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政治(経済)講座ⅴ233「戦争の費用対効果からロシアの戦費を俯瞰」

今回も、ロシアのウクライナ侵攻について、孫子の兵法を引き合いに出す。
      皇紀2682年6月8日
      さいたま市桜区
      政治研究者 田村 司

はじめに 孫子の戦争観

孫子は戦争を極めて深刻なものであると捉えていた。それは「兵は国の大事にして、死生の地、存亡の地なり。察せざるべからず」(戦争は国家の大事であって、国民の生死、国家の存亡がかかっている。よく考えねばならない)と説くように、戦争という一事象の中だけで考察するのではなく、あくまで国家運営戦争との関係を俯瞰する政略・戦略を重視する姿勢から導き出されたものである。それは「国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ」、「百戦百勝は善の善なるものに非ず」といった言葉からもうかがえる。

また「兵は拙速なるを聞くも、いまだ巧久なるを睹ざるなり」(多少まずいやり方で短期決戦に出ることはあっても、長期戦に持ち込んで成功した例は知らない)ということばも、戦争長期化によって国家に与える経済的負担を憂慮するものである。この費用対効果的な発想も、国家と戦争の関係から発せられたものであると言えるだろう。孫子は、敵国を攻めた時は食料の輸送に莫大な費用がかかるから、食料は現地で調達すべきだとも言っている。

すなわち『孫子』が単なる兵法解説書の地位を脱し、今日まで普遍的な価値を有し続けているのは、目先の戦闘に勝利することに終始せず、こうした国家との関係から戦争を論ずる書の性格によるといえる。



ここにきて「プーチンの自滅」が現実味を帯びてきた…ロシア「一日3兆円の戦費」の衝撃中身【2022年上半期ベスト記事】

週刊現代 2022/06/08 05:0

2022年上半期、現代ビジネスで反響の大きかったベスト記事をご紹介! 以下は、4月11日公開<ここにきて「プーチンの自滅」が現実味を帯びてきた…ロシア「一日3兆円の戦費」の衝撃中身>の再掲載です。

戦争には膨大なカネがかかるが、具体的に何に使われているのか即答できる人は少ない。その明細を調べてみると、ロシアはウクライナを攻めているだけでなく、自らの首も締めているのがよくわかる。

国家予算は35兆円なのに

ウクライナ情勢は泥沼化の様相を呈している。そして、苦戦続きのロシアが「自滅」するというシナリオも現実味を帯びてきた。

3月上旬には英国の調査研究機関「CIVITTA」が、ロシア軍の戦費に関して「一日あたり200億〜250億ドル」に上るという試算を出した。これは日本円にして約3兆円だ。

ロシア連邦上院が昨年末に可決した連邦予算案によると、今年の歳出は23兆6942億ルーブル(約35兆円)。侵攻から早6週間が経つが、すでに国家予算の3倍以上のカネがかかっていることになる。
3兆円という試算は、兵士の日給や兵器の損耗など直接戦地でかかる費用だけではない。西側諸国からの経済制裁や貿易制限などによって生じる経済損失も含まれている。
ただ、ウクライナ侵攻に失敗しつつあるロシアが膨大な損害を出していることも間違いない。具体的に、何を失ったのか。今回の侵攻でロシアは、どれだけの兵力を割き、どんな兵器を使っているか公表していないが、専門家に協力を仰いで様々なデータを使い検証した。

米国防総省は、偵察衛星などを駆使して情報を収集し、ロシア軍がウクライナ国境付近に約19万人の兵力を集結させたと推測している。

地上作戦を実施するロシア陸軍は、空挺部隊と合わせて32万5000人いる(『TheMilitaryBalance2022』)。つまり、総兵力の約60%をウクライナに投入したことになる。ここでは兵器も同様に60%が投入されていると仮定しよう。まず、戦車について解説するのは、物理学者で日本有数の旧ソ連およびロシアの兵器研究家として知られる多田将氏だ。

