」と聞いただけで眉をひそめ、耳をふさぐ経済学者や政治家があとを絶たない。
MMTが、主流派経済学から異端視されているのは事実である。しかし、MMTは、クナップ、ケインズ、シュンペーター、ラーナーらの議論を原型とし、数々の批判に耐えてきた強固な理論である。
主流派でなければ聴く耳すらもたないなどという、大勢順応的、閉鎖的かつ反知性的な姿勢は、実に恥ずべきものだ。
そんな態度では、この歴史的な大転換期にある厳しい世界を生き残ることは難しいだろう。実際、30年に及ぶ日本の停滞・衰退の根本原因は、この反知性的な姿勢にあると言っても過言ではないのである(参照『奇跡の社会科学』)。
しかも、政府支出を増やすのに増税は必要ではないとする理論は、MMTだけではないのである。
例えば、拙著『世界インフレと戦争』では、やはりシュンペーターを先駆とし、主に欧州大陸で発達した「貨幣循環理論(Monetary Circuit Theory)」をも参考にした。
以下、貨幣循環理論を簡単に紹介しておこう。
「貨幣とは何か」という根本論から考える
貨幣循環理論は、MMT同様、「貨幣とは何か」という根本論から出発する。
そもそも、貨幣とは「負債(借用書)の特殊な一形式」である。これが正しい貨幣概念であり、「信用貨幣論」と呼ばれている。
信用貨幣論によれば、民間銀行は、貨幣を創造することができる。すなわち、民間銀行は、貸し出しを行うことによって、預金(負債)という貨幣(預金通貨)を生み出すのである。これを「信用創造」と言う。
通俗的には、民間銀行は、企業や家計から預金を集めて、それを又貸ししているものと信じられているが、これは誤解である。実際には、民間銀行は、企業等に貸し出しを行うことで、預金という貨幣(預金通貨)を生み出している。
例えば、銀行Aは、1000万円を借りたいという企業Bに対して貸し出す際、単に企業Bの口座に1000万円と記録するだけだ。その瞬間に、1000万円という預金(貨幣)が「無から(ex nihilo)」生み出されるのである。
そして、企業Bが収益を得て、借りた1000万円を銀行Aに返済すると、1000万円という貨幣は消滅する。
このように、貨幣とは、民間銀行の貸し出しによって「創造」され、民間銀行への返済によって「破壊」されるのである。
「貨幣循環」は資本主義の基本原理
さて、貨幣は銀行の貸し出しによって「創造」されるのであるから、貨幣が創造されるためには、貸し出し先となる企業の資金需要を必要とする。
ということは、貨幣を創造するのは、究極的には、企業の需要であるということになる。
もちろん、貸し出し先の企業に返済能力がなければ、銀行は貸し出しを行えない。だから、銀行は厳格な与信審査を行う。だが、企業に返済能力がある限り、銀行は企業の需要に応じていつでも貸し出しを行う(貨幣を供給する)ことができるのだ。
まとめると、貨幣の創造の出発点には、企業の需要がある。
企業の需要があって、民間銀行が貸し出しを行うことで、貨幣が創造される。その貨幣が民間経済の中で使われて、循環する。最終的には、企業等が収入を得て貨幣を獲得し、銀行に債務の返済を行うことで消滅する。
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これが資本主義の基本原理とも言うべき「貨幣循環」である。
この貨幣循環の過程から、いくつか重要なことが確認できる。
① 銀行制度があるおかげで、企業は、収入を元手にしなくても、銀行が「無から」創造した貨幣を得て、支出を行うことができる。
② 貨幣とは負債であり、貸し出しによって創造され、返済によって破壊される。したがって、貨幣が流通するためには、債務を負う企業が存在していなければならない。もちろん、個々の企業にとっては、負債は返済すべきものであろう。しかし、経済全体で見れば、すべての企業が負債を完済すると、貨幣が消滅して経済が成り立たなくなってしまうのである。
信用貨幣論という正しい貨幣理解
さて、この資本主義における貨幣循環の仕組みは、政府に対する貸し出しに関しても、同じように作用する。
まずは、政府の需要がある。そして、中央銀行が政府に貸し出しを行う。ここで、貨幣が「創造」される。
