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Oracleは「脱Oracle」の日を迎えるか

先月頭、住信SBIネット銀行の「WEBサイト全面リニューアルにおけるAmazon Aurora PostgreSQL10の採用について」というプレスリリースに続いて、日経XTechが「AWSに移行で脱Oracle」と続報を打った。MUFGが2017年のデジタルトランスフォーメーション戦略でクラウドファーストを宣言して以来、金融系でもパブリッククラウドの採用には前向きで、その角度でみれば事例がまた一つというにとどまる。ただDBMSの選定として、OracleからAurora PostgreSQLへの切替えというのは印象的だった。

DBMSの選定では、これまではまだハイエンドではOracle、ミドル〜ローエンドの「Oracleでオーバースペックな部分」では他製品という棲み分け、使い分けの感覚があった。しかしこの発表では、金融機関がAuroraをOracle以上の処理性能と同等の可用性と評価したことを明らかにしている。これからは金融ITのハイエンド領域でも、OracleかAurora PostgreSQLやその他のDBMSかという議論が普通になるということだ。Oracleから見れば、ハイエンド領域がレッドオーシャン化する転換点かも知れない。

Oracleはかつてのソフトウェア・ライセンス型ビジネス時代の巨人であり、クラウド・サブスクリプション型ビジネスへの舵切りを迫られ、苦しんでいる一社でもある。同様にサブスクリプション型への転換を図ったソフトウェア企業にAdobeなどもあるが、よりイメージが被るのはWindows OSというやはり業界を支配していたソフトウェアの不調に見舞われたMicrosoftだ。そのMicrosoft社は現在、サブスクリプション型ビジネスでの輝かしい成功例となっている。

2000年代の低迷を脱すると、マイクロソフトの売り上げは年率10%以上も伸び続け、1100億ドル(約12.3兆円)に達した。その主役はオフィスとAzure(アジュール)を中心とする、課金が確実でマージンも大きなクラウドビジネスだ。アジュールは利益も年率91%で急伸させており、166億ドル(約1.8兆円)の純益に占めるシェアを拡大させている。(マイクロソフトCEOの「シンプルすぎるコンセプト」と「やめた悪習」 | Forbes JAPAN

同社の提供する「Azure Antenna」セッションに行くと、講師のMac利用率が高く「Windowsはよくわからなくて」と平気で口にすることに、脱Windowsの浸透を実感させられた。かつて、2000年前後のMicrosoftは、他社製品への不安感を掻き立てることで蹴落とそうとするFUD戦術をハロウィン文書で暴かれた、いわばWindowsでの世界支配を企む悪の帝国だった。前記の記事にも、次のような一節がある。

ナデラは尋ねた。「彼ら(ギットハブ)は我々(マイクロソフト)を選んでくれるだろうか。我々にそれだけの信頼があるだろうか?」。当時の答えは「ノー」だった。[...] マイクロソフトは1990年代の最盛期を通じ、「狭量なソフトウェア企業」というラベリングをされており、ギットハブはそんな会社とは関わりたがらないだろうというのが大方の見方だったのだ。(マイクロソフトCEOの「シンプルすぎるコンセプト」と「やめた悪習」 | Forbes JAPAN

それでも彼らは「Microsoft loves Linux」とか「Microsoft loves OpenSource」とか叫び続け、行動で示し、このやり取りから2年後の2018年にGitHubの買収を成功させた。同社はこの年、時価総額で世界首位に返り咲いた。

僕が興味を持っているのは、OracleはMicrosoftの跡を追えるだろうかということだ。形の上では、サブスクリプション型ビジネスに舵を切り、クラウドサービスの品ぞろえを拡充し、同じ道を辿っているように見える。しかし「ついに刈り取られ始めたOracle Database - orangeitems’s diary)」にまとめられた近年のAmazonとのやりとりを見ると、その姿は現在ではなくハロウィン文書の時代のMicrosoftに被る。

Microsoftが「狭量なソフトウェア企業」とラベリングされてきたというなら、Oracleも仮想化やクラウドに対するライセンスポリシーから「拝啓、Oracle様『Oracleは顧客の信頼を失っている』 - ITmedia エンタープライズ」などと言われてきた。もしMicrosoftをお手本にするなら、同社がPax Microsoftの夢とそれを支えるWindows信仰から脱却したように、Oracle社にもPax Oracleの夢とOracleDB信仰を拭い去る「脱Oracle」の日が来るのだろうか。


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