「ロシア陸軍は現在2900両の戦車を運用しています。その中でもウクライナ侵攻で主力になったのは『T−72』と『T−80』、『T−90』の3系統です。

『T−72』は'73年に制式採用された古い戦車で、一両約8000万円。より高性能の『T−80』は、世界初のフルガスタービン戦車として知られていて、値段は約2億円。『T−72』を改良して作られ、'92年から制式採用された『T−90』の値段は約4億円です」
ニュースなどで報じられたように、4億円もする戦車が米国製対戦車ミサイル「ジャベリン」で次々と破壊されてしまう。ちなみに、「ジャベリン」一発あたりの値段は約1000万円だ。

ウクライナ軍が3月31日に行った発表によると、破壊した戦車の数は614両。2900両の6割である1740両が投入されたとすれば、ロシア軍はその約35%を損失したことになる。3系統の保有比率から計算した損失額は、「T−72」が約351億円、「T−80」が約196億円「T−90」が約312億円合計約859億円となる。

燃費だけで1900億円

「車内に歩兵を乗せられる歩兵戦闘車で主力になっているのは、火力重視の『BMP−2』で、納入された時期によって変動はありますが、約1億円です」(多田氏)

ロシア軍が運用する4900両のうち、6割の2940両が出動したと仮定する。戦車と同程度の比率で歩兵戦闘車「BMP−2」も破壊されたとすれば、損失額は約1029億円だ

戦場では、戦車や歩兵戦闘車だけでは戦えない。歩兵を大量に運ぶための装甲兵員輸送車や、空からの攻撃に対処するための対空戦闘車両もいる。それ以外にも弾薬運搬車や食事を作る野戦炊事車に食料運搬車、兵員の服を洗濯する車両、移動司令部となる指揮通信車なども帯同する。

こうした部隊も被害に遭うことを想定すると、約116億1300万円かかる。

当然、それだけの車両を動かすには燃費も膨大だ。戦車100両他の師団が1000km走行すると考えた場合、最低でも約75万Lの軽油が必要とされている。現在の日本における軽油価格で換算すると、ウクライナ侵攻にかかっている燃費は約1936億6200万円だ。

ウクライナ軍は、侵入してくるロシア空軍に対して一定の対空砲火網を敷いているため、ロシア軍は厳密な標的を定めない遠距離砲撃を多用している。

こうした遠距離砲撃をするためには火砲(大砲)や多連装ロケット砲が使われる。火砲は、自走可能な「自走砲」や大型トラックに引かれる「牽引砲」、軽量で大きな破壊力を持つ「重迫撃砲」の3つに分けられる

多連装ロケット砲とは、複数のロケット弾を一斉発射することを目的としたロケット砲だ。

今回の侵攻でロシア軍が使った燃料気化爆弾は、「TOS−1」という多連装ロケット砲によって発射された。一両あたりの値段は、約7億4000万円。ロシアが保有するロケット砲の6割が戦地で使われ、戦車と同程度の比率で破壊されていたら最大約1325億円の損害だ。

当然だが、戦車や火砲、ロケット砲で使われる弾薬にもカネはかかる。

後編記事『プーチン、ついに“自滅”か…戦費「3兆円」ムダ遣いで、これからロシアが辿る「壮絶な末路」』でその具体的な内訳を明かそう。

『週刊現代』2022年4月16日号より

徴集兵の月給は3000円

東京大学先端科学技術研究センター専任講師で、ロシアの軍事・安全保障政策を専門とする小泉悠氏はこう解説する。

「かつて行われたロシア軍の大演習では、1週間で10万トンの弾薬を使用しています。ちなみにこの消費量は、自衛隊の備蓄弾薬(推定11万トン)に匹敵します。

ロシア軍が、ウクライナ侵攻を演習レベルで行っているとすれば、1週間で10万〜20万トン使っていても不思議ではありません」
15年に陸上自衛隊が行った「富士総合火力演習」では、3億7000万円相当弾薬35・6トンが費やされたと記録されている。

この数字を参考にして、ロシア軍が週に10万トンの弾薬を使ったと仮定してみよう。あくまで単純計算ではあるが、3月末までに約5兆3421億5625万円もの弾薬費をかけたと考えてもおかしくはない。

3月下旬には、ロシアがウクライナ領内に対人地雷を仕掛けていることも明らかになった。その名を「POM−3」という。直径約6〜7cm、高さ約20cmの金属製のシリンダーで、空中から散布して設置できる。地雷内部にある電子機器が周辺の振動を検知し、確実に人だけを狙って殺傷する。

仮に、現在までウクライナ領内に10万個ほど設置されているとすれば、総額約3億円だ。

次に、ロシア軍の兵士にかかるカネも見てみよう。まず人件費だ。EU圏のニュースサイトによると、正規兵の月給は約9万円、徴集された兵士の月給は約3000円だと報じられている。総兵力のうち約7割が正規兵だと言われているので、3月末までにかかった人件費は約145億6920万円となる。

食糧費も忘れてはならない。陸上自衛隊の食費と同じ一日あたり約900円であると仮定したら、食糧だけで約61億5600万円もかかる。

そして、何より大切なのが兵站だ。

実業之日本フォーラム編集委員で元海上自衛隊情報業務群司令の末次富美雄氏はこう語る。

燃料など物資の補給や食糧などの配給、整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持など後方支援すべてを指します。

正確な金額を把握することは不可能ですが、'03年のイラク戦争が参考になります。当時の戦費を確認すると、人件費を4倍にしたら、兵站にかかる経費に近くなるんです」

そうなると兵站には約582億7680万円かかるという計算になる。
ウクライナ侵攻では陸軍が目立っているが、戦闘機などを扱うロシア航空宇宙軍も戦費を垂れ流していると言っていい。
たとえば、最新鋭戦闘機「Su−35」一機約122億7600万円もする。現在、ロシア軍の主力とされている「Su−30」の価格は約45億9700万円、「Su−34」は約44億1300万円とおしなべて高い。そして、そのすべての機種がウクライナ軍によって撃墜されたことが確認されている。

また、主力の戦闘ヘリコプターも、「Ka−52」は約42億9100万円、「Mi−28」は19億6000万円する。

戦闘機や戦闘ヘリコプターは飛行するだけでも整備費や燃料費など飛行コストがかかる。たとえば、「Su−34」と同程度の性能を持つとされている米戦闘機「F−15E」の一時間あたりの飛行コストは約242万円だ。

命もカネも溶けていく

ロシアの戦費増大の一因となっているのが、高額な最新兵器の投入だ。特に有名なのは極超音速ミサイル「キンジャール」だろう。3月20日、ロシア国防省は「キンジャール」を使ってウクライナ軍の燃料貯蔵基地を爆撃したと発表している。

英紙「ザ・サン」によると、キンジャール一発あたりの値段は約7億2300万円と推定されている。ロシアの調査報道専門メディア「インサイダー」は、プーチン大統領はロシア軍が高価な長距離精密誘導弾8発を一日に撃ち込んだことに激怒したと報じている。それほど懐を痛める兵器というわけだ。

上に、ロシア軍の戦費をまとめた表があるので確認してほしい。どれだけの金額がウクライナで溶けているのかが一目瞭然だ。
合計金額が6兆7704億の投入額となる。これで効果は得たか。長期戦になると投入金額が膨れ上がっていくのである。

今この瞬間も、兵士や民間人の命が失われている。ロシア兵がキーウ周辺で大量虐殺を行ったというニュースまで報じられるようになった。これに加え、ロシア経済にダメージを与えるレベルの金銭的無駄遣いも続けられているのだ。戦争では命もカネも、かくも無残に消費されていく
この真理に、プーチン大統領はいつ気づくのか

『週刊現代』2022年4月16日号より



参考資料・参考文献

ここにきて「プーチンの自滅」が現実味を帯びてきた…ロシア「一日3兆円の戦費」の衝撃中身【2022年上半期ベスト記事】 (msn.com)

ロシア機、日本領空に向け直進 防衛省、異例行動と警戒 (msn.com)

ロシア前大統領「彼らを消滅させるため何でもする」とSNS投稿…「彼らが憎いから」 (msn.com)

プーチン、ついに“自滅”か…戦費「3兆円」ムダ遣いで、これからロシアが辿る「壮絶な末路」【2022年ベスト記事】(週刊現代) | マネー現代 | 講談社 (ismedia.jp)

政治講座v209「孫子の兵法と日露戦争から見るロシアのウクライナ侵攻の結末」|tsukasa_tamura|note

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