【SD】2024年サンディエゴ・パドレス総括
ティーーーーーーーーッス!!みなさん、僕のことを覚えていますか?
2勝2敗で迎えたドジャースタジアムでの第5戦前に現世でカマキリの姿を借りてルイス・アラエズのもとに現れてはみたものの、その後パドレスは完封負けで0勝1敗、逆転敗退で冷笑いっぱい(韻踏み)、ルイージことラリーマンティスティッス!!
不吉レベルでは3年前ベンチに置かれた黒豹の置物と肩を並べるティッスが、さっそく今年のパドレスを振り返ってみるティッス!
打撃概要
まずパドレスの主要打撃指標を見てみよう。左からパドレス指標、ナショナルリーグ平均指標、NL15球団中のパドレス順位だ(K%のみ昇順ランク)。
メルビン監督時代の過去2年と比べると、打線の特徴が大きく変わっていることが分かる。バットをMLBで最も振らず打率は低いが四球で出塁率を稼いでいた昨年2023年シーズンとは異なり積極的にバットを振り、コンタクト重視でインプレイ数を増やした。
ただ闇雲に振り回しているわけでもなく、Swing%は48.1%とほぼMLB平均だ。昨年ど真ん中の球を振る率Meatball Swing%は73.7%でMLB29位だったが、今季同14位の78.0%と改善している。つまりグリシャムが2ストライクから見逃していた曲がらない88mphのカッターの様な振るべき球へのスイング率が上がっている。
ご存じの方も多いと思うが、打率と得点の相関はそう高くはない。打率よりも出塁率や長打率やOPSなど、打率を包括する基本的な指標ですらより相関が強いものは数多あるのでそちらを参照すべきという方が適切かもしれない。
コンタクト率は打率と相関関係にはあるが、得点と密接な関係にあるwOBAとの相関は殆どない。つまりバットがボールに当たるだけでは得点には辿り着けない。だが良質なコンタクトは得点源になる。またMLB全体でストライクゾーン内への投球は2015年の48.3%から49.6%と僅かながら年々増加しており、ストライクを的確に打つこと自体は出塁率や得点の上昇に繋がる。
フアン・ソトをトレードで放出し、マニー・マチャド(643AB/.275AVG/.325OBP/.472SLG/29HR/11SB/122wRC+/3.6fWAR)はテニス肘手術の影響で序盤不調、フェルナンド・タティス・ジュニア(438AB/.276/.340/.492/21HR/11SB/135wRC+/3.1fWAR)は大腿骨のストレスリアクションで102試合の出場に留まり、ザンダー・ボガーツ(463AB/.264/.307/.381/11HR/13SB/95wRC+/2.0fWAR)も左肩の骨にひびが入った負傷欠場と不調で精彩を欠くなどマイナス要因が重なったにも拘わらず、wRC+は昨年の106からNL3位の111へ上昇している。打者の年平均(AAV)確定契約総額(調停権取得前除く)を昨季の$197Mから今季$168Mと大幅に圧縮したことを考慮すれば上出来と言って良いだろう。
2人の救世主
ではどのポジションで戦力の落ち込みを防いでいたのだろうか。
左から2023年実績、2024年開幕前予想、同年実績のfWARとNL内ランキングである。右は2024年実績から見た対2023年実績と対2024年予想ふたつの比較だ。
2023年は二塁(主にキム・ハソン)、三塁(マチャド)、遊撃(ボガーツ)、左翼(ソト)、右翼(PED出場停止明け後は主にタティス)の5ポジションがNLトップ3である一方で、一塁(ジェイク・クローネンワース)と中堅(グリシャム)がそれぞれ0.3と1.5fWARと低迷した。2024年開幕前予想も前年に近くソトが抜けた左翼、グリシャムが居ても居なくても低い中堅がNLワースト3に入るほどの弱点だろうと不安視されていた。
しかし蓋を開けるとその中堅と右翼がポジション別チーム内fWARで1-2位を飾り、中堅に至ってはNLトップのfWARを稼いだ。チーム最年少のジャクソン・メリル(554AB/.292/.326/.500/24HR/16SB/130wRC+/5.3fWAR)だ。
