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【SD】2024年シーズン1/3ちょっと過ぎた頃のパドレス打者編
「嫌あああぁぁぁ!これだけ大金突っ込んでプロスペクト軒並み放出して補強したのに負け越してるうううう!高年俸球団なのに楽天でもパッとしなかったブランドン・ディクソンがDHイイイイ眼鏡白フレームゥゥゥ!」
これが昨年5月最終月曜日のメモリアルデーを過ぎ、パニックボタンを押した直後の様子である。今年も私とあなたと奥様方のサンディエゴ・パドレスがレギュラーシーズン162試合のうち3分の1を消化した。
開幕時に勝率5割ほどの戦力との下馬評だったが驚くなかれ、30勝29敗でほぼ勝率5割である。59試合日中17日が5割である。ここまで5割が多ければもう1割位足されても良さそうなものだがそこは50/50甘い罠中山美穂である。小室哲哉作品の中でも転調が多くDメロまである構成で、特にCメロのF-G-Em7-Asus4-AというAmキーのフレーズでお得意のSus4を挟みAメジャーに持って来るコード進行は絶妙な不安と期待を醸し出し彼のキャリアの中でも白眉の出来だ。まだ似通ったコード進行で小室ファミリーを大量生産しうんざりするほどヒットチャートを席巻する1990年代半ばより前の1987年ということもあり、名を売ってやろうという野心が窺える。田口俊の歌詞も楽曲の展開にマッチしたスリリングなリゾートのアバンチュールを描い20歳前後であるメイン読者層のお父さんお母さんにしか通じなさそうな'80年代アイドル歌謡曲の解説はこれ位にしてパドレスの方の5割に話は戻るが、得失点差もちょい浮き程度で幸運も不運の仕業もないピュアな勝率5割のチームである。
主役を食う脇役と食われる主役
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まずパドレスの主要打撃指標を見てみよう。左からパドレス指標、ナショナルリーグ平均指標、NL15球団中のパドレス順位だ(K%のみ昇順ランク)。
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開幕当初パドレス打者のfWAR予測は15球団中6位だったことを考慮すると、全体的に期待以上の成績を挙げているといえよう。特に目を引く指標はBB%(四球率)とK%(三振率)の低さだ。
今年からパドレスの打撃陣はアプローチを早打ちに変更している。初球のスイング率は昨年28.1%から32.5%に上昇。空振りが少ない点は昨年と今年で変わらないが、そもそも去年はSwing%がMLB30球団中最下位だった。ボール球を追わず四球を増やせる点は評価できたが、一方で打ち頃のど真ん中を振らないMeatball Swing%は73.7%でリーグワースト2位(平均76.5%)だった。それが今年は78.4%とリーグ平均77.4%を上回る数字になっている。その改善は振らずのグリシャムことトレント・グリシャムをフアン・ソトと共にヤンキースに放り出しただけで達成されたのではという嫌味はさておき、積極的なアプローチが功を奏しNL3位の高打率を叩き出しているとみてよいだろう。
一方でISO(SLG-Batting AVG.)が低い。つまり打率の割に長打が少ない。
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センター方向へのラインドライブが多いが、強い打球が出ておらずフライもそう多くない。前回noteで紹介した2023年度の打球の種類別特性は以下の通りだった
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ここからISOを算出するとフライは0.463でラインドライブは0.212だ。打率は高いが中速の打球が多く長打が少ないパドレス打線のプロファイルと合致する。
では高速打球とフライが少ない理由は何かというと、ひとつはフアン・ソトの不在だが、もうひとつは今でもパドレスでプレーする速い打球速度でフライを打つべき強打者がその働きを見せていないからである。2人の主砲
フェルナンド・タティス・ジュニアとマニー・マチャドの打球角度はそれぞれ9.9%と9.3%で、共にMLB平均を下回る。
.タティスは.249/.329.410/9HRと振るわないが、xwOBAは.372でwOBAより40ポイント以上高いのでもう少し打率が上向きになってもおかしくはない。2020-2021年シーズンほどの打球速度にはまだ戻り切ってはいない。引っ張りが減る一方で、流し打ちの割合が過去シーズン最多になっていることが要因だろうか。空振り率は過去最低で好ましいが、ダイナミックなスイングが影を潜めている。
