LINEでツイッター
「サク山チョコ次郎って知ってる?」
舞香にLINEした。
朝のラヴィットで紹介されていて食べたくなった、新製品のチョコ菓子。私が見たのも、発売も少し前だったけど、それからずっと気になってた。
「今日買ってみたんだ」
「なんか駄菓子みたいな印象のお菓子?でも二百円くらいする。ブラックサンダーで良くね?ぜんぜん違うか」
連投して、五分経過。
「おいしかったー!」
私が送った一通りのメッセージはまだ既読になっていなかった。
「てか、パリジェンヌやったんだけどマジいいよ!」
気を取り直して、昨日かけたばかりのまつげパーマの感想を沙梨にLINEする。
すぐに既読になって、少ししてスタンプがひとつ返ってきた。ちいかわが目をキラキラさせて歓声を上げながら拍手してるやつ。
「バッチリ上がってて最高だった!」
沙梨からまた、ちいかわが拍手してるやつが返ってくる。
大学の友達には、毎日誰かしらにLINEしてる。舞香か沙梨が多いけど、仲良くしてるグループの子には、ささいなことでもLINEしたくなる。高校のときの友達にも連絡はよくしてて、LINEしてると何年経ってもあの頃のノリと変わらないなーって感じで、自分アホだなって思うけど卒業してからもこうしてつながっていられるのは嬉しい。
日常のどうでもいいことも、友達と共有できるとなんとなく楽しく感じる。たまに、ツイッターでいっぱいつぶやくひとみたいに一方的に送っちゃってるなーってときもあるけど、そこは友達同士だから大目に見てほしいかなって思ってる。
LINEは相手がいるやりとりだけど、ツイッターはひとりごとを放り出すだけってかんじだから、一応やってはいるけどあんまり好きじゃない。
フォローしてるのも知り合いだけだし。だからくだらないおしゃべりみたいなのは、ツイッターでつぶやくよりも個人的にLINEしたほうがいいかなってかんじ。
友達のなかには、会ったこともない知らない人をフォローしてる子もいて、それは私にとっては本当に謎すぎる。有名人とかフォローするのはわかるけど、知らない一般人フォローしてどうするの?ってかんじ。会ったことないひとに向けて今日食べたごはんの報告とかするのって何の意味があるんだろう。自撮り載せて知らないひとから褒められて喜んでるのも承認欲求強すぎで大丈夫?っていうか。まあ、Twitterを見る限り私の友達でそういうことをしてる人はいないから、あー、みんなまともなんだなって安心する。
「沙梨もやる?おすすめだよー!」
既読になる。けど、返事はない。
もしかして、パリジェンヌがなんのことなのかわからずやりとりしてるのかもしれない。沙梨って、良くも悪くも人の話に適当に合わせるのうまいから。
「ここ〜!」
ホットペッパービューティーのページを送る。まつげサロンの紹介文には「パリジェンヌ」の内容も説明されてるから、これで沙梨にも伝わるはず。
また、同じちいかわが返ってきた。
「ご報告です!」
沙梨への返信を考えていると、ここのところ動いてなかったゼミのグループLINEにメッセージが届いた。開くと、雪歩からの投稿。彼女とは個人的なやりとりはぜんぜんしていない。さっきのポストを受けて続投がくるであろう画面を見ていると、すぐに雪歩からの新しいメッセージが表示された。
「きのう赤ちゃん生まれました!男の子ですー!」
久しぶりのこれ系か。
数年前に乱発した「ご報告」シリーズ。結婚、出産、出産、出産。その間に離婚していた子もいたけど、そういう報告は声を大にしてされるものではないみたい。ゼミのLINEは、沙梨の第三子出産からしばらく動いていなかった。
「おめでとう!!」
送ろうと思っていたメッセージを私より先に投稿したのは舞香だった。レス早い。打ちかけた文章の手を止めて舞香との個人LINEを開くとこちらにはまだ既読がついていなかった。
「おめでとう!おつかれさま!母子ともによくがんばった!」
「おめでとうね。ご報告ありがとう」
グループLINEに戻ると朋子と瑞希ちゃんが反応している。
「みんなありがとー!我がことながら感動しすぎてやばい(笑)38歳にしてやっとママです」
雪歩のメッセージのあとに沙梨の私にも送ってきたちいかわのスタンプが三つ連続で並んだ。「自分のことみたいにうれしい!」そうメッセージが続いた。
「みんなにだいぶ遅れちゃってる感あるけど」
「なーんにも遅れてないよ」
雪歩の自虐めいた言葉をすかさず沙梨がフォローする。
「新生児吸わせろー」
朋子からはデコメのついたメッセージ。いまどきデコメって、めっちゃアラサーのLINEってかんじする。あ、わたしたち、いつのまにかもうアラフォーか。
「名前はー?」
「朔太郎くんです」
送られてきた写真には、今まで何度も見てきた赤黒くて小さい哺乳類が映ってる。「かわいー」ってみんなが反応するもんだからか、動画まで届く。
可愛いのかは、よくわからない。いつもそう思う。友達のこども、ってだけ。知らない赤ん坊だ。
「朔太郎ー!」
どういうテンションで舞香は呼びかけてるんだろう。私のチョコ次郎は未読無視のままなのに?
「太郎仲間だわ」
たぶん男の子がいるんだろう園山がよくわからない仲間意識を持ち出す。園山のなんとか太郎のことは何年前かの「ご報告」で聞いているはずだけど、何太郎なんだかは覚えてもいない。
「うちらのゼミ、太郎多いな」
そうなの。知らんけど。てか、なんとか太郎達はうちらのゼミの子じゃないじゃん。ゼミの子のこどもの名前じゃん。ただ親子っていうだけでもう「うちら」の仲間なの?この赤ん坊まで私の友達?会ったことも話したこともLINEしたこともないのに。女子大だし、太郎なんていらない。
「ママ友会しよー」
デコメのついた朋子のLINEはすぐに送信取り消しになった。代わりに、「落ち着いたらみんなで会いたいなー」というメッセージが投稿される。
デコメがないから慌てて送ったんだろう。
大学の時はふざけて「ズッ友」とか言ってたくせに、友達という関係性の前に余計な属性がつくことでしか、本音としてはもう会うつもりがないのかもしれない。信じられない......mixiやってた頃に戻りたい。
「ねー!久しぶりに会いたいー」
舞香が応える。もう何度か送っている私のそれとない、あるいは直接的な誘いには返ってこなかったリアクションだった。
「おめでとう」の洪水に、私も同じ言葉を一言だけ投稿してグループLINEを閉じる。
「新宿に新しいバーキンできるっぽい!」
美桜は高校の頃からの友達で、マックよりバーキンのほうが好きっていう彼女の影響で私もバーキン派になった。ワッパーの食べた感はほかのファーストフードのボリュームと比べ物にならない。直火焼きの香ばしさ、最高!
よく行ってた新宿通りのバーキンが潰れたときに残念だねってLINEしたけど、今度は朗報。
「場所はサンリオの横らへんだよー!できたら一緒にいきたいなー!」
そう送って、既読はまだつかなかった。