私のために永遠に生きて
私には自分しか好きなものがなくて、目も、耳も、口も、自分のために働かせることしかできません。
見たくないものを見たくないし、聞きたくないことも口にしたくないことも、そう。
だから私は彼女のことを知り過ぎていて、目は宇宙の赤いつらなりまで見つけられるし、耳は声をガラスの瓶のなかに雫みたいに落とします。口も、そう。
南アルプスのふもとで彼女の義母と私が話していたのだって(折りたためる木のテーブルにクロスを敷いてワインとチーズを楽しんだり)、かつて思いを語られたことが私の夢になってあらわれたのだろうし、それは私が望みもしないことだったのだから(談笑をしたりするなど)、相当に彼女にとっては嫌なことだったのでしょう。
むこうで拒絶されたからこちらが受け入れたのです。それで彼女と私はつながっていることがわかります。
知らないおばさんと(おばあさんかしら)私は上手に話せます。まあこういうのは得手でして、それで一旗あげた過去もあります。だけど知らない番号から電話が来るのは怖いものです。相手は私を知っているのですから。
胸のなかにぶつぶつしたものがつまっているような。
それが大きくなったり小さくなったりしている感じ。
形は赤血球に似ています。
彼女の義母はどこへ行ったのか。今はその位置にマリーゴールドが一輪置かれていて、それがこの瞬間に白い犬に変わりました。この犬の名前はわかりますか?私にはわからないけれど、さては彼女が捨てたのでは。ここにいるのはそういうわけで、私も受け入れたらそのままベルトコンベアーにのせて天の川に放流してみようと思います。
よくわからないことをしたから、もう死ぬと思われているかもしれませんが、それはたまの早起きくらいの珍しさでしかなく、卵の安売りくらいのありふれた頻度なのでしょう。それを気にする私は自意識過剰超過症なのです。
「私たちって......」そう言って彼女が私を束ねてからは、私は私たちのことしか好きなものがなくなりました。私と私たちを切り離すのは人差し指の爪の間にナイフを入れるようなもので、それは牡蠣の殻を剥くような爽快さと、似ていますでしょうか。
貝柱をぷちりと断てば、くたり。それくらいにわかりやすければいいのですが、爪は剥がれても心臓は止まりません。脳みそも声を上げるだけ。
だから私たちは、どんなに離れていても平気です。天はとうにふたりを分かち、こめかみの小さなスイッチ(ルビーの飾り付き)でしか関わりを認識できません。
私の前に、彼女が見たくないもの、聞きたくないもの、口にしたくないものがあらわれたとき、それは作動します。彼女がどこかにいることを教えてくれるのです。ピピピッ
私の見たくないもの、聞きたくないもの、口にしたくないものと重なるたくさんのものごとが、しかしそれは、私の見たくないもの、聞きたくないもの、口にしたくないものではなく、彼女のそれであり、そのためであるからこそ、私は見たくないものを見ることができ、聞きたくないものを聞くことができ、口にしたくないものを口にすることができるのです。
だから永遠に生きて。傲慢であっても、私のために私は彼女に願います。私のために永遠に生きて。目も耳も口も意味のないことに耐えられるように。苦痛も憂鬱も私のものにならないように。彼女のものにもならないように。天の川に放つように、どこか遠くに行ってしまうように。途切れることなく続くように。はじめも終わりも見えないように。