マチャドはタティスより心配で、ストライクゾーンの内外を問わずコンタクト率がキャリア最低で、xwOBAは.315とリーグ平均程度だ。また内角高めで空振りが増え、ラインドライブで弾き返せていた真ん中以下のストライクゾーンにゴロが増えている。去年からコンタクトの質は下降傾向にあり、これがオフに手術したテニス肘の痛みや2年前の足首故障の影響なのか加齢による劣化なのかはたまた一過的なものかは分からない。先日2度目の靱帯断裂手術を受ける事となったアトランタ・ブレーブスのロナルド・アクーニャも1度目の手術以降はゴロ率が増加した。幸い打球速度に大きな変化はないので、いずれにしても復調が待たれる。
打つべき打者が打っていない割にチーム打撃指標が良いという事は打ちそうな気がしなかった打者が打っているという事になる。その筆頭は1年$1Mで再契約したまさかのジュリクソン・プロファーだ。元々良かったK%とBB%がさらに良化しつつHard Hit%が自己ベストという大躍進を遂げている。出来過ぎな増分を差し引いても打率3割前後は残しそうで、オールスターに選ばれてもおかしくはない成績である。慣れ親しんだパドレスへの復帰やタティスの親父にコーチしてもらったというそれ今に始まった話ではないじゃないのよという要因の他に、ビクター・ロドリゲス打撃コーチの提案で始めた先発投手の利き腕に限らず両打席の試合前練習も功を奏していると述べている。元々右打ちだったため、今までは左手が遅れて出ていたそうだ。ロドリゲスがガーディアンズでのコーチ時代にカルロス・サンタナ、フランシスコ・リンドーア等の優れたスイッチヒッターから得た知見が活きたのかもしれない。
ジェイク・クローネンワースもまたロドリゲスコーチの教えを受け、トス係が徐々に近づくとトスバッティングやネット際でのスイング練習を行うことで長すぎたスイングがコンパクトになり、ブレーキングボールを良く打てている。
対左投手の低迷は気にしない
ちなみに今年のパドレスは左投手が苦手である。.225/.297/.345で、90wRC+はNL15球団中12位だ。だがさほど憂慮はしていない。というのもパドレスの主力打者はタティス、マチャド、ザンダー・ボガーツ(左肩骨折で8月頃までIL入り)右打者であるからだ。
ご存知の通り一般的に右打者は左投手に強い。2023年MLB全右打者の対左右投手別wRC+は左106/右95だ。パドレスの打者もその例に漏れず、対左右投手別キャリアwRC+はマチャド左128/右120、タティス左153/右132、ボガーツ左131/右111だ。
もちろん左投手より右投手相手でより良い成績を残す右打者もたまに居る。だがそれは一時的なものであることが多い。The Book: Playing The Percentages In Baseball (トム・タンゴ、ミッチェル・リクトマン、アンドリュー・ドルフィン著)によると、ある右打者が左投手を苦手とする傾向が恒常的な特性であると判断できるまでには2,200打席を要するとされている(左打者は1,000打席)。逆に言えば、それ以前に満たない打席数から導き出された結果の数値よりもリーグ平均の方が対左右スキルの判断材料として信頼できるということでもある。
マチャドやボガーツは左打者相手の通算打席は1,800と1,600を超えた辺りで、タティスは500打席ちょっとだ。少なくとも前者2人は左右逆スプリットの打者ではないと見ておそらく間違いはないだろう。そして下記表のとおり今年の対左打者打席は多くても80打席に満たないので、今後を占うサンプル数としてはあまりに少ない。キャリアやリーグ平均に近い左右傾向に近づいてゆくのではと期待する方が妥当だろう。
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去年右投手が打てていないことが問題だったが、あれはフアン・ソト以外の左打者が打てていないこと原因だった。
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ちなみに今年のパドレス対右投手成績は118wRC+でNL3位だ。その改善はトレント・グリシャムをフアン・ソトと共にヤンキースに放り出しただけで達成されたのではという嫌味はさておき、マット・カーペンターやルーグネッド・オドーアがそれなりの打席数を与えざるを得なかったことも問題だった。
展望
開幕当初は外野手層が憂慮され、タティスとマチャドが不調、ボガーツが彼等を上回る不調のまま離脱という状況の割に全体的にはよくやっている。ただ現在好調のプロファーが今後も今の調子を維持できるとは考えづらい。ジャクソン・メリルに続くレギュラーを脅かすプロスペクトは今年は現れそうもないので、ここから更なる上積みを期待するならやはりタティスとマチャドの復調だろう。打撃陣は既にルイス・アラエズという大物を5月諸島に獲得しているため、ボガーツに続きよほどの故障者が出ない限り夏の打者補強にビッグネームの名は挙がらないだろう。たとえばカリフォルニア州の高い所得税率を嫌いホワイトソックスに行ったトミー・ファムとかだろうか。他にはソトと対照的にヤンキース移籍以降調子をさらに落とし出番が少ない外野手が居るらしいとか。
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