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クラウドのセキュリティ観が逆転する

クラウドは情報漏洩等に対するセキュリティを高める。セキュリティが高まるからクラウドを使う。ちょっと前の論調からすると逆ではないかと思われそうだけど、そういう状況がいま来つつあるらしい。

「クラウド普及の障害はセキュリティ不安」という神話

クラウドが利用されない理由はセキュリティの不安だとよく言われている。これに対して、クラウド事業者は十分なセキュリティ設備と人員を備えているクラウドはむしろ安全なのだと主張し続けてきたけど、情報通信白書平成29年版を見るといまだにクラウドを利用しない理由の(「必要がない」を除けば)トップに「情報漏えい等に対するセキュリティの不安」がある。

クラウドサービスを利用しない理由としては、「必要がない」が47.3%と最も高く、次いで「情報漏えいなどセキュリティに不安がある」(35.4%)、「クラウドの導入に伴う既存システムの改修コストが大きい」(22.4%)となっている。(情報通信白書平成29年度版 第2部 第2節 (4)企業におけるクラウドサービスの利用動向

でもこの項を見ていくと「クラウドを利用する理由」という調査もあり、5番目には「情報漏洩等に対するセキュリティが高くなるから」が挙がっている。しかもその比率は前年の22.7%から25.2%へ増加していて、一方で使わない理由の「情報漏洩などセキュリティに不安がある」は37.9%から35.4%へ減少している。

クラウド普及の障害はセキュリティ不安、というのは確かにかつての定説だった。でももしかしたら、それは過去の神話(Myth)的なものになってるのかもしれない。

利用企業に「セキュリティ向上」の見方が増えている

情報通信白書が出典としているのは総務省「通信利用動向調査」だった。これの企業編の報告書を2011年まで遡ってみると、クラウド未利用企業がセキュリティ不安を挙げる割合と、クラウド利用中の企業がセキュリティ向上を挙げる割合は、次のように推移していた。

未利用企業が「情報漏洩等に対するセキュリティが不安」を挙げる比率は年によって増減がするものの、全体的には大きな変化がない。一方で利用企業が「情報漏洩等に対するセキュリティが高くなるから」を挙げる比率は明らかに増加している。2012年以降は増加し続けているし、未利用企業の「不安」比率が増加した2013年や2015年にも利用企業の「安全」比率は増加した。

セキュリティ不安による未利用企業は減少している

ではセキュリティ不安を挙げる企業は本当に減ってないのだろうか?前のグラフが示しているのは「クラウド未利用企業のうち」セキュリティ不安を理由に挙げた企業の割合だ。でもそれは「全体のうち」どれくらいなんだろう。同様に、「全体のうち」どれだけがセキュリティの向上を理由にクラウドを利用しているんだろう。

通信利用動向調査の結果には、クラウド利用中の企業、クラウド未利用の企業、未利用だけど利用予定のある企業の割合も報告されている。「クラウド未利用で利用予定もない企業の割合×セキュリティ不安が理由の割合」や「クラウド利用企業の割合×セキュリティ向上が理由の割合」で上記が分かるはずだ。これを調べた結果が下のグラフだ。

こうしてみれば傾向としてセキュリティ不安を理由としたクラウド未利用企業は減り続けている。さらに言えば、セキュリティ向上を目的としたクラウド利用企業は増え続けているし、このトレンドが続くとしたら間もなく逆転しそうなところまで来ている。

クラウドのセキュリティは「どう活かすか」へ

企業は「クラウドは不安なもの」と考えている...この見方はもうすぐ昔のものになりそうだ。企業のクラウドに対するセキュリティ観は「不安だから使わない」から「安全のために使う」へと移り変わってきたし、もう逆転の一歩手前にある。少なくとも通信利用動向調査の数字はそう読める。この調査は総務省が国内企業を対象に行っているものだから、海外の話でもセキュリティ企業やクラウド企業のポジショントークでもなく、間違いなく日本のトレンドだ。

クラウドを議論するうえで、これからもセキュリティは重要なトピックだ。でもその中身は「クラウドがいかに安全か」、例えばAWSのクラウドコンプライアンスページやAzureのコンプライアンス認証ページにISO27001やFedRAMPやPCI DSSをはじめとするどれだけ長いリストがあるかではなくなっていくのだろう。それは既知の常識になりつつある。

神話は崩れ、その時にカウンタートークも不要になる。企業が求めるのは「クラウドの安全さ」を損なわなずに自社に取り込むための「安全に使う知恵」になっていく。その転換点、「安全のためにクラウド」が「クラウドは不安」を上回る逆転の日はもうすぐ来そうだ。あるいは、いま調査中の通信利用動向調査2017年度版では、もう逆転しているのかもしれないね。

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