見出し画像

「3つの“ChatGPT”」問題が解消してた

最近のChatGPTの話題でどうしても気になっていたのが、以下の三つの意味で「ChatGPT」という言葉が使われていて、誤解を生じかねなかったこと。

  • 人工知能モデルとして、「ChatGPT」が使用しているモデル

  • ChatGPTが使用しているモデルをツール(アプリケーション)に組込むために使う、「ChatGPT」API

  • ChatGPT APIの利用サンプルでもある「ChatGPT」ツール

OpenAI社が4月24日にブランドガイドラインを公開したことで、これらの呼び分けに関するルールがすっきりしました。

「3つの“ChatGPT”」問題

振返りとして以前の問題に触れておくと、以前から実際には、モデルはGPT-3とかGPT-4と呼ぶのが正しく、APIはChatGPT APIが正しかったはずです。でもそうした呼び分けがきちんとされず、例えば以下はどれも「ChatGPT」と書かれてるので同じものに見えました。

サムスン、機密情報をChatGPTにリークして大問題に

ギズモード・ジャパン

農水省が4月中にも中央省庁初のChatGPT利用、先陣切って実際の業務で使うワケ

日経クロステック(xTECH)

ギブリー、行政機関向けのChatGPT「行政GPT」をリリース‐定額制で提供

TECH+(テックプラス)

これの区別がつかないと、サムスンで機密情報漏洩を誘発したChatGPTを農水省が4月中にも中央省庁初で利用、さらにギブリーがそれを「行政GPT」の名前で行政機関向けにリセールしようとしているように見えかねません。言い換えれば「農水省を先頭に行政各所で情報漏洩のリスクが」と誤読させかねません。でも実は全部別です。

サムスンでは従業員が「ChatGPT」ツールに機微情報を入力する事故が起きました。このことの問題は、ChatGPTツールに入力された情報は提供元であるOpenAI社が学習データをして使用すること。主なリスクはOpenAI社の従業員がそのデータを読んだり、また学習後のAIが不特定多数の利用者への応答の中でその情報を出してしまうかも知れないことでしょう。

農水省が利用しようとしているのは、実際にはAzure OpenAI Serviceという「ChatGPT API」のリセールで、このAPIでは入力データはモデルの再学習には使われないとしています。ギブリーの行政GPTはモデルとAPIを使用した独自ツールで、後述の改称を見ればGPTモデルに重きを置いていると思われます。こちらも送信された会話データはモデルのトレーニングに使用されないとしています。

ブランドガイドライン公開

OpenAI社が4月24日にブランドガイドラインを公開したことで、これらの呼び分けに関するルールがすっきりしました。

  • OpenAIの提供するモデルは「GPT-3」「GPT-4」「ChatGPT API」「DALL·E API」といった名称を使用

  • OpenAIの提供しているチャットツールは「ChatGPT」

  • 他社のツールでは「Powered by ChatGPT API」のように「Powered by」「Built on」「Built with」「Developed on」「Developed with」のいずれかの後にモデルを記載(「○○GPT」といった記載は認められない)

モデル名と言いつつ、モデル名とAPI名が混ざってる気がしますが、まあいいことにしましょう。これにともなって、他社ツールでも「powered by GPT-4」などと改称され始めており、今後は呼び分けが適切にされていきそうな流れが出てきています。

ChatGPTの利用と、ChatGPT APIやOpenAI APIの利用は別物だし、GPT-4などを使用した各社ツールの利用もまた別の話です。リスクや利用ガイドラインなども、個別に検討した方がよさそうです(でないと自身の規約で、AI利用の有無による企業間の貧富の差という意味でのAI格差に自分たちを縛り空けることになりそうです)。こうした議論は、これまで「GPT」「ChatGPT」という単語が生成的AI全般にわたる代名詞のように使われていたことで混乱しがちでした。これからはもっとすっきり議論できそうです。

脱「GPT」、「GAI」というシンボルワード

一例としては上で触れたギブリーの「行政GPT」ですが、次のように改称されました。

4月25日(火)より「法人GPT」は「法人GAI Powered by GPT-4」に、「行政GPT」は「行政GAI Powered by GPT-4」に名称が変わりました。

ギブリー、ChatGPTを行政機関内で活用できるプラットフォーム「行政GAI」をリリース|株式会社ギブリーのプレスリリース

他にも同様の改称をした事例が報じられており、もしかすると生成的AIの代名詞として「GPT」が使われていた部分は、Generative AIを略した「GAI」が使われていくのかもしれません。OpenAI社にとっても、これは長期的にはいいことのように思います。同社は、次のAIモデルはGPTの延長線上ではないと考えているようです。

今後の進歩はモデルをさらに大きくすることでは達成できないと、アルトマンは語る。「こうした巨大なモデルを用いる時代は終わりつつあると思います」と、マサチューセッツ工科大学(MIT)で4月13日(現地時間)に開催されたイベントに登壇したアルトマンは聴衆に語った。(略)「GPT-5は開発していませんし、しばらくの間は開発を進めることはありません」

OpenAIのCEOサム・アルトマン:「巨大AIモデルの時代は終わった」 | WIRED.jp

GPTという単語は、実態とイメージが乖離したバズワード化し過ぎているという指摘もありました。

LLM(大規模言語モデル)の代表的存在であるGPT、および、その応用ChatGPTが、情報通信技術、そして、ビジネスの世界に革新的影響を与えていることに議論の余地はないでしょう。当然ながら、GPTという言葉には多大な顧客吸引力が生まれています。既に、イーロン・マスクがTruthGPTなる名称のLLMを開発する意向を表明するなど、放っておくとGPTという言葉が一般化して識別力がなくなるリスクがあります。

OpenAIは”GPT”を商標登録できるのか(栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュース

OpenAI社は「○○GPT」のような名称を不可とすることで、GPTという単語のバズワード化にブレーキをかけ、短期的には「多大な顧客吸引力」を手放すことになります。しかしGPTという単語が過剰な求心力を持てば、将来自身が新しいモデルを開発・提供する際に、「GPTでない」ことが逆風にもなりそうです。ここでブレーキを利かせることで、同社自身も「GPT」というバズワードに縛られなくて済みます。

AWS Bedrockには追い風かも知れない

ちょっと本筋からはなれた話をすると、この「GPT」「ChatGPT」という単語の多大な顧客吸引力がニュートラル化されることは、意外にAWSには追い風になるかも知れません。AWS社が先日発表した生成的AIツールについて、こんな感想を持ちました。

後発感のあるAWSとしては、なにかしらの優位性を主張し、先行者に追いつくスタートダッシュを決める必要があるはずです。しかし話題性を打ち出すにはLLM(大規模言語モデル)またはFM(基礎モデル)と呼ばれるAIモデルは話題のChatGPTではなく、シナジーを届けるにも強みである自社クラウドはエンドユーザーの触れるSaaSではなく開発者や事業者のためのIaaS/PaaSが中心です。

公式解説前に想像する「AWSの生成的AIサービスの強み」はコストと環境負荷

サードパーティが自社ツールに組込む生成的AIを選択するにあたって、Azure OpenAI ServiceでChatGPT APIが使えることは、自社ツール名にGPTという「多大な顧客吸引力」のある語を含められるという魅力がありました。この吸引力が「GAI」に移行するとしたら、GPT系モデルを使う優劣や向き不向き以外の理由は少なくなるように思います(それこそがOpenAIにとって「長期的には良いこと」でもあります)。

「〇〇GAI powered by GPT」でも「〇〇GAI powered by Titan」でもブランディング的に同等であれば、そのうちサードパーティも「powered by」をつけること自体をやめるかもしれません。そうでないと、ツールを改称しないとAIモデルも切り替えられないという事になりかねないですし、複数モデルに対応したらどちらを名乗ればいいのかわからなくなりそうです。

そう考えると、今回のことはAWS Bedrockやその他の「GPTブーム」に一歩遅れた後発サービスやツールにとって、小さな追い風になるかも知れません。Bedrockには、この風を感じられるうちに限定プレビューを終えて利用可能になってほしいのだけど、まだかなあ……。

いいなと思ったら応援しよう!