【SD】フェルナンド・タティス・ジュニア左手首骨折で長期欠場へ
MLBロックアウトが終わり、先週末にメジャー40人枠の選手がフロリダとアリゾナのキャンプ地に続々と集結した。ピオリアの強い日差しの下、チームメイトとの再会を喜び、練習を始めるパドレスの選手達。ブルペンではトミージョン手術上がりのマイク・クレビンジャーや、過去2年フォームを崩し制球難に苦しんだ投手プロスペクトのマッケンジー・ゴアらの投球練習が始まっている。今年の奮起が期待される投手たちだ。
後半戦思いもよらぬ大失速を喫しプレーオフを逃した昨年の雪辱を払拭しそうな予感を覚えるキャンプの始まりにパドレスファンの期待も膨らむ。
ジェネラルマネージャーA.J.プレラーからのキャンプ前定例記者会見での発表までは。
フランチャイズの顔であるフェルナンド・タティス・ジュニアは左手首を骨折。手術の可能性が高く全治3か月の見込み。
パーティーは終わりだ。各々仕事と学校に戻れ。
またこの日に日刊スポーツからポスティング経由でMLB移籍先を探している鈴木誠也がパドレス入りとの報が流れるも、本人がTwitter等SNSを通じて移籍先決定報道を否定。パドレスファンにとってはセイヤでドッキリタティスがポッキリホズマー売れたら損切りという散々な一日と相成った。
どんな怪我？
この記事で一番面白いパートである語呂合わせの披露を無事終えたしホズマーには何も起こっていないどころかキャンプで見かけすらしなかったので、ここからは怪我の話だ。なお私は形成外科をはじめとする医療の専門家ではなく、それらの専門知識を持ち合わせていない点をあらかじめご承知いただきたい。
タティスが折った左手首の骨は舟状骨（しゅうじょうこつ）といい、腕側の骨に近い親指側にある。過去のインスタグラムでは親指の根元まで保護したリストサポーターが巻かれている写真が掲載されていた。
骨折の原因ははっきりしていないという。昨年12月にモーターサイクルで事故を起こしたとの報道が流れたが、今回の怪我との関連性ははっきりしない。バイクの転倒について記者から質問された際に「どの転倒？」と訊き返していたので見ているこっちがすっ転びそうになった。お前は何度なにで転んだのかと。このバイク事故による手首の痛みは当初大したものではなく、タティス側から球団への説明もかすり傷と軽い打撲程度というものだった。この時にレントゲン撮影を行ったかは不明だが、レントゲンで舟状骨の骨折が発見されない事は珍しくないらしい。
一か月前にキャンプに向け調整を開始し、野球のトレーニング負荷を上げバットのスイングを行った時に激しい痛みを覚えたらしい。そして痛みが引かないまま迎えたロックアウト解除後に球団でレントゲンを再撮影したところ今回の骨折が判明した。
復帰までの道程
プレラーGMは全治3ヶ月と話していたが、外部の専門家の意見によると楽天的すぎる見通しらしい。
かつてNFLのサンディエゴ・チャージャーズのチームドクターを務めたDr.デビッド・チャオは骨折から3ヶ月経過（12月のバイク事故が原因と仮定）してなお治癒に至っていない点を懸念。血流不良が起こりやすい箇所ゆえに治癒が遅れがちで、遷延治癒もしくは偽関節と呼ばれる病状で骨の結合が3か月を経てもなされていない。このケースでの手術には他の骨（自らの臀部か遺体からの骨を使うらしい）からの移植が必要な可能性があり、その場合には全治4-6ヶ月ほど掛かるという。昨年少なくとも5回はサブラクセーションを起こした左肩の手術を勧められるも患部周りの筋肉を鍛えるという千代の富士方式で手術の回避を選択してファンの不安を増幅させたが、今回の手首に関しては避けられそうにない。
また手首の故障は治癒後も打撃パフォーマンスに影響を及ぼすケースが多い。パドレス野手最古参のウィル・マイヤーズや昨年までパドレスで2年プレーしたトミー・ファムは手首の故障を患った後、以前ほどの打撃成績を残せてはいない。
契約への影響
今回の様なフィールド外での危険なアクティビティは契約上制限している場合が一般的だ。そしてもしそれらの行為により怪我が生じた場合、球団が契約上の年俸を一部減額するケースがあるが、パドレスはタティスに対してそれを行わないだろうというのが周囲の見込み。スーパースター選手との関係重視に加え、事故が特定できず数か月前では原因がはっきりしない。MLB Pipelineのジョー・モロシからは立証が困難かつ元々煩雑である点が挙げられている。
疑問点
「ロックアウト中でなかったら話が違っていたかもしれない」とタティスはコメントしていたが、実際にはどれほど違っていただろうか。
確かにロックアウト中にチームドクターと選手の接触は禁じられている。しかしそれはチームドクターが球団の職員であった場合の話であり、パドレスのチームドクターは球団職員ではないカリフォルニア大学サンディエゴ校大学病院の提携医師だ。つまりパドレスはタティス怪我のニュースを知った後に彼らをドミニカ共和国に派遣できた筈だがそれをしなかった。