2024年開幕時点でパドレスのトッププロスペクトだったメリルは2021年ドラフト1巡目全体27位指名の遊撃手で、外野手の守備経験は昨年AAの5試合のみだった。そのAAでの試合出場自体も僅か46試合で104wRC+と平均を僅かに上回る程度であったため、プロスペクトランクでは開幕メジャーは時期尚早ではとの見方も少なくなかった。しかしタティスの右翼コンバートで味を占めたA.J.プレラーGMの遊撃が守れる子は何でも出来る子理論どおりメリルは開幕から安定した守備を見せ、終わってみれば堂々の+12OAAを記録。
ただ守備以上に打撃での活躍が想定外であり目覚ましかった。
四球が少ないがヒット性の当たりが多いというメリルの各指標は2024年パドレス打線の写し鏡ともいえるだろう。この中で特に気になる指標はLA (Launch Angle) Sweet-Spot%の高さだ。
LA Sweet-Spotは下図のとおり8度以内32度以下の打球角度を指し、LA Sweet-Spot%はインプレイになった打球のうちSweet Spot角度内で飛んだ打球の割合である。
この角度で打球を飛ばした時の2024年MLB平均打率は.585、長打率は1.057というかなり高い数字になる。Sweet Spot以外の同平均打率は.193、長打率は.268に留まるので大きな差だ。また若干雑な説明をするならば、ほぼこの角度内で95mph以上の打球を飛ばすとBarrelに該当し、打率と長打率はさらに高まる。
メリルの39.6LA Sweet-Spot%はMLB規定打席到達打者中9位の高さを誇る(MLB平均33.8%、首位はLADのフレディ・フリーマンが記録した43.1%)。メリルよりLA Sweet-Spot%が高い8打者のうち、K%がメリルの17.0%以下に留まる打者はフリーマンと3年連続首位打者に輝いた同僚ルイス・アラエズの2人だけだ。
そしてさらにSwing%は56.9%と先の上位8打者の誰よりも高く、MLB規定打席到達打者中6位だ。つまりバットを多く振る割に三振が少ないのでインプレイの打球が多い。そこに先述の高いLA Sweet Spot%を掛け合わせると、Sweet Spot打球の本数そのものの積み上げに繋がる。Hard Hit%も高いため長打も多く、24HRはタティスやフランミル・レイエス(現北海道日本ハム)らを凌ぎパドレス初年度打者史上最多だ。
Namikiさんのnoteによると、LA Sweet-Spot%とxwOBAの間、またLA Sweet-Spot%の年度間には中程度の相関があるとのことである。興味深い内容なのでお読みいただきたい。
なおパドレスのLA Sweet-Spot%は35.4%でMLB30球団中ドジャースに次ぐ2位。2022年32.8%(22位)、2023年31.8%(28位)からかなりコンタクトの質は改善されている。
一方もうひとりの外野手ジュリクソン・プロファー(668AB/.280/.380/.459/24HR/10SB/139wRC+/4.3fWAR)は、チームの打撃トレンドとは異なる方向性で打撃成績を大幅に改善した。
2023年ロッキーズでMLBワーストクラスの-1.7fWARを叩き出し、笑顔がセールスポイントだという理由のみで人気台湾チアのリン・シャンと無理やり間違えられ「見分けがつきづらいがWARが高い方がリン・シャンだ」等と口の悪いパドレスファンに揶揄されていたが、プロファーのSweet Spot%はその昨年より6.4%低い31.3%で、リーグ平均を大きく下回る。ボールへの当たりどころが悪くなっているにも拘らずwRC+は73から139に復活どころかキャリアハイの大躍進を遂げた。
元々プロファーはメリル同様三振が少なく、加えてボール球に手を出さないのでBB%は毎年MLB平均を上回り空振りも少ない。ゴロ率もキャリアを通じてMLB平均だ。これだけ並べると高打率高出塁率の打者をイメージしそうだが、実際の成績は打率.245、出塁率.330あたりに留まっていた。理由のひとつがHard-Hit(95mph以上の打球)%の上昇だ。
2019年から2023年まで、プロファーのHard-Hit%は30%から31%まであたりをうろつき、リーグ平均(参考:2024年は38.9%)を上回ったことが無いどころか下位19%を超えるシーズンがなかった。実際にプロファーの試合中継などで多く見ていた方にはご記憶にあるかもしれないが、以前彼の打球は真っすぐ飛ばないものが多かった。かつては打球角度が良くても卓球のカットマンが放つレシーブの様に妙なスピンが掛かってしまい小フライに終わるという打席をよく見かけたものだが、今年は真っすぐ飛んでいる。