政府は、創造された貨幣を支出し、民間部門に貨幣を供給する。そして、政府は、課税によって民間企業から貨幣を徴収し、それを中央銀行に返済すると、貨幣は「破壊」されるのである。
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このように、貨幣循環の過程は、貸し出し先が政府の場合も、企業の場合と基本的に同じである。
ただし、企業と政府とでは、大きな違いがある。企業に貸し出しを行うためには、その企業に返済能力がある必要がある。しかし、近代国家における政府は、強力な徴税権力を有しており、返済能力は確実にある。したがって、中央銀行は、政府の需要に応じていくらでも貨幣を創造し、供給することができる(日本銀行による国債の直接引き受けは原則禁止されているが、市中消化の場合でも、基本的な原理は同じである。『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』参照)。
ここから、やはり次の結論が導き出せる。
① 中央銀行制度があるおかげで、政府は、税収を元手にしなくても、中央銀行が「無から」創造した貨幣を得て、支出を行うことができる。
② 貨幣とは負債であり、貸し出しによって創造され、返済によって破壊される。すなわち、政府が国債を発行して債務を負うことは、貨幣の「創造」である。そして、政府が税収によって債務を返済することは、貨幣の「破壊」である。
以上が貨幣循環理論による説明であるが、ちなみに、MMTの場合は、政府と中央銀行を合わせて「統合政府」と理解したうえで、基本的に同様の説明をしている。
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いずれの理論も、信用貨幣論という正しい貨幣理解に基づいて、資本主義の基本原理を説明しているのである。
防衛費の安定財源は防衛需要
さて、この資本主義の基本原理を踏まえたうえで、昨今の防衛費をめぐる財源の議論を振り返ってみよう。
防衛支出の財源として、増税が検討されている。しかし、貨幣循環を理解していれば、防衛支出という政府の需要こそが財源、すなわち「貨幣を生み出す源泉」であることがわかるであろう。むしろ、税は、安定財源どころか、財源(貨幣を生み出す源泉)にすらなりえない。
防衛費の安定財源とは、防衛需要である!
資本主義の仕組みを理解していれば、これが結論になるのである。
銀行制度の存在しない資本主義以前の社会であれば、封建領主は、防衛支出の財源を確保するために、増税によって、人民のもつ財産を没収して防衛費に充てるしかなかったのかもしれない。
しかし、銀行制度が完備された資本主義においては、政府(と中央銀行)は、防衛支出という需要に応じて、新たに貨幣を創造することができるのである。
要するに、増税や歳出削減によって防衛費を確保しようとする考え方は、資本主義以前の前近代的な発想に基づいているということだ。
政治家の果たすべき最低限の責任
さて、稲田議員は、防衛費の財源を国債の発行に求めるのは無責任だと主張し、増税を容認した。
残念ながら、稲田議員の政治家としての責任感は、資本主義以前の、前近代的な封建領主のそれである。
まずは、資本主義や貨幣について正しく理解するのが、政治家の果たすべき最低限の責任というものだろう。
拙著『世界インフレと戦争』では、貨幣循環理論以外にも、インフレや戦争など、現下の危機に対処するうえで不可欠な理論をいくつも動員している。
前近代的な政治経済観を抱いたままで、この過酷な世界を生き残れるはずもないからである。
参考文献・参考資料
防衛費の財源を「増税」で賄うのは不可能なワケ 資本主義以前の「前近代的な発想」をやめる (msn.com)
金融講座ⅴ3「現代貨幣理論(MMT)の詐術に騙されるな!」|tsukasa_tamura|note
金融講座ⅴ2「貨幣の定義と貨幣価値(財産)を守るための方法」|tsukasa_tamura|note
元銀行員の田村が解説「電子記録債権と手形債権の比較」 | Orange Law Office Blog Ò オレンジ法律事務所
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