他に事情があったのかもしれないがこの話だけを聞くと、A.J.プレラー率いるパドレスの危機管理意識に疑問が芽生える。まして事故に遭った選手はかつてDVDのパッケージを開ける際にナイフの使い方を誤り切腹しかけたアダム・イートンやスイカの皮をゴミ捨て場に利き腕で放り投げた怪我をしたジェイ・ウィタシックではなく、MLB史上最長14年$340MMの投資先である。
あとはおそらく多くのMLBファンが抱いているかと思うが、パドレスファンの贔屓目からしてもタティスJr.は周囲からスポイルされ過ぎていたなという感を禁じ得ない。骨折発覚後プレラーGMはタティスと持つべき責任について話し合う席を設けたらしいが、そこで問われるべき責任の何割かはプレラー自身に跳ね返ってくるべきものではなかろうか。反面、メジャーリーガーを父に持つ恵まれた環境からタティス自身が十分に学べなかった点は勿論残念でならない。
代役候補
.282AVG/.364OBP/.611SLG/42HR/25SBのオールスター遊撃手不在の穴を埋めるのは容易ではないが、ボブ・メルビン新監督はタティス怪我の報を受けこうコメントした。
「勿論痛手だが同時に他の選手に機会が訪れる。我々は26、28、シーズンが進めば40-50選手から成るチームだ。タティスは一人の選手。彼はとても重要だが、チームにとっては復帰まで牙城を守るモチベーションになる」
その機会が真っ先に訪れるのはキム・ハソンだろう。守備面だけを考えたらタティスからのアップグレードだ。課題はMLB初年度の昨年.202/.270/.352/8HR/6HRと低成績に甘んじた打撃だが、前足のキックを抑えてからは徐々に速球にもついていけるようになった。またこの冬は元パイレーツ内野手の姜正浩（カン・ジョンホ）と共にトレーニングを行っている。
もしくはジェイク・クローネンワースが二塁から遊撃にコンバートする可能性もあるが、彼自身も軽度の内転筋痛を抱えている。ただいずれにしてもキムとクローネンワースの二遊間コンビで開幕を迎えるだろう。
昨年大腿骨にヒビが入るまでマイナーAAで43試合プレーし.296/.363/.420/2HR/13SBと好成績を残した球団トッププロスペクトのC.J.エイブラムスも候補ではある。しかし彼もまた故障明けだ。アリゾナ秋季リーグでの肩打撲による欠場を余儀なくされていたため、実戦の勘を取り戻す必要がある。MLB5-6位のプロスペクトとはいえ、新人がその調整をメジャーで行いつつ結果を残すのは荷が重い。
今年の選択肢
FangraphsのZiPSに依るとキムがタティスの代わりにシーズン半分のレギュラーを務めると約2勝ほど勝ち星を失うため、88勝74敗でNL西地区2位、NLトータルで5位という予測になっている、とはいえ昨年の同予測は95勝に対し実際は79勝だったので鵜呑みには出来ないが、各リーグ3チームにワイルドカードが与えられる新ルール上でも結構ギリギリな状況ではある。
ここでぜいたく税を超える資金かプロスペクトを投入し遊撃手以外の打者補強をすべきか否かかという疑問が生じるが、私は補強をすべきだと思う。というのもマニー・マチャド、ダルビッシュ有、ブレイク・スネル、ジェイク・クローネンワース、ジョー・マスグローブ等タティス以外の主力戦力のピークと契約の区切りがここ1‐2年だからだ。よほど大舵を切って方向転換をしない限り、短期間でのチーム解体と再建は困難である。新しい労使契約によってタンキング自体が難しくなってくる。
金銭を費やせるなら、ここから鈴木誠也と並行して三塁マチャドが2年後オプトアウトするリスクを考慮しクリス・ブライアント獲得を目指すのも一つの手だ。ただその金銭捻出にはホズマーかマイヤーズのどちらかもしくは両方の放出が欠かせないだろう。そしてその放出トレードの代償によってはエイブラムスを出しても良いのではと思っている。球団トッププロスペクトかつ屈指のアスリートではあるがいかんせん遊撃のポジションはあと10年近く空く事が無い。そして将来ケニー・ロフトンやディー・ゴードンの様な俊足好守の好選手だが実質的なゲームチェンジャーではない見通しなら、もしろゴアやエイブラムスよりバットコントロールと長打力に優るロバート・ハッセル3世を残したい。もしエイブラムスがトレイ・ターナーの様にパワーを開花させてしまったらここでの評価を嗤ってほしい。
もしくはプレーオフ枠を12チームから20チームに増やす希望を通すために再びロックアウトを行うか。それが叶わないにしろ、プレラーは何らかの手を打ってくるだろう。昨夏のアダム・フレイジャー級では到底埋まらない穴を塞ぐために。
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