その理由は打撃フォームの猫背が修正し、昨年よりオープンスタンスでほぼ皆無だった前足のキックを高くしたからことが挙げられている。
2023年打撃フォーム
2024年打撃フォーム
またフェルナンド・タティス父子との練習でスイングの軌道がレベルスイングに修正されたからでは、はたまた仲良しなお友達が多いサンディエゴの水が合っていたのではと色々な説が挙げられているが、いずれにしてもLA Sweet-Spot%やラインドライブ率の低下と引き換えに打球速度を得た。一方でフライボール率はキャリアハイの25.6%まで上昇したが、打球速度増加と相乗効果を起こした。プロファーのフライ打球における打率とwRC+は2021年.163/40,2022年.175/88、2023年.176/46とリーグ平均(2024年.217/126)を下回っていたが、2024年は.246/151とキャリアハイだ。先述の変な回転の凡フライやショートライナーが長打に変わったというわけだ。
ちなみにラインドライブでもwRC+は昨年の286から365と平均の359を上回るほど改善している。つまりプロファーの改善プロセスはチームのコンタクトの質というよりも従来のフライボール革命に近いものと言えよう。
なおライナー性の打球でも速度が遅いとアウトになりやすいという話はルイス・アラエズ獲得の際に触れたのでご一読いただきたい。
ここまで数字続きで脱落しそうな読者もいるのでまとめておこう。
ジャクソン・メリル
打球角度がヒットや長打になりやすい打球の割合が多いよ
三振しないから好打球の本数も多くなるよ
性格明るいよ
NL新人王2位だったよ
ジュリクソン・プロファー
ヒットになりやすい角度の打球割合は不振だった昨年より減ったよ
でも去年までヘナヘナだった打球速度が上がって、以前なら凡打だったフライやライナーがヒットや長打になって成績が上がったよ
性格明るいよ
最近リン・シャン痩せちゃって心配だよ
新人と1年$1M+打席数出来高契約で望み薄だった2人は共にまさかの好成績でオールスター出場を果たし、ソト流出と主力故障離脱による戦力低下を防ぐ活躍を見せた。
ウィークポジションの改善
また今年は例年パドレスの弱点だったDHが良かった。DHで最も打席に立った打者は217打席のアラエズ、続いてシーズン序盤手術後の回復中で守備に就けなかったマチャドだったが、二人とも一塁や三塁が主な守備位置であり昨年のネルソン・クルーズやマット・カーペンターの様な斜陽の専任指名打者ではない。
2023年の反省点として控え野手の弱さが挙げられており、時々レギュラー選手を休ませたいボブ・メルビン前監督との采配方針にはマッチしなかった。しかしシルト監督はスター級選手はなるべく多く出場させ、固定DHを置く代わりに主力の半休養に使った。そもそも他ポジションに比べ安価に獲得できるにも拘らずDH専任打者は獲得されなかった理由は、二線級のDH専任より多少疲れた一線級ポジション選手をDHで使った方が出力は上がるだろうとの編成上の判断だろう。
ただ控え野手も今年は当たり年で、開幕からレギュラー捕手の働きを期待されるも拙守と薩摩の示現流と見まがうほどのオープンスタンスと高いグリップ位置から目にも止まらぬ早打ちで凡打を繰り出すみね打ち打法で不振にあえいだルイス・キャンプサーノ(299AB/.227/.281/.361/8HR/0SB/83wRC+/-0.5fWAR)に代わりカイル・ヒガシオカ(263AB/.220/.263/.476/17HR/2SB/105wRC+/1.6fWAR)は、シーズン後半から正捕手となり、打率は低いもののISOは250打席以上立った捕手の中ではMLB最高の.256を記録。彼もまたLA Sweet-Spot%はキャリアハイ(40.4%)だった。
