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政治(経済)講座ⅴ1518「中国に代わる対米輸出拠点として、ベトナムへシフト加速」

中国から脱出してベトナムに拠点・進出する企業がここ数年増えている。ウォルマートも仕入れの拠点をベトナムへシフトしているという情報が中国市場の衰退を示唆する出来事と噂されている。今回はそのベトナムに焦点を当てた報道記事を紹介する。

     皇紀2683年11月28日
     さいたま市桜区
     政治研究者 田村 司

はじめに

ベトナムの貿易構造と持続的成長に向けた課題 (mitsui.com)
この参考文献・記事から抜粋解説する。

ベトナムの貿易構造と持続的成長に向けた課題 (2023)

要点(Summary)

⚫ ベトナムは輸出志向型工業化のもと、外需主導で高い経済成長率を維持してきた。縫製業などの低付加 価値製品を主としていた輸出品目は、近年スマートフォンなどへと高付加価値化が進む。
⚫ 2009年以降、サムスン電子などエレクトロニクス産業を中心にベトナムへの生産移管が増え、中国から 中間財を輸入し、米国に輸出する貿易構造ができた。この流れは米中対立により、2010年代後半に加速 した。
⚫ 今後の持続的な成長に向けて、電力供給の安定化とともに、特定の輸出品目に依存する貿易構造のリス ク分散を図ることが課題である。 ベトナムの経済成長は、工業化と輸出主導の貿易構造によって支えられてきた。しかし、輸出に依存し た経済成長は、世界経済の冷え込みなど外部環境による影響を受けやすい。

1.ベトナムの経済成長と戦略 ベトナム経済は1986年のドイモイ(刷新)政策のもとでの「社会主義的市場経済」への移行を起点とし、
1990年代から農業や消費財の生産などの工業化・近代化を推進しつつ成長してきた。
2009年に韓国サムス ン電子がベトナム北部で最初の携帯電話製造工場を稼働させて以降、外資系企業の生産移管が続き、2012 年に貿易黒字に転じた。
2018年以降本格化した米中対立のもと、米国の対中制裁にともない、外 資系企業による中国からベトナムへの生産拠点のシフトが加速し、中国に代わる対米輸出拠点として発展 した。工業製品の輸出と外資企業の誘致が進み、近年、外国投資セクターが輸出の約7割を担う。
ベトナムは、2019年まで前年比6%前後の高いGDP成長率を維持してきた。2020年以降の新型コロナの感 染拡大により一時的に同2%台に低下したものの、行動規制が緩和された2022年はV字回復を遂げ、同8.0% とアジアの中でも高い成長を誇った。しかし、2023年のGDP成長率は目標値である6.5%よりも低くなるこ とが予想されている。

1-1.経済連携協定の動向
ベトナムは2001年に米国と通商協定を発効した。同国との自由貿易協定(FTA)は締結していないが、現在各国・地域と二国間協定や包括的経済連携協定を締結している。
近年では、脱炭素関連の 規制が厳しいEUや英国とのFTAを通じ、ベトナム国内に、国際的なルールに基づいた質の高い生産を根付か せ、国際競争力向上を狙っている
EUや英国への主要輸出品目は、スマートフォンを含むエレクトロニク ス製品、コーヒー、縫製品や履物、家具などである。これらの輸出品に関して、製造から物流までのサプ ライチェーンの各ステップにおいて、求められる厳しい環境基準に適合できるよう国内法を整備するとい う。
さらに今後、これらの環境規制を導入する他国へも対応できるように準備する構えだ。

1-2. 第13回党大会で掲げた2025年までの成長戦略
ベトナムでは5年ごとに過去の政策実施評価と今後5年の政策方針を決める党大会において国家の成長戦 略が示される。2021年の第13回党大会では、2030年までに「近代的工業を有する上位中所得国」、「2045 年までに高所得の先進国」を目指すという中・長期目標が掲げられた。
2021年から2025年までの5年間の GDP成長率の目標は平均6.5~7.0%に設定しており、
高いGDP成長率を維持しなければ、2045年までにベト ナムの目指す「高所得の先進国」になれないとする政府の認識が反映されている。

ベトナムに生産移転の動き、中国からのシフトが加速

 新型コロナウイルスを巡る米中対立の激化で「中国リスク」が改めてクローズアップされる中、海外大手メーカーの間でベトナムに生産移転する動きが相次いでいる
米国の対中制裁によって、自社製品・部品の中国生産が難航する可能性を見越した措置だ。
その動きは、5月に入り一段と顕在化。以下、代表的な2事例を弊社ニュースからピックアップしてみる。
デジタル技術への期待に加え、「環境に配慮したハイテク工業の発展」が示された。
ベトナムは、高付加 価値産業の拡充により、輸出主導型工業化の高度化を目指す

2.ベトナムの貿易構造
2-1.ベトナムの輸出入動向
ベトナムは、「社会主義的市場経済」により、政府が電力、通信、交通の国有化を維持しつつ、国営企 業と外資系企業の合弁会社設立を促した
2007年のWTO加盟や、各国・地域とのFTAの締結等も経て、さらなる 外資系企業の参入は、技術移転と生産性の向上につながった。
当初、ベトナムの輸出品目は縫製業を中心と した低付加価値製品が主流であったが、スマートフォンなどの電子機器のベトナムへの生産移管を背景に、高付 加価値化が進みつつある
米中対立による制裁を直接受けない状況も移管を後押し、輸出額も対米国を中心 に2022年まで増加している。
ベトナムのGDPに占める輸出依存度は2021年時点で93.3%と高い。
ま た、エレクトロニクス産業などで使用する原材料は、中国、韓国、日本などから調達していることから輸 入額も増加傾向にある。
 韓国からの輸入が右肩上がりであるのは、サムスン電子やLGのスマートフォン生産工場がベトナ ムに誘致され、中間財の輸入が増加したことが背景にある。
特に、サムスン電子がベトナムの輸出入に与 える影響は大きい。2016年にサムスン電子傘下で稼働するベトナム法人が4社に増え、ベトナムのサムスン 電子の売上高総額は近年、ベトナムの全輸出額の2割程度の値で推移している。
このように輸出入におけるスマートフォン関連の割合は高く、ベトナムの経済状況は特定の産業動向に 左右されやすいといえる。
2022年上半期はコロナ感染対策規制の緩和による需要回復により、輸出入が過 去最高額を記録したものの、下半期は世界的なインフレによる経済減速などが影響し、外需が低迷し、輸 出入の伸びが鈍化したが、「電話機・同部品」の輸入額も2021年7月以降激減している。
2021年 4月に韓国LGが同年7月末をもってスマートフォン事業から撤退することを発表し、ベトナムにおいてもス マートフォン生産が終了携帯部品や他の家電の生産に転換した影響が出たと考えられる。また、スマー トフォン全体の出荷台数が世界的に減少するなかで、サムスン電子は、伝染病などの制御不能な外的要因に対する事業リスク分散を理由に、ベトナムでの生産を縮小するとしている。 2-2. 品目別に見たた対米輸出 ベトナムは最大輸出相手国である米国とは、2001 年に通商協定を発効し、2007年にベトナムがWTOに 加盟したことにより最恵国待遇を付与された。
主 要な輸出品目は繊維、靴、エレクトロニクス産業 で、2018年以降はスマートフォンの輸出増を背景に 「電話機・同部品」の輸出額の伸びが目立つ
ベトナムの貿易は米国経済に左右される傾向 もあり、2023年は米国の景気後退が見通され、対米 輸出への影響が懸念される。

2-3. 品目別に見た対中輸入
ベトナムの最大輸入相手国である中国とは、ASEAN 中国自由貿易協定により2015年から関税が撤廃され たことで、輸出入が拡大した。韓国サムスン電子や 米国アップルなどのエレクトロニクス産業の製造拠 点がベトナム北部に移転したことも、中国からの 「電話機・同部品」の中間財の輸入増加につながっ た。
資源国ではないベトナムにとって原材 料の調達必須であり、さらに、製造業の裾野産業 が育っていないため、中国から原材料を輸入しない という選択肢は現実的ではない。

2-4. 注視すべきリスクとしての電力不足問題

ベトナムでは2023年5月下旬ごろから深刻な電力不足が報じられている。スマートフォン製造工場が多く 集まるベトナム北部は水力発電が主流であるが、電力需要が増えるなか、エルニーニョ現象による猛暑と 降水量の減少でダムの水位が低下し、6月初旬には計画停電を実施する事態に陥った。
北部の製造業では1 日おきや数日おきの停電を余儀なくされ、生産調整などに追われた。この問題を早期に解決できなければ、ベトナムに拠点を置く外資系企業が他国へ流出する可能性を高め、同国の製造業が縮小すれば、貿易構造、 経済成長にも大きな影響を与え得る。
「第8次国家電力基本計画(PDP8)」が当初の予定の2年遅れで5月に 承認されたが、計画に盛り込まれた自国生産の天然ガスを利用したガス発電等が進まなければ、抜本的な 問題解決につながらない。
電力不足問題は同国の長期的なリスクとして注視する必要があると考える。

3.まとめ
ベトナムでは、2045年までに「高所得の先進国」を目指して高いGDP成長率を設定し、貿易協定の拡大を 経て、高付加価値産業への移行を目指す。
近年、米国の対中経済制裁によるリスク回避等を理由に、外資 系企業の中国からベトナムへの生産移管が行われ、エレクトロニクス産業を中心に高付加価値産業の成長 が目立った。対米輸出では「電話機・部品」の増加が著しく、機械類とともに、ベトナムの経済成長の鍵 となっていた。
しかし、ここまで見てきたようにスマートフォンといった特定の品目に依存する貿易構造はリスクが大 きい。サムスン電子やLGのスマートフォン生産の事例に見られたとおり、個社の戦略変更により国全体の 輸出入が大きく影響を受ける。こうした状況を回避し、今後の経済成長を持続的なものにするためには特 定の輸出品目に依存する貿易構造のリスク分散を図ることが求められる。
また、電力不足問題も大きな課 題であり、緩和に向けては国産天然ガスの産出等が重要な位置付けにある。課題解決への対応が急がれる。

ウォルマートが中国から撤退 止まらぬサプライチェーンの脱中国 

夏松

2023/11/20 更新: 2023/11/21

最近、米小売大手ウォルマート中国から撤退し、調達センターをベトナムに移したという情報が広がっており、激しい議論が繰り広げられている。

11月17日、中国の投資ブロガー、トレーダー(金融機関に所属して証券の売買を仲介する職種)である「金融小狐狸(金融きつねちゃん)」は「重要なシグナル。ウォルマートは中国から撤退し、調達拠点をベトナムに移す。世界有数の資産運用会社であるブラックロックバンガード・グループに続き、ウォルマート別れを選んだ」と投稿した。

〈事例1〉アップルがベトナムで
ヘッドホン新製品を生産か、中台以外で初

 米アップルが6月の世界開発者会議(WWDC)で発表するとみられる新製品のオーバーイヤーヘッドホンは、名称が「エアーポッズ・スタジオ(AirPods Studio)」となり、中国メーカーの立訊精密工業(ラックスシェア・プレシジョン)と歌爾声学(ゴアテック)がベトナムで組立生産を行う模様だ。アップルの新製品は従来、最初は中国か台湾で生産され、普及後に他国にも移転されるパターンだったが、最初からベトナムで生産されるのは初のケースとなる見通し。5月21日に台湾・経済日報が有料メディア「ジ・インフォメーション」の報道を基に報じた。

 ラックスシェアはベトナム北部バクザン省に生産拠点を持ち、昨年7月に北中部ゲアン省への、今年2月には台湾メーカーとの合弁で南部ビンズオン省への進出も発表している。一方、ゴアテックは北部バクニン省に工場を構える。

 新製品の生産が全て中国メーカーに委託されるのも初めてとなる。証券会社は、中国企業は受託価格が低いため生産コストを抑制でき、ベトナム生産中国から東南アジアに生産拠点を分散したいアップルの意向に合致していると指摘した。
 なお、中国2社は中国の工場でも同製品の生産を行う模様だ。現時点ではベトナムと中国の生産比率は明らかになっていない。 (「亜州ビジネスASEAN」5/21付ニュース)


〈事例2〉スマホレンズの供給大幅増、
中国から移転進む

 スマートフォン用カメラレンズ世界最大手の台湾・大立光電(ラーガン・プレシジョン)が、2020年第1四半期の財務報告書に初めてベトナムの国別売上比率を掲載した。ベトナムの割合は前年同期の5.0%から11.8%へ6.8ポイント増加した一方、中国69.4%から61.0%へ8.4ポイント減少しており、ベトナムへのスマホサプライチェーンの移転を反映している。5月13日付台湾・経済日報が報じた。

 ベトナムは韓国サムスン電子の重要なスマホ生産拠点で、米アップルは「iPhone(アイフォーン)」の組み立てを中国で行っているが、レンズの川下モジュールメーカーはベトナムにも工場を設けている。ベトナムでのレンズモジュールの生産拡大は、米中貿易戦争中国での新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたものとみられる。

 アイフォーンや「iPad(アイパッド)」へのレンズ供給でラーガンに次ぐ台湾・玉晶光電(GSEO)も、2018年から19年にかけて中国での売上比率が81.2%から57.7%に23.5ポイント下落した一方、ベトナムは0.01%から4.8%に急拡大しており、レンズメーカーがベトナムのモジュール生産拠点に供給を拡大する動きを裏付けている。(「亜州ビジネスASEAN」5/13付ニュース)

成長が期待されるベトナム

 電子部品工場の移転に関しては、大まかに「ハイエンドが台湾、ロー・ミドルエンドがベトナム」という流れにある。もちろん、電子部品以外の業界でもベトナムへの工場移転の動きは顕著だ。

 アジアの新たな生産拠点として存在感を高めるベトナムは、相対的に底堅い成長を維持すると思われる。実際、直近の政府見通しは他のASEAN諸国を大きく上回る水準。ベトナムのグエン・チー・ズン計画投資相は5月20日、今年の国内総生産(GDP)成長率目標を従来の6.8%から一定の幅で下方修正したものの(コロナが比較的早い時期に収束するシナリオ1では4.4~5.2%、収束が後ずれするシナリオ2では3.6~4.4%)、それでもタイ(マイナス5.0〜6.0%)やシンガポール(マイナス1~4%)などの政府予想と比べた場合はかなりの健闘ぶりだ。

作成:亜州リサーチ、出典:ベトナム統計局


 新型コロナ禍で各国が苦戦を強いられる中にあって、ベトナムは「負け比べ」の勝者ということができよう。

(亜州リサーチASEAN編集部)

ウォルマートやアマゾン、ベトナムのサプライヤーとの連携強化を模索

2023年09月14日(木)10時09分 公開

<写真:VnExpress>

ボーイング社やウォルマート、アマゾンをはじめとする外資系企業は、商工省が主催する一連のイベントでベトナムのサプライヤーとの緊密な連携を模索している。

エネルギー会社AES、小売業者Carrefour、イオン、スポーツ用品小売業者Decathlon、家具メーカーIKEA、アパレルメーカーユニクロ、タイの小売最大手セントラルグループの代表者らは、ホーチミン市で開催されたExport Forum 2023に参加した。
セントラル・リテール・ベトナムでCEOを務めるオリバー・ラングレット氏は、国内製造業が過去30年にわたって持続的に成長しており、その結果として多様で高品質の製品と効率的な労働力が生まれていると述べた。
Decathlon VietnamのCEOであるライオネル・アデノット氏によると、ベトナムはグローバルサプライチェーンの中で一層重要な役割を果たす可能性がある。
また、アデノット氏は企業が早急に計画を策定することの重要性を強調し、その中で環境への配慮国内原材料の優先利用を提案している。
一方、商工省のドー・タン・ハイ副大臣は、30を超える国や地域からの参加がベトナムのグローバルサプライチェーンへの位置づけを向上させるであろうと語った。
今年1〜8月にベトナムの貿易額は4350億ドル(約64兆237億円)に達し、貿易黒字は200億ドル(約2兆9436億円)を突破した。

参考文献・参考資料

ベトナムに生産移転の動き、中国からのシフトが加速 | AsiaX

ウォルマートやアマゾン、ベトナムのサプライヤーとの連携強化を模索|ポステ (poste-vn.com)

ベトナムの貿易構造と持続的成長に向けた課題 (mitsui.com)

ウォルマート - Wikipedia

ウォルマートが中国から撤退 止まらぬサプライチェーンの脱中国  | 中国経済 | 脱中国化 | 大紀元 エポックタイムズ (epochtimes.jp)

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