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2020年帰省日記その2

やることに困っている。1月6日の月曜日。みんな仕事始めのこの日、実家ですることがなくなり、とりあえず母のママチャリにまたがってみた。このままでは、せっかくの帰省が何もなく終わってしまう。最寄りのコンビニに辿り着き、考えてみる。「母校にでも行ってみようか…?」大人の正月休みは終わっていたとしても、学校であればまだ冬休みかもしれない。それなら、少しだけ遠目から眺めてみるのも悪くなさそうだ。「何をまた」と、普段なら思いそうなところも、本当にやることがないから名案に思える。まずは休みかどうか調べなければ。そこで、iPhoneで「冬休み いつまで」と検索してみる。

『皆さんはどんな冬休みを過ごしますか!?2019年から2020年にかけての冬休みはいつからいつまでなのか、調べてみました!』

しまった。「調べてみました!」サイトだった。別に、「しまった」ってことはないけれど、何かを調べようと思った時の初手が、ついうっかり「調べてみました!」の領域だった場合、なんだか負けた気がするのだ。「調べてみました!」は、調べ事をショートカットするのに最適なサイトだが、その手軽さに甘えている感じと、「ここへ来るのは分かっていましたよ」というお見通し加減に、敗北感を感じてしまう。あとは単純に、ちょっとコワい。別にこちらは依頼した記憶もなければ、断ることもできない。だってもう「調べてみてくれている」から。そして、こちらのテンションとは無関係に、いつだって「調べてみました!」は、「もちろん調べてみましたよ!」とご陽気に待ち構えてくれている。そこに表情はない。一定量の陽気さを配合しているだけで、笑顔を保った無表情に見えている。調べ事が冬休みの期間であっても、猟奇的な事件であっても、同じ笑顔の管理人が「ようこそ!来ると思ってましたよ!もちろん、調べてみましたよ!」と言ってくる恐怖。クレヨン調の驚いた少女とかが挿し絵で入り込んでくると、余計にそのコワみも増してくる。パッチリお目目で両手を口元にあて、「ビックリですよね!」ではないのだ。実際に、「調べてみました!」サイトの向こう側には、どんな人がいるのだろうか。「今月はこんなに調べなくてはいけないのですか…」と肩を落としている人はいないのだろうか。「今日は娘の誕生日だから…」と、早めに調べ終えて帰ろうとしているところを「おい、ちょっと追加で、『世界の川の本数』を調べてくれ」なんて言われている人はいないのだろうか。そう思うと、少しかわいそうになってくる。また、人気の芸能人を検索すると、「〇〇 彼女」みたいに、第二検索ワードに彼女とか彼氏とか出てきて、「お、そんなニュースあったっけ?」と検索すると、「調べてみました!」が見事に調べてみてくれていて、その結果、「不明でした!」などと報告してくれている。何をしているんだと思う。「不明でした!いかがでしたか?」ではない。でもこれは、一概に「調べてみました!」サイドの落ち度ばかりではない気がする。一定数のファンが恋人の存在を気にして懸命に検索をかけた結果、「調べてみました!」サイドの中の人が「おい、ちょっとこれは調べてみる価値があるかもしれないぞ!」と、その「調べてみなければならない」使命感から「調べてみてくれている」わけだから。中の部下の人だって、「調べてみている気にもなってくれ」と嘆いているのかもしれない。その結果、答えが「分かりませんでした」であったとしても、調べてみた痕跡を残すためにサイトに残しているのだとしたら、許してあげてほしい。ただの釣りの可能性も大いにあるけど。

あ。違う。違う違う違う。何を考えているんだ。地元まで来て、「調べてみました!」のことをふんだんに考えている場合ではない。そもそも、学校が休みだったとしても、部活とかやっていて、そこをフラーっとチャリに乗ったおじさんがやって来たらすごく嫌だろう。「あぁ、懐かしいなぁ」と眺めているだけでも、何かの罪に問われかねない。こちらに気づき、部活の手を休めてジッと見つめてくる生徒に、「あ、違うんだよ?ここ通ってたの、ここ。俺もテニス部でさ、冬場は寒いよねぇ…あ、聞こえてる?ここ通ってたのよ。OBだよOB……あ、聞こえてるのかなぁ!?」と話しかけたらもうアウト。冬休み明けの学校集会で報告されたら、いよいよOBとして恥である。危ないところだった。

さて、どうしようか。やることがさっぱりない。コンビニの喫煙所でたばこを三本吸っただけで帰るわけにはいかない。とりあえず、我慢していたことをしよう。再びiPhoneを開き、「ラブレターズ 塚本」と打ってみる。


出てきた。「調べて書いていこうと思います!」の文字。「調べてみました!」の子会社的なサイトが調べてくれていた。「この記事は4分で読めます」というお知らせに驚きを隠せない。そんなものか?4分もあれば十分なのか?参考にできる素材を持っていないので分からない。中をみてみる。

すごく失礼だった。


つづく


#ラブレターズ #調べてみました

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塚本直毅(ラブレターズ)
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