また昨年の左肘手術から復活し故障欠場したタティスの代役を果たしたデビッド・ペラルタ(260AB/.267/.335/.415/8HR/2SB/115wRC+/0.4fWAR)、庭師と電話した架けてしまったつもりが間違ってロドリゲス打撃コーチに架けてしまったところから契約に辿り着き堅実な打撃を見せたドノバン・ソラーノ(309AB/.286/.343/.417/8HR/2SB/118wRC+/0.8fWAR)の両ベテランは共にシーズンが始まってからマイナー契約で獲得した選手だった。バッテリーと一塁以外全てのポジションを守ったタイラー・ウェイドも居た。居たことには居た(56wRC+)。夏にヤンキースから移籍し12試合に出場した新人ブランドン・ロックリッジは主に代走と外野守備固め、そしてアラエズに任されたカマキリの世話をこなした。
先発投手
昨オフにブレイク・スネル、セス・ルーゴ、マイケル・ワカのローテーションの中核を担った3先発投手がFAで移籍し、先発陣の弱体化は否めないと目されていた。
開幕戦直前にホワイトソックスからトレードで獲得したディラン・シース(33GS/189.1IP/29.4K%/8.5BB%/3.47ERA/85FIP-/4.8fWAR)が球団史上2度目となるノーヒッター達成をはじめとするエースとしての働きを見せ、また先発転向フルシーズン初年度のマイケル・キング(30GS/173.2IP/27.7K%/8.7BB%/2.95ERA/83FIP-/3.9fWAR)が昨年の先発挑戦投手ルーゴ同様良い働きを見せた。ここまでは文句なしだが、元々ローテーションの柱として期待されていたジョー・マスグローブ(19G/19GS/99.2IP/24.6K%/5.6BB%/3.88ERA/98FIP-/1.4fWAR)とダルビッシュ有(16G/16GS/81.2IP/23.6K%/6.6BB%/4.08ERA/101FIP-/1.1fWAR)が負傷(前者は骨棘、後者は左鼠蹊部の張り)や家庭の事情による制限リスト入りで離脱し、二人合わせた投球イニング数が191.1に留まった。そのためチーム3番目に多くのイニングを稼いだ投手はセミナックルボーラーのマット・ウォルドロン(27G/26GS/146.2IP/21.3K%/6.4BB%/4.91ERA/105FIP-/1.8fWAR)で、4番目に先発登板試合が多かった投手はランディ・バスケス(20G/20GS/98.0IP/14.4K%/6.7BB%/4.87ERA/116FIP-/0.8fWAR)という、昨年途中にメジャーデビューを果たしたそこまで期待の高くなかった2人である。
それでも先発投手のfWARはNL15球団中3位だった。打撃陣が話題のシーズンだったが、今年のパドレスは投手が牽引した。
先発投手健闘の理由について大枠について語ると、まずマスグローブとダルビッシュの投球回数は限られていたがリーグ平均先発レベルをやや上回る成績を残したこと、そして不在時の代役に大外れな投手が少なかったことが挙げられる。先述のウォルドロンや前半は好調だったし、バスケスは三振が奪えず特に左打者に有効な球種がなかったが穴埋めにしてはよくやっていた。トレードデッドラインで加入したマーティン・ペレスも、カーブやチェンジアップの割合を増やし痛打を逃れていた。多くの先発試合で序盤に崩れてしまうほど出来が良くなかった投手は、新人のアダム・メイザー(8G/8S/33.2IP/13.9K%/13.3BB%/7.49ERA/153FIP-/-0.3fWAR)のみだった。
また今季パドレスで先発した投手は上記の8人しかおらず、NLでは最少人数だ(ALではマリナーズの7先発投手が最少)。過去3シーズンにおける先発投手数は2021年15人、2022年12人、2023年13人だったのでかなり少ない。今季ブルペンデーはゼロだった。乱調でも球数はキッチリ稼いでから降板させる采配は一貫していた。故障者の少なさに恵まれ、かつ近年課題だった先発控え投手の充実が図られた結果だろう。必ずしも先発投手数の少なさが好成績に結びつくわけではないが、リリーフ投手の安定した運用や負担減少には貢献しただろう。
全体的には四球の少なさは平均的だが三振が多い傾向はここ数年変わらない。ただ近年のパドレスで見かけなかったタイプは、投げ手側への横変化が大きいシンカーを主に用いるキングだ。
フルシーズン初年度の今シーズンにキングはチェンジアップを増やしシンカーを減らしたことにより主な4球種割合の差がキャリアの中で最も縮まった。これはリリーフと異なり左打者との対戦が増えたことが影響していると察するが、最も低い割合のスイーパーで17.8%、対して最多はシンカーの27.9%を似たようなリリースポイントから放るので打者にとっては的が絞りづらいだろう(今年から変化の少ないスライダーを6%ほど主に右打者に投げているが、あまり良い結果は出ていない)。昨年より長いイニングを投げるため4シーム(93.7mph)とシンカー(94.0mph)の球速は1mphほど落ちておりStuff+も同様にリーグ平均100を下回ったが、4球種ともLocation+は103以上なので安定感があった。懸念された故障や終盤の疲労による低調もなくNL15位のイニングを稼いだ。
リリーフ
先発投手の出来が良かったが、シーズン予測を大きく上回ったのはリリーフ陣だ。
リリーフの開幕前fWAR予測は1.7だったが結果は5.5だった。昨年先発投手は良かったものの、ジョシュ・ヘイダー以外のリリーフ投手がぱっとせず、開幕時も誰ひとり計算できる投手はいなかった。そしてヘイダーはFAでアストロズに移籍し、開幕時に計算できるリリーフは正直なところ誰ひとり居なかった。
今季前半の出来もカンバシーズとカンバシクナイーズに二極化していたが、トレード期限でタナー・スコット(28G/26.1IP/27.7K%/8.0BB%//2.33ERA/58FIP-/0.7fWAR)、ジェイソン・アダム(27G/26.2IP/27.7K%/8.0BB%/1.04ERA/61FIP-/0.7fWAR)というトップ級リリーフ投手を獲得し、一発病のエンジェル・デロサントスを放出。MLB1年目の松井裕樹(64G/62.2IP/26.8K%/10.5BB%/3.73ERA/97FIP-/0.3fWAR)は序盤制球に苦しむも、途中から遠投を用いた楽天時代の調整方法を再び取り入れ、また中盤からスプリットの代わりにスライダーを増やしBB%とK%が改善。なおリリーフ陣のfWAR稼ぎ頭は抑えのロベルト・スアレス(65G/26.2IP/22.9K%/6.2BB%/2.77ERA/87FIP-/0.9fWAR)ではなく、ウェイバー獲得のジェレマイア・エストラーダ(62G/61.0IP/37.3K%/9.1BB%/2.77ERA/52FIP-/1.6fWAR)だった。
昨年とのリリーフ陣の大きな違いは球速だ。速球系(4シーム、シンカー、カッター)の球速が昨年の92.7mphから94.1mphに上昇している。その理由は単にナビル・クリスマットが居なくなり平均が押し上げられたからではなく、リリーフで200球以上投げた速球系平均球速95mph以上の投手は昨年の5人(スアレス、ルイス・ガルシア、ドミンゴ・タピア、レイ・カー)から9人(スアレス、スコット、エストラーダ、アドリアン・モレホン、ショーン・レイノルズ、ジョニー・ブリトー、アダム、デロサントス、ワンディ・ペラルタ)に増えている。そしてシーズン終盤は勝ち試合なら4点差でもアダム、スコット、スアレスのA.S.S.トリオを可能な限り投入した。
プレーオフ
前半戦を勝率.500前後をうろうろしつつもオールスター後に43勝20敗というMLB最高勝率を残して、レギュラーシーズンを93勝69敗で終えた。これはワールドシリーズに辿り着いた1998年の98勝に次ぐ球団史上勝利数2位の成績である。
ピタゴラス勝敗では90勝72敗だったので、昨年のピタゴラス勝敗92勝に対して結果は82勝という近年まれにみる不運に見舞われたシーズンに比べたらかなり幸運だったというべきか。
そしてアトランタ・ブレーブスとのワイルドカードシリーズでパドレスにとって2年ぶりのプレーオフが始まった。
NLワイルドカードシリーズ(パドレス2勝0敗で勝利)
第1戦: ATL 0 - SD 4
第2戦: ATL 4 - SD 5
NLディビジョンシリーズ(パドレス2勝3敗で敗退)
第1戦: SD 5 - LAD 7
第2戦: SD 10 - LAD 2
第3戦: LAD 5 - LAD 6
第4戦: LAD 8 - LAD 0
第5戦: SD 0 - LAD 2
シルト監督の采配には特にケチをつけたくなる部分は無かった。例えばメルビン前監督がパドレスを率いた2022年の対フィラデルフィア・フィリーズNLCS第5戦の様に、負けたら敗退の試合で絶対的な抑えヘイダーを温存してしまうという不可解なリリーフ起用やグリシャムの謎バントの様な首を傾げるような場面もなかった。
NLWC第2戦に先発マスグローブを肘の怪我(のちにトミージョン手術)で失った影響で、NLDS第4戦先発投手の選択は物議を醸した。中3日未経験のシースの代わりにペレスらを用いたブルペンデーで凌ぐという選択肢もあったが、その場合シースが第5戦登板でダルビッシュが投げることはなかっただろう。シースのプライドを慮るゆえ、彼を飛ばしてダルビッシュ第5戦という考えもなかったはずだ。極めて王道。結果は伴わなかったが致命的な判断の間違いは見受けられなかった。また今季レギュラーシーズンで一度も用いたことがないブルペンデーを採用する可能性も考えづらかった。
一方でドジャースのデイブ・ロバーツ監督は先発投手のコマが足りないことは織り込み済みだったのでブルペンデーに賭けた。必ずしもリリーフ全員にキレのある球があったわけではないがこの継投も至極真っ当な判断で、実際に有効だった。 各リリーフと同一打者3打席以上の対戦を丁寧に避け、奪三振が少ない分をルール範囲内における守備シフトのこまめで且つ大幅な調整でフォローし功を奏した。両軍打つべき手は打っていたゆえの結果である。そもそもパドレスは直近24イニング無得点だったので第4-5戦は采配で勝ち負けが変わることはなかっただろう。
しかしご存じの通りMLBのプレーオフは非常にランダム性が高く、ワールドチャンピオンの価値を貶めるものではないがNBAの様にレギュラーシーズン上位のチームが80%の確率で勝利するプレーオフにするには最低75試合必要という試算がある。つまりプレーオフ勝利最大の秘訣はプレーオフに多く出場することであり、ドジャースはそれを近年それを実現させて今年成就に至った。
またシリーズは2勝3敗だったので、ちょっとした歯車の噛み合わせ次第で勝利はどちらに転んでもおかしくはなかった。もしパドレスに勝ち目があったとしたら、シースの4シームがあとボール0.5個分だけ高目に放られ大谷翔平からのホームランを回避し第1戦目からの3連勝だっただろう。もしくは第5戦でカマキリがパドレスではなくドジャースの選手に拾われていれば運気がこちら側に巡ってきていたかももしれないティッス。
2024年パドレスというチーム
シルト監督はレギュラーシーズンを通してプリンシプルに則った采配を好んでいたが、僅差リードでブレーブスの強打者勢を迎える8回に抑えのスアレスを登板させるような柔軟性も見せていた。プロファーに本日のきまぐれバント〜実況解説のクエスチョンマークを添えて〜を許している点と負け試合後のインタビューで時折見せる感じ悪さを除けばさほどの文句はない。
またチームメイト同士の交流活性化を促した。以前は試合前にトレーニングルームで自身の鍛錬に集中することが多かったマチャドも野手陣と共にフィールド上の守備練習で汗を流す場面も増えた。それ自体がチームの何勝に貢献したかは測りようがないが、スター選手を過剰に特別扱いせずに過去数年問題視されていたクラブハウス内の雰囲気改善に踏み込んだ点は好感が持てる。
パドレスは昨年までスター選手以外からのアップサイドに欠けており、彼らが不調や欠場の際には手詰まりになっていた場面を散見したが、今年はメリルやエストラーダの若手台頭や、プロファーやヒガシオカらベテランの奮起などのサプライズが開幕前勝率5割ちょっとの予測だったチームを後押しした。
昨年2勝12敗だった延長戦の成績は今季10勝2敗。38試合の逆転勝ちでうち33試合は7回以降に成し遂げた。また9回での勝利決定試合数は23、サヨナラ勝ちは10を数えた。終盤の逆転劇が多いこともあって序盤で負けていても何かやってくれるのではと期待させてくれる非常に痛快なチームだったこともあり、いちファンとしてはもしパドレスが初のワールドチャンピオンを獲る機会に恵まれるのであれば、偉大なるオーナー、ピーター・サイドラー亡き後初めてのシーズンである今年のこのチームが相応しいと感じていた。
残念ながらその夢はパドレス56年目のシーズンも叶うことはなかったが、素晴らしいチームだった。来年こそは球団創立以来の無冠シーズンをこんな感じに断ち切ってほしいティッス
サムネイル写真元
https://www.mlb.com/padres/video/mike-shildt-on-padres-5-2-loss-in-seoul-opener