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政治(兼法律)講座ⅴ227「4630万円誤給付と賭博の違法性と不法行為(民709条)」

表題の誤振込または誤給付の報道記事を読み、そこから報道されない部分は勝手に想像を膨らませ探偵気取りと法学者気取りで解説する。

             皇紀2682年6月3日
             さいたま市桜区
             政治・法律研究者 田村 司

はじめに

落語の噺に占有と所有を混乱させる内容の話があることを思い出した。
その噺(はなし)は、『壺算(つぼざん)』という噺である。

壺(壱拾圓)を買いに行って持ち帰ったが小さすぎて倍の量の入る大壺(弐拾圓)が必要となり、最初の壺を返して大きい壺にかえるときの会話です。

この壺(壱拾圓相当)と先ほど渡した私の壱拾圓札とで合計弐拾圓になるのでその倍の大壺(弐拾圓相当)をくれ」。
一瞬、納得してしまう噺(はなし)。

1,窃盗罪で保護されている法益(占有の侵害)

法益は個人の私的財産である。
これは、物の占有と所有を順序立てて考えると前述の噺の矛盾は分かる。
流通する通貨は誰の所有物かは、占有(所持)という外観を持つことで所有権の主張が出来るのである。占有(所持)という事実が所有を証明することになる。通貨は流通するが故に占有(所持)が唯一の立証手段である。
報道記事で理解しにくい部分がこの占有と所有についてであろう。そして、誤振込された預金は準占有である。無職○○○容疑者(24)の預金は○○〇(24)の準占有として権利(私的財産)が保障されている。ただし裁判で決着が付くまでは、保護法益として守られる対象であるのである。そこがこの事件の解決を難しくしている理由である。以前の掲載ブログ参照のこと。
やさしい法律講座ⅴ5 副題 物の占有と所有|tsukasa_tamura|note
やさしい法律講座ⅴ37 副題 他人の占有物等に係る自己の財物(刑242条)の保護法益|tsukasa_tamura|note
やさしい法律(兼金融)講座v49「事例研究(4630万円誤振込事件分析)」|tsukasa_tamura|note

2,電子計算機使用詐欺罪は構成要件の欠缺

今回の電子計算機使用詐欺容疑で逮捕された無職○○○容疑者(24)について、行為の内容が構成要件に該当する要素を欠いているようにしか思えないのである。自己の準占有下における預金は「不実の電磁的記録」ではなく、「実存する通貨の電磁的記録」であり、準占有の預金は不実の電磁的記録の結果ではなく、誤振込(誤給付)によって発生した預金債券として、実存するのである。誤振込(誤給付)不当利得であるが、不法領得の意思がないので窃盗罪の構成要件該当性の要素に欠けるのである。

電子計算機使用詐欺罪とは、財産権の得喪・変更に係る不実の電磁的記録を作る等の手段により、財産上不法の利益を得ることを内容とする犯罪類型。刑法246条の2に規定されている。
(電子計算機使用詐欺)
第二百四十六条の二
 前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

不実の電磁的記録の作出(前段)人の事務処理に使用する電子計算機(コンピュータ)に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて、財産権の得喪・変更に係る不実の電磁的記録を作る行為

電磁的記録の供用(後段)財産権の得喪・変更に係る虚偽の電磁的記録人の事務処理の用に供する行為、すなわち、内容が虚偽の電磁的記録他人のコンピュータで使用する行為である。

3,賭博罪の種類と成立要件

第二十三章 賭と博及び富くじに関する罪(賭と博)
第百八十五条
 賭と博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない。
(常習賭博及び賭博場開張等図利)
第百八十六条
 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。
 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

(1) 単純賭博罪

刑法185条は、「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。」と規定しており、単純賭博罪に懲役刑はありません。

また、同じく刑法185条は「ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」と規定しており、この場合には処罰されません。

「一時の娯楽に供する物」とは、軽微な価値しかない物を指すといわれています。
そのため、例えば、その場で飲食するお菓子・ジュースを賭けるような場合には、処罰されません。

(2) 常習賭博罪

刑法186条1項は、「常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。」と規定しており、単純賭博罪とは異なり、常習賭博罪の場合は懲役刑が科されます。

判例は、常習的に賭博をしたかどうかは、賭博行為の種類、賭けた金額等を総合して客観的に判断するとしています。

(3) 賭博開帳罪

刑法186条2項は、「賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。」と規定しています。

この「賭博を開張し」とは、要するに、現代でいえば闇カジノを運営した場合を指し、この場合には3か月以上5年以下の懲役刑が科されることになります。

4.賭博の適法化とカジノ法(IR法)

(1) 公営ギャンブルは適法

パチンコ・競馬・競輪・競艇等のギャンブルは、特別法(風営法・競馬法・自転車競技法・モーターボート競走法)により適法化されています。これは、ギャンブルが公営であるから、あるいは、運営にあたって厳しい法規制がなされているため、とされています。

(2) カジノ法(IR法)

ここで、2018年7月に成立(法案全体の施行は3年以内)したカジノ法について説明します。この法律は①観光産業・地域経済の活性化②国の財政改善を目的としています。カジノ法(IR法)というのは本名ではなく、実際は「特定複合観光施設区域整備法」といいます。IRはintegrated resortの略、つまり、統合型リゾートを言います。

ここからわかるように、カジノ法はカジノを一般的に解禁することではなく、統合型リゾートにカジノを設置することを認めた法律です。

カジノ法(以下、法)の特徴、として

  • カジノ収入の30%を国、認定都道府県等に納付(法192条等)

  • 依存防止のための入場規制:7日間で3回、28日間で10回まで(法69条等)

  • 本人確認に個人番号カード(マイナンバーカード)を使用(法70条)

  • 全国で3か所まで(法9条11項7号)があげられます。

5,教唆罪の可能性

悪知恵を伝授した教唆罪(刑法61条)に該当する人物の存在も推測される。資金を逃避させる手段として、賭博で財産を消失させるというストーリは通常の素人には思いつかない芸当である。誰かがそそのかすなどの教唆があったとも考えられる。今後の捜査を期待する。

刑法第61条
1、人を教唆して犯罪を実行させた者
には、正犯の刑を科する。
2,教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。

6,コンピュータを不正操作で誤振込(誤給付)した場合、横領罪または電子計算機使用詐欺罪の構成要件該当性あり。

 蛇足・・・色々な会社の経理担当者の横領事件や銀行員の横領事件の横領金の使途は「ほとんどの場合はギャンブル依存症の結果、ギャンブルで使い果たしているケースが多い。」と言われる。ギャンブル依存症の原因として、脳内物質のエンドルフィン・ドパーミン・セロトニン・エンドルフィン・モルヒネなどのような研究も進められている。
ひったくりなどの強盗事件の場合は正当防衛としての反撃が自力救済として許されるが、盗難事件で占有を失った自己所有物を後日、犯人を見つけて、力ずくで盗品を回収する事は許されない。法に則って、訴えて、裁判で勝ち、判決を債務名義として強制執行してもらい、そこで、はじめて自分の占有となり、占有は所有権を証明する手段となるのである。これが法治国家なのである。占有が優先されるのである。今回は以前の占有と所有の解説と違う観点から事件の推測を述べた。

7,資金移動の法律関係

銀行振込依頼 人受取人の間の資金移動仲介者として振込依頼書等によって依頼された振 込事務を依頼どおりに処理するだけであり,振込依頼人は受取人への送金手段 として銀行を利用するにすぎない。
まさに銀行は資金移動の仲介者であり,振 込は資金移動のための手段であるといえる。さらに,取引の抽象性という特徴 もある。
振込取引は依頼人の振込依頼によって開始されるが,振込依頼書への 記入事項や振込機への入力事項は振込事務の処理に必要な事項のみであり,振 込依頼人が振込を利用して,送金するに至った原因について銀行は全く関与し ない仕組みになっており,その原因関係から切断された抽象的な取引である。

8,預金契約の法的性質

金融機関にお金を預ける契約(預金契約)の法的性質は「消費寄託契約」であるとされています。
消費寄託契約とは、金銭などの代替物(同種の他のもので代替できるもの)を預ける契約で、預かった人(銀行)はその金銭を自由に使用(消費)してよく、預けた人の請求があれば、同種のほかのものをもって返還すればよいとされている契約のことです。
消費寄託契約は、「要物契約」であるとされています。
要物契約とは、現金を現実に銀行に持って行き、銀行がこれを受領することによって成立する契約である。つまり、預ける「」を必ず持って行く「必」があるから、要物契約と言われているのです。
これは預金者銀行との法律関係である。
振込金が〇〇〇容疑者(24)の口座に入金された時点で「要物」の条件を満たし預金契約は成立する。この時点で準占有として保護されることになる。

ここに別な権利を主張する第三者が現れた場合は、預金者は準占有としての権利を対外的に主張できることになる。その預金が仮に不当利得であっても、その第三者は自力救済(力ずくで奪う)ことはできない
法的な手段を取らざるを得ないのである。

そして、電子計算機使用詐欺容疑で逮捕された無職○○○容疑者(24)が縦しんば不当利得であっても準占有として保護される。

さて、不当利得とは、契約などのような法律上の原因がないにもかかわらず、本来利益が帰属すべき者の損失と対応する形で利益を受けること(利得すること)、またはその受けた利益(利得)そのもののこと。またはそのような利益が本来は帰属すべきだった者に対して自身が得た利益(利得)を返還させる法理あるいは制度(不当利得法、不当利得制度)のこと。日本の民法においては民法第703条から第708条に規定されている。しかし、不当利得者が納得して協力してくれない場合は今回のように拗れるのである。しまも、「無い袖は振れぬ」的な手法が今回の事件のような「ギャンブルに使った」と主張する資産隠しの手法である。百戦錬磨の金融業に長けた者が使う手法は公益ギャンブルで損を出すことである。前述の賭博罪(刑法185条)をご覧あれ!


2020.4.1の民法改正の新しい規定について、

無記名証券  

旧民法第86条第3項及び同第473条を削除し,これに代えて,無記名証券について,次のような規定を設ける。 民法520条の20「 第二款の規定は,無記名証券について準用する。」

民法520条13(証券の譲渡)

証券の譲渡はその証券の交付しないとその効力を生じない。

民法520条14(所持人の権利の推定)

「・・・の所持人は証券上の権利を適法に有するものと推定する。」

なお、通貨を動産と考えたときの占有の準拠法

民法180条(占有権の取得)

「占有者は、自己のためにする意思を持って物を所持することによって取得する。」

民法182条(現実の引き渡し及び簡易の引き渡し)

「占有権の譲渡は占有物の引き渡しによってする。」

民法188条(占有物について行使する権利の適法の推定)

「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。」

このように、旧民法は、通貨は動産であるという規定から「占有」が権利の適法の推定が働いた。

今後は「無記名証券の所持」による権利推定が規定された。

つまり、「所有〈占有〈所持 」の範囲について、「物の支配」という点では、

①事実上の物の支配を意味する所持がもっとも広く

②所持の中で自己のためにする意思による事実上の支配である占有がこれに続き、
③占有には所有権だけでなく賃借権などの占有もあることから、

所有がもっとも狭い範囲になります。

所持の明快な定義付けがないので、上記の占有を拡張解釈することになるであろう。


4630万円誤給付の9割超、差し押さえ完了…町の代理人弁護士「全額返還され驚いた」

読売新聞 2022/06/01 05:00

© 読売新聞 記者会見する阿武町の花田憲彦町長(手前)と
中山修身弁護士(5月24日、山口県の阿武町役場で)=木佐貫冬星撮影

山口県阿武町が誤って振り込んだ給付金4630万円が全額出金された事件で、町の代理人弁護士は31日、9割超の回収が完了したことを明らかにした。電子計算機使用詐欺容疑で逮捕された無職田口翔容疑者(24)が給付金を出金した決済代行会社3社から、町の口座に振り込まれた約4300万円の差し押さえ手続きが終わったという。

 町の代理人を務める中山修身弁護士によると、町は田口容疑者が滞納した税金の徴収手続きに着目し、3社の銀行口座の差し押さえ・取り立て処分を実施。これを受けて、3社は5月20日、町の口座に約4300万円を振り込んだ。

 この時点では、約4300万円は田口容疑者の「財産」だったが、容疑者側は同日、町が起こした返還訴訟で請求を認める「認諾」の書面を山口地裁萩支部に提出。町は同23日、山口地裁に田口容疑者の債権差し押さえ命令を申し立てた。命令が出たことで手続きが進み、同30日に回収が終わった。また、中山弁護士は、今回の回収のきっかけが、決済代行会社から町への電話だったことも明かした。町は当初、3社の所在地などを把握していなかった。田口容疑者が「お金は全て海外のネットカジノで使った」と話していたことから、町は5月13日、3社の口座がある銀行に対し、国内で禁じられた賭博に関与した恐れがあることなどを挙げて、情報開示を求めた。その後、決済代行会社から町に「金を払いたい」との電話があり、3社の都内の所在地が判明した。

 3社の口座には計約600万円しか残っていなかったが、5月20日には田口容疑者が出金した約4300万円と同額が町の口座に振り込まれた中山弁護士は取材に「全額が返還されて驚いた」と話した。

My  Opinion.

電子計算機使用詐欺罪の構成要件該当性には報道内容だけでは疑義がある。決済代行会社が賭博に関与しているならば、強制調査が入り賭博罪で捕まることを懸念したために資金回収協力したものと思われる。報道だけでは不明な謎が多い事件である。ネットカジノしたと自白したので賭博罪が成立するであろう。と同時に電子計算機使用詐欺罪が成立するならこの犯罪を教唆した人物も教唆罪として共同正犯になるのではなかろうか。
報道記事の少ない情報で、
勝手に想像を膨らませ探偵気取りと法学者気取りで論じたが悪しからず。今後の進展も注視したい。

参考文献・参考資料

4630万円誤給付の9割超、差し押さえ完了…町の代理人弁護士「全額返還され驚いた」 (msn.com)

やさしい法律(兼金融)講座v49「事例研究(4630万円誤振込事件分析)」|tsukasa_tamura|note

賭博罪の成立要件とは?少額の賭け事、麻雀も犯罪になる! | 弁護士法人泉総合法律事務所 (izumi-keiji.jp)

賭博罪とは|罪の定義と逮捕される条件・刑罰の重さと判例を解説|刑事事件弁護士ナビ (keiji-pro.com)

刑法 | e-Gov法令検索

電子計算機使用詐欺罪 - Wikipedia

どんな行為が電子計算機使用詐欺罪になるのか。過去の逮捕事例まとめ|あなたの弁護士 (yourbengo.jp)

ドーパミン - Wikipedia

セロトニン - Wikipedia

エンドルフィン - Wikipedia

モルヒネ - Wikipedia

ギャンブル依存症 - Wikipedia

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刑法第61条 - Wikibooks

教唆犯 - Wikibooks

不法領得の意思とは?① ~「窃盗罪の成立には不法領得の意思が必要」「不法領得の意思がなく、器物損壊罪など毀棄隠匿罪が成立する場合」などを判例で解説~|社会人のスマホ学習ブログ (sumaho-study.com)

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