【音楽】アウトフレージング講座 (1) - コンテクスト
こんにちは。
この記事は以下「アウトって何なの?」という記事の続きです。
おさらい
本シリーズでのアウトの定義は、
です。「なんちゃらスケールの使い方」とか、「エグいアッパーストラクチャーの乗せ方」という具体的な話よりも、概念的な話をしてから、具体的な手段の話に進んでいくというスタイルをとりたいと思います。多少周りくどいかもしれません。
先に言い訳ですが、私は別に音楽や人間の知覚について本業として学術的に研究している人間ではございませんので、本記事は経験に基づく内容であることをご了承ください。
期待とは?
さて、のっけから抽象的ですが、「アウト」というからには、期待から外すための期待のベースが必要です。これがなければ、予想外も何もないのです。
数列クイズその1
例えば以下の数字の並びを見たときにみなさん次に何を期待するでしょうか?
人によって答えは様々だと思いますが、普通は「1 2 3 かな? もしかすると 4 5 6かもしれない・・・」という具合に何となく想像の範囲があると思います。
数列クイズその2
では次はどうでしょう?
私が適当にキーボードを打っただけなので意味はなく、ランダムな並びです。この次は数字かな、くらいは言えそうですが、具体的な数字を答えるのは難しいです。「答えは3でした!」とか聞いたとしても、「ふーん」となり、あまり関心を覚えることはないでしょう。
音楽に置き換えてみると
上記の数列クイズの例を音楽に無理やり置き換えてみます。
1 2 3の例ですが、聞いてみてください。
では、この先に何が起こるでしょう?
はい。日本の童謡ですね。
この『チューリップ』の最初のフレーズをモチーフとして展開した例をいくつかあげます。
例1
例2
例3
例4
例1は、メロディを途中から変えています。
例2は、メロディはそのままでベース音を変えています。
例3は、リズムを変えています。
例4は、ドレミの基本モチーフをしつこく繰り返して、違うモチーフにつなげています。もう原型をとどめていないです。
例1~3はチューリップを変な風に演奏しているなー、例4は(お題を踏まえると)もしかするとチューリップ・・だったのかな?という感じですかね。このとき、「普通」あるいは「変」な「チューリップ」という期待があって、それに対してどうだったかと反応をしていると思います。
さて一応、ランダムな数列については難しいのですが、なんかやってみましょう。
この後の展開はわかりませんよね。では続きを聞いてみましょう。
これを聞いてどう感じるかは正直わかりませんが、このようなケースでは一般的には、聞き手は期待を持ちませんので、その後に起こることに対して特別な反応をしないでしょう。つまり期待を上回るも下回るもないのです。
※無調性なものが続いたという意味では期待通りなのかもしれません。
コンテクスト
朝、人に会ったら「おはよう」といいます。「おはよう」と相手に声をかけるのは、「朝、人に会って、会話する」という前提条件を会話する相手と共有しているからです。ここでは、ある時点の行動選択に至るまでの前提条件をコンテクスト(文脈)と呼ぶことにします。
上記の例でいうと、「ドレミ ドレミ」まで演奏した時点で、「ドレミ ドレミ」というフレーズはコンテクストであり、次何が来るのだろう?という期待のベースになります。
(コンテクストに関する補足は"余談"をお読みください)
まとめ
今回は「アウト」の具体的な手法というよりも、概念的なこととしてコンテクストを紹介しました。この「コンテクスト」の言葉の使い方は音楽の世界では一般的ではないのでここでの用法としてご理解ください。
このコンテクストを把握し、予定調和を避けて(期待を裏切る)次の展開をいかに作るか、ということがアウトだけでなく、作曲・編曲したり、音楽でコミュニケーションをとっていくことにおいて重要に思います。
次回はコンテクストの作り方のひとつの手段として、モチーフの反復という事例を紹介したいと思います。
余談
音楽には、こういうメロディ・ハーモニー・リズムといった音や空間に関わる情報だけでなく、メタな情報があります。
例えば、「チューリップという曲を演奏する」、というのはコンテクストと言えます。この講座がアウトに関するテーマとしているので、もしかすると「チューリップという曲を変な風に演奏する」がコンテクストと言えるかもしれません。
ある時点に至る音楽情報以外のすべてのメタ情報もすべてコンテクストと考えられます。演奏者・共演者・視聴者、編成に関する情報もそうです。セッション中に「あの人ソロ長いなー。時間ないから、私のソロ短めにしよ」とか思うのもメタ情報です。
とはいえ、いちいちこんなものすべてを言語化して考えているわけではなく、ほとんどが感覚的、あるいは、その場の雰囲気や流れで反射的に対応しているのが実態です。「空気を読む」みたいなことです。そういう純粋な音楽情報以外の情報も、演奏すること・聞くことに大いに影響しているよねー、ということをお伝えしたかった次第